あとがき
これは、小中千昭個人の、ファンファンへの思いを書いたものです。
ふしぎ魔法 ファンファンファーマシィーには、多くのスタッフ・キャストが関わり、それぞれに幸せや、苦しみを抱いてシリーズを完結させました。その代表として記しているものではない事を、先に明記しておきます。
Version1.0 (1999/04/25)
1)はじまり
キャラクター・デザインの伊藤郁子さん、ぽぷりを演じた小西寛子さん、そして私の三人は、1996~7年にリリースされたビデオ・アニメーション『魔法使いTai!』で出会いました。
全6巻の製作が終わり、その完成記念イベントの為に私は小規模な自主映画を作りました。この作品には、伊藤さんも全面的に手伝って貰いました。その撮影の打ち合わせをしている時に、東映動画(現アニメーション)での新作の話を打診されたのでした。
魔法少女物で、原作がある。
そう言われて、この時の私はかなり及び腰でした。魔法少女アニメは、『魔法使いTai!』で存分にやれたという思いがありましたし、原作に縛られる作品は基本的に引き受けません。私は、映像で語れる“物語”を創りたい、と思ってシナリオを書いているからです。
しかし、『魔法使いTai!』で一緒に仕事をして楽しかった伊藤さんからの誘いです。企画の話だけでも聞いてみよう、と東プロデューサーと会う事にしたのです。
行ってみると、監督は貝澤幸夫さんだという事が判りました。
『とんがり帽子のメモル』での演出作品は伝説的だ、というのは知識で知っていました。けれど私にとっての貝澤さんは、『鬼太郎』の“夜叉”、あるいは『地獄先生ぬ〜べ〜』の“どどめ鬼”という、素晴らしくダークなファンタジーをものした演出家だというイメージが強かったのです。
是非貝澤さんとは仕事をしてみたい、と思って私はこの仕事を引き受けました。
2)企画の頃
『おひさま』誌に連載されている原作『ファンファン・ファーマシィー』は、読んでみると不思議な面白さの作品でした。極めてシンプルな設定と毎月の物語。コンピュータを駆使した独特なタッチのイラスト。
これをそのままテレビアニメにするのは難しい、とは誰しも思った事でした。
ではどうアレンジしていくか。
私が参加する以前の企画では、魔法の国から来た魔女の娘が、ふきこさんのお店で魔法修行をしていく――というものでした。原作にセミ・レギュラーで登場する女の子、なつみちゃんは、主役にするにはおとなしいデザイン、性格でしたので、そういうアレンジが考えられたのです。
私は、魔法の国から来る少女を主人公にするのは強硬に反対しました。ヒロインはあくまで普通の女の子にしたい。その少女の目線で描くからこそ、毎回登場するであろう、魔法がよりヴィヴィッドに描ける。そう信じていました。
議論を経て、貝澤さんは私の案に賛成してくれました。
こういう企画の場合、シリーズ構成という仕事はまず舞台設定やレギュラー・キャラクターを箇条書きにし、数話分のプロットを書くものですが、私はわがままを言って、まずサンプル・シナリオを書かせてほしいと提案しました。
原作物である以上、舞台設定はそれに沿うべきである。ふきこさんの在り方も、変えるつもりもない。となれば、10分という時間でどういう語り口が出来るのか、ヒロインはどういう言動をする少女なのか――、実際にシナリオに書いてみないと自分が見えてこないと考えたのです(これ以降、私は原作、原案がある作品ではこのやり方を続けています)。
各話解題でも書いた通り、最初に書いたサンプルシナリオは、ほぼ一話と同じものです。
ヒロインのネーミングは大難航したものの、どういうしゃべり口調をする子なのか、どういう思考をする子なのかは、私が当初想い描いたそのままです。もちろん、それから伊藤さん、そして貝澤さんそれぞれが「描いてみたい」と思う少女像に重なっていくのですが、それは数話経てからの事です。
私は、少女物の作品はそれまで書いた事がありませんでした。もともとが実写のホラー作品を専門にしている作家ですから、このシリーズを引き受けるべきか悩んだ理由もそこにありました。
しかし、私は少女向けの作品は好きだったのです。
