ファンファンファーマシィー            その1            ま じ ょ の く す り や さ ん                    第6稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              97/12/10 登場人物 ぽぷり(仮)〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 西野 みすず〔ミーアの母〕(36) 八百まさのおじさん カメラ屋のおじさん ○にこにこ銀座商店街/午後 昼下がりの、まだ人通りのそう無い商店街。 突飛な服を着た女の子が、ぴょん、ぴょんと歩く。 ぽぷり「65ぉ、66ぅ、67ぃ──」 立ち止まり、脇の八百屋を見る。 ぽぷり「67歩目で八百屋さん、っと」 網皿にトマトを積んでいた店主、少女を見て 八百屋「らっしゃーい。トマト美味しいよ」 ぽぷり「(ニコッ)今日はいいの。今あたし、お店がどう並んで るか覚えているところなんだから」 八百屋「はぁん?」 ぽぷり「だってどのお店がどこにあるかって知らないと、いざお 買い物する時、順番決められないじゃない? パンを買 った後で缶詰なんか買ったらパンが潰れちゃうでしょ」 八百屋「お嬢ちゃん、この近くの子だっけ?」 少女、商店街の向こう側に立つマンションを指し ぽぷり「先週引っ越してきたの! この商店街って、にこにこ銀 座、っていうんでしょ!?」 八百屋「そうだよ。いつもニコニコにこにこ銀座でお買い物」 ぽぷり「それってステキ! いつもみんなニコニコしてるなんて ! じゃ、今度お買い物に来るわ!」 ぴょん、と歩きだして── ぽぷり「(振り向き)あたしはぽぷり! 覚えておいてねっ」 ─────────────────────── その先の商店街の道。 ぽぷり「99ぅ、ひゃーく!」       ぽぷり、ぴょんっと停止。 ぽぷり「ここが百歩目! 去年のあたしだったら、きっと百二十 歩目だったに違いないわ! ここが今のあたしの百歩目」 ぽぷり、見回す。塀が脇にあるだけで── ぽぷり「何ンにも目印になるものがないなんてつまんないな……。    (ふと下を見て)──!!」       ぽぷり、ガバッと屈み込み、ぐっと前の地面を覗き 込む。道路と配水溝の隙間に、奇妙な形の草が実の 房を二つつけて、ひっそりと生えていた。 ぽぷり「へぇんな形……。こんな草なんて見たこともないわ。(     ニコッ)でも、百歩目に生えてるんだもの、ただの雑草     な筈ないわ! (思案)そうね──ひょっとしたら、新     発見の植物かもー!」 ○ファーマシィー前 考え事をしてる時だけは歩いているぽぷり。 ぽぷり「そっかー。植物を研究する科学者もいいかも! あれ? 昨日ってあたし、何になりたかったんだっけ。パン屋さ ん? あっ違う!それは一昨日。えと、探偵じゃなくっ て──あたっ」 どん。ぽぷり、看板にぶつかる。 立ち止まり、きょとんとそれを見つめるぽぷり、 ぽぷり「(読む)ふぁんふぁん、ふぁーましぃー?」 看板の向こうに見えている、派手派手しい構えの店。 ぽぷり「わ、わわわわー」 口をあんぐり開けて見上げるぽぷり。 ぽぷり「こんなお店って見たこともないわ! 一体何のお店!?」 手書きの薬の絵のポスターや奇妙な飾りで彩られた 派手な入口。看板には店名が大書。 ぽぷり、ガラスの嵌まった古い木枠のドアを開けよ うとすると── ぽぷり「わ」 ぶぃぃん。自動ドアだった。 ○ファーマシィー店内 入ってすぐの辺りには、普通の薬局の様なショウ・ ケースや薬棚がある。 ぽぷり「なぁんだ。薬屋さんだったの。でも──」 ひゅん。薬棚の向こう、茶色の薬瓶を白い半透明の ふわふわしたものが持ち上げて宙を漂っていく。 視界の隅でそれを見たぽぷり、はっとなって見るが、 しーん……。 ぽぷり「い、今、何か飛んでたみたいな……」 ぽぷり、店の奥を見ようと背伸び。 ゴタゴタと物が一杯置かれていて雑然としている。 と──奥から女性の声が── 声  「あなたはそっち。あなたはあそこの棚ですわ。違うわそ こじゃなくって──」 猫の声「にゃあー」 ぽぷり、好奇心を抑えられず、奥に向かって音を立 てない様に、ぴょん、と歩きだす。 声  「ああもう、片付けってだからあたし苦手ですわ」 ぽぷり、小声で ぽぷり「こんにちはぁ?