ファンファンファーマシィー             その2             ま ほ う の こ び ん                    第4稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              97/12/10 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 風の精霊 ピンチィ 春の精霊 (注・今回はほんの顔見せです。本格的にはいずれ原作       にあるエピソードで登場します) パン屋のおじさん たばこ屋のおじいさん 写真屋さん やおひちのおじさん ○ファーマシィー外観/昼 ぽぷり「(オフ)あたしが引っ越してきたにこにこ銀座は普通の 商店街なんだけど、一軒だけ不思議な薬屋さんがあるの。 そのお店って──ふきこさんていう魔女がやってるの!」 ○ぽぷりの部屋/夜 ガバッとベッドから起き上がるぽぷり。 ぽぷり「ああもう眠ってなんてられないわ! 魔法がホントにあ るなんて、考えただけでもう!」 ぽぷり、夜の窓に向かってベッドから飛び出す。 窓を開けると、下には商店街の街灯が並び──、ひ