ぽぷりを見て、連想した人も多かったと思うのですが、私の最初にイメージしたぽぷり像は、『赤毛のアン』のアン・シャーリーであり、『長靴下のピッピ』であり、更には『パンダコパンダ』のミミちゃんが元型です。尤も、ミミちゃんは『ピッピ』のイメージで創られたキャラクターらしいので、同じルーツだとも言えますが、少なくともアニメーションで元気よくはね回る少女――というルックが、私に「今、テレビで見てみたい」キャラクター像として浮かんだのでした。
これは繰り返し書いたり喋ったりしている事ではあるのですが、シナリオでは基本的に、極力生っぽいダイアローグを書くのが、私のトレードマークのようなものでした。私がシナリオを書き始めた頃、テレビや映画ではとても現実にそんなしゃべり方をする少年・少女はいない、という様なダイアローグで溢れていました。私がどんな作品でも基本的に描きたいものはただ一つの事です。日常に入り込んでくる、非・日常。それが恐ろしいものであれば、ホラーになります。巨大なものなら怪獣物、不思議なものならファンタジー。その、やってくる非日常を、驚きをもって見せるには、日常の部分がきちんとリアリティを持っていないと成立しません。ですから、私の書く作品では、キャラクターはまるでドキュメンタリの様に生々しいしゃべり方をさせていたのです。
しかし、この『ファンファンファーマシィー』のヒロインは、そうじゃない存在にしたい、と思っていました。
一つには、やはり同じ魔法を使う少女を描いた『魔法使いTai!』と違うものにしたい、という事でした。
しかし、魔女と出会って、自分も魔女になりたい! と思いこむ強さを持ったキャラクターは、それに相応しい突飛な発想をする子であるに違いありません。
“魔法の国から来た”訳ではないにしても、“どこにでもいる普通の子”でもない。それが、ぽぷりです。これが見えた時に、アニメ・シリーズ『ファンファンファーマシィー』のヒロインのイメージが決まったと言えます。
やがてすぐに伊藤さんのキャラクター案が出来ました。もう最初に描かれた少女が、既にぽぷりでした。
名前も、伊藤さんの出した案の中から選ばれています。
3)ファンファンを書く日常
第一話のサンプルを書いたのが98年の11月。それから一年以上に渡って、私は一人でファンファンのシナリオを書いていました。
当初は全てを書くつもりもなかったのですが、途中からは意地になっていた様です。そうそう毎週毎週、驚きの魔法なんて思いつけるとも思わなかったのですが、それはやっぱりその通りでした。
最初に苦しんだのは、四話『ぽぷりのさかなやさん』でした。
にこにこ銀座という限定された舞台で、魔法を驚きをもって描く――、そのスタンダードなお話を書かねばならない。そう自分に枷をはめて挑んだのですが、なかなか思いつきません。苦しんだ末に、魚屋さんが水族館になったら――というイメージが浮かんだのです。
これ以降、ファンファンの“お店屋さんシリーズ”は、書くのが楽しくなりました。
ファンファン以外にも、私は幾つかのシリーズを書いていました。スケジュールの必要から、1,2クール目では、幾度か一週間に三本分を書いています。流石にこれはきつい作業でした。その苦しみの中で生まれたのが『カメラのきもち』という、それまでのファンファンとは変わったテイストの、ウエットなファンタジーです。
このシナリオをとても気に入ってくれた貝澤さんは、大胆なアレンジをシナリオに加えてコンテにしています。
アニメーション作品では、シナリオはコンテで大幅に変わるもの――という常識みたいなものがあります。
私は、演出する人とコミュニケーションをしっかりとってシナリオを作りたい。コンテでシナリオが勝手に変えられてしまう事は、基本的には受け入れません。ですから一話から数話までは、「これだけ書けていればもうコンテに入れる」と言われながらも粘って、どこをどうしたいのかを聞き出し、決定稿にしていました。
すると、貝澤さんや五十嵐さんが、「尺が足りない」と嘆きはじめました。シナリオは、そのままコンテに出来る。しかし、自分が演出する上では、プラスアルファを加えたい。そうすると、長くなってしまう――。
当然の事でした。私はそれまでよりもやや短めにシナリオを上げる様に努力しました。
そうした事を経て出来た『カメラのきもち』は、ファンファンで最初に貝澤さんの持ち味が遺憾なく発揮された傑作になったのです。
以降、貝澤さんは、シナリオのネライ、根本の部分は尊重しながらも、ダイアローグも含めて自在にアレンジしています。私もそれが楽しみになっていました。
4)キャラクターたち あれこれ