──あのー……」 見えてきた奥の部屋。壁には鍋や干した薬草、無数 の薬瓶がびっしり。 ぽぷり「──!!」 その中央でやや太った強烈な風貌の婦人が両手を必 死に振って、彼女の回りを飛び回る薬瓶の交通整理。 瓶を飛ばせているのは、ふわふわした精霊達。 ふとぽぷりの方を振り向く女性。 ふきこ「あら……」 ニボシ「(白衣のポケットから黒い子猫が顔を出し)にゃあ」 ぽぷり「……(目をまん丸にして)」 じっと見つめ合う二人。 瓶がシュッ、シュッ、と全て所定の棚に収まり、精 霊達はす、っと消えていく。 ぽぷり「──う、ああああ」 ダッ。いきなりぽぷり、踵を返して駆け出ていく。 ふきこ「(のんびりした口調)あっ、ちょっと?」 ニボシ「にゃあ?」 ドアを開ける音。 ○カメラ店       店主が望遠レンズ付きのカメラを手入れしていた。 と、外をぽぷりが駆けていく。 店 主「んん?(首を伸ばして『誰だっけ?』と覗く)」       ザザーッ。ぽぷりが急に戻ってきて店へ。 店 主「(微笑)いらっしゃい。おや、近所の子だっけ?」 ぽぷり「(息荒い)あっあっ、あたしぽぷりっ。一週間前に越し     てきたのっ。それより、あっあっあそこのお店!」 ぽぷり、後ろ手で路地を差す。 店 主「ふきこさんの薬局かな(微笑)」 ぽぷり「ふきこ、さん?──あの人って魔女なのよ!?」 店 主「(苦笑)ちょっと派手で変わってるけど、でも気のいい 人だよ。どんな薬だって出してくれるんだ」 ぽぷり「こんなに近くに住んでるのに気づかなかったの!?」 店 主「気づくも何も……、おや? ふきこさんがこの街に来た のはいつだったけか……?(思案)」 店主、望遠レンズ付きF2のファインダを覗き、フ ァーマシィーを見る。レンズに映る大きな目。 ぽぷり「これ貸してっ!?」 ぽぷり、カメラを手にとってファインダを覗く。 ─────────────────────── レンズ越しに見えるファーマシィー店頭。と、ふき こさんが内側から『ちょっとお休み中』の札を下げ て引っ込むところ。 ぽぷり「!! ほらっ! あの人よ!」 ─────────────────────── 店 主「(苦笑)確かにふきこさんは魔法が使えるかもしれない」 ぽぷり「えっ!?」 店 主「病気とかだけじゃないよ。困ってる人見ると、不思議な 程ピタリとどうすればいいかをすぐに思いつくんだ。時 にはお店にある変なものを出してね。魔法みたいだろ?」 ぽぷり「──でも……」 ○西野家のマンション/夜 ぽぷりの部屋に明かりが点いている。 ぽぷり「(オフ)──でねっ、でねっ、変な名前のお店があった の! ファンファン、ええと、なんだっけ……」 ○ダイニング 母親の遅めの夕餉。ぽぷりはもう済ませて、ダイニ ングに座る母親の前に惣菜を持ってきたりしてる。 みすず「(のんびりした口調)パパ、今夜も遅いんだって」 ぽぷり「(興奮してる)ねぇママ聞いてってば! 信じられる!?     薬の瓶がいっぱいいっぱいこうやって(湯飲みを手で飛     ばせる真似)──」 みすず「そうそうぽぷり、駅の向こうに発見したわよ(ニコ)マ     ーイの大好きなアイスクリーム屋さん。ぽぷり、アイス     クリーム屋さんになりたかったんだよねー」 ぽぷり「(口を尖らせ)それはもう二週間も前の事じゃない。も     ーママってばいっつもあたしの話を聞いてない」 みすず「(苦笑)御免御免。だってぽぷりのお話って、展開が早     くってついていけないのよぉ。ぽぷり、じゃあ今日は何     になりたいの? えっと、魔女だっけ?」 ぽぷり「(ハッ)魔女──」 ぽぷり、ドドドドッと部屋を出ていく。 ○ぽぷりの部屋 自分の部屋から窓を開けるぽぷり。 眼下に商店街。ファーマシーの電飾がほのかに光っ ている。 ぽぷり「──魔女になる? 魔女ってなれるの? なれるわよ、 だってホントにいるんだもの。そうよ! あたしきっと 魔女になりたいんだ!(嬉しい!)」 ○ファーマシィー前/翌日午後 午後の日差し。店前に駆けてくるぽぷり。 逡巡していたが決心して、ウサギ足のスニーカーを そっとドア前に踏み出す。ドアが開いた。 ○ファーマシィー店内 入ってきたぽぷり、深呼吸して── ぽぷり「(おそるおそる)こん──にちは……?」 ややして奥から出てくるふきこさん。 ふきこ「(微笑)ファンファン・ファーマシィーにようこそ。ど んなお薬が欲しいのかしら?」 ニボシ「にゃあ?」 