にこにこ銀座の人々は、基本的に原作を踏襲しています。基本的なデザインまでも、伊藤さんは原作に拘って、自分なりのアレンジをしています。えびす町の地図も、伊藤さんが最初に作成していました(カメラ屋というキャラクターは私が作ったキャラクターです)。
パン屋には高校生の女の子がいる――というのが原作に書かれていて、実は『パンのきもち』の時にシナリオでは登場させているのですが、貝澤さんのコンテでオミットされてしまいました。伊藤さんはラフまで書かれていたそうですが、私は見ていなかった事もあり、以降、シナリオではパン屋夫婦に子どもはいないという様にしています(しかし最終話で、ぽぷりを見送る人々の中に、パン屋の娘を伊藤さんは登場させています)。
のんすけという、いつも犬を連れた幼児は、原作の、イラストでの隠れキャラクターです。名前も本文には登場しません。こののんすけを毎回出そうというのは、伊藤さんの案だったと思うのですが、貝澤さんは“ぽぷりの魔法をにこにこ銀座でただ一人、見えている存在”という捉え方を思いつき、なくてはならないキャラクターとなったのでした。
こののんすけを最も愛していたのが、ベテランの演出家、今沢哲男さんでした。今沢さんの担当する回でののんすけは、ほかの回よりもずっと存在感が強くなっています。
5)ラスト・シーンが近づいて
大ざっぱに、一年間のシリーズという事でスタートしましたが、ゴールデンタイムの番組は、スポーツやイベントなどの特別番組が入る事が多く、全部で何話となるのかはギリギリまで決まらないものです。ファンファンは、大事にストーリーを積み上げてきた事もあり、いい加減な終わらせ方はしたくありませんでした。
最終話をどうするか、については色々と紆余曲折がありましたが、それは各話解題の方を読んで戴ければ判ると思います。
終盤に近づくにつれて、シナリオの執筆はどんどん遅れ気味となっていきました。あれも書きたい、これも出来ると楽しかった前半とは、やはり書く生理が違っていた様です。
最初から、全てのシナリオを自分一人で書くという事は決めてはいなかったのですが、成り行き上、ここまでのところ一人で書き上げていました。
誰でもない、自分自身が納得出来る、シリーズを通した物語に至れるのか。
それが、最大のプレッシャーだったのかもしれません。
しかし、映像作品は多くのスタッフにより創られるものです。
最終話が完成した時、それを強く実感しました。
6)書き終えて
“最終回症候群”、と私が勝手に呼ぶ現象があります。
最初にそれに遭ったのは、『ウルトラマンティガ』でした。最終回を書き終え、オンエアがされてややするまでの間、激しい虚脱感に襲われて、何も書けなくなってしまうスランプ状態に陥るのです。
これは自分も苦しいですが、他に関わっている作品のスタッフにも大変な迷惑を掛けてしまう事になり、そうならない様にと自分自身のメンタル・コントロールをする努力をしています。
それでも、なる作品はやはりあって、この『ファンファンファーマシィー』でもまたそれが来てしまいました。
ぽぷりのダイアローグを、もう書けないのだな――と強く感じたのは、最終話を書いた直後ではなく、暫く経ってからの事です。その時、ちょっと涙が出ました。
でも、ぽぷりの“その後”は、是非書いてみたいし、何より私自身が観たい。
続編というのは難しいものですが、それでも、またぽぷりのダイアローグを書いてみたいのです。その機会を得られる様、やれる事はやってみようと思っています。
『ファンファンファーマシィー』は、それまでは「私が面白いと思うものが良い作品」という、それまでの私の基本的な考えからシフトして、本当に、今の子どもたちに見せたい、伝えたい気持ちや物語を書いてきた、その意味でも私にとっては特別な作品でした。
それでもWEBなどで応援してくれた、アニメ・ファンの方々の支持は、それ故にとても嬉しいものでもありました。
しかし、今度ぽぷりを描く時は、小学生の女の子、というターゲットではない、私本来のスタンスで描いてみたいと思っています。
繰り返しとなりますが、WEBでファンファンを応援して下さった皆さん、Webmasterの方、BBSなどに書き込んで下さった方、CGを描いて下さった方、そしてROMの方も含めて、この頁を読んで下さった方々に、心からの御礼を申し上げます。ありがとうございました。