ぽぷり「えっ? お薬って──」 ふきこ「そう。だってここは薬屋さんですのよ」 ぽぷり「(当惑)えーと、あっ、あたしお腹が痛くって、あと頭 も! えっとそれから足とかもだるいかもだし──」 ふきこ「(クスクス)それにしては随分元気一杯ですわね」 ぽぷり「あ……。(俯き)あのぉ、おばさん、じゃなくってふき     こさん、ですよね」 ふきこ「あたしの名前、知っててくれましたの。嬉しいですわ」 ニボシ「にゃあ」 ふきこ「この子はニボシっていうのよ」 ぽぷり「こんにちは、ニボシ」 ニボシ「にゃ……」 ぽぷり、上目づかいにふきこさんを見て ぽぷり「あの……、ふきこさん、魔女でしょ?」 ふきこ「(小首を傾げ)」 ぽぷり「あたし、すごくびっくりしたの。(段々テンション上げ) でもすごいって思った。でもでも、ホントに、あたしが ホントの魔女さんに会えるなんて思ってなかった! あ たし──」 ふきこ「魔法なんて、本当は誰だって使えるものなんですよ、( ウィンク)女の子だったらね」 ぽぷりの顔、みるみる輝いて── ぽぷり「あたしも魔法、使えるのっ!? あたしも魔女になれる!?」 ふきこ「ぽぷりちゃんだってとっくに魔法を使ってるじゃありま せんか」 ぽぷり「え……?」 ふきこ「ぽぷりちゃんは、ご両親がお仕事で忙しくって、ちっち ゃい時から一人で遊ぶのに慣れてた子。そうですわね」 ぽぷり「──どうして、そんな事……」 ふきこ「だからでしょう。他の子よりもぽぷりちゃんは、ちょっ とした事、例えば空の雲の形とか、風がささやく歌声と か、道に咲いている変わった草とか──、そんな事をス テキって思える子ですわね。違うかしら?」 ニボシ「にゃあ?」 ぽぷり「──」 ふきこ「それはとっても素晴らしい事なのですよ。魔法っていう のは、そういうものじゃないかしら。自分の気持ちをス テキって思える事ですわ」 ぽぷり「──(俯き呟く)やっぱり、目の錯覚だったの……」 ふきこ、ぽぷりのスカートに目をやり ふきこ「可愛いスカートね。ポケットがいっぱいついてて」 ぽぷり「あたし、大事なものはいつも持っていたいの。だからマ マにお願いして、ポケットをいっぱいつけて貰うの」 ぽぷり、ポケットの一つに手を入れて── ふきこの前に差し出す。掌の上にはあの変な形の草。 ぽぷり「昨日見つけたの。ふきこさんにあげます。きっとふきこ     さんだったら知ってると思った。だって(天井を見て)」 ふきこ「まあ! これは黒キミレですわ。ちょっと危険だけど、 いいお薬になりますの。外国に注文していたのになかな か届かなくて困ってましたの」 ふきこ、房の一つを指でつつく。 ぽんっ。房がはじけて、たんぽぽの種の様な無数の 種子がフワフワと飛ぶ。 ぽぷり「わぁっ」 種たち、何かぺちゃくちゃと喋りながらぽぷりの周 囲をくるくると飛び回る。 ぽぷり「こっ、この種たち、何か喋ってるみたい!」 ぽぷり、店内を歩きながら種と戯れる。 ニボシ、種たちを捕まえたがってる。 ふきこ「(目を丸く)この子たちの声が聞こえますのね……(ニ     コ)ぽぷりちゃんにはやっぱりお薬が必要みたいですわ」 ぽぷり「(振り向き)え……」 ふきこ「(微笑)何でも知りたがり病。いいお薬がありますのよ」 ぽぷり「え……でも……」 ふきこさん、もう一つの房を指で弾き── ふきこ「ポプリトンデトンデフワフワノフー!」 ニボシ「にゃーっ!」 と! ぽぷりの体の周りに飛んでいた種達が様々な 色の精霊に変身していく! ぽぷり「わ!!」 精霊達、ぽぷりの体を徐々に持ち上げ浮かばせる。 ぽぷり「わーっ!! わーっ!! あっあっあっあたし飛んでる!!」 店中の薬瓶もぽぷりと一緒にゆらゆらと宙を泳ぐ。 ふきこ「女の子はみんな魔女なんですもの(ニコニコ)」 ニボシ「にゃ」 瓶たちとまるでダンスする様に店内を泳ぐぽぷり。 広い店内を、駆け回る。ぽぷりの顔の横に、精霊たち が来て微笑みかける。笑い返すぽぷり──、楽しい!! ぽぷり「すごーいっ! ジェットコースターみたい! でも、で もでもこの方がずっと面白い!!」 ぽぷり、早くも精霊達の力を受け入れ、入り組んだ 店内を自在に飛び回っている。 ぽぷり「ファンファンファーマシィーはホントにホントに」   ○店外観 ぽぷり「(オフ)魔女の薬屋さんだったのね!」 ドアのガラス越しに精霊達の光と、ぽぷりや瓶のダ ンスが見える。                     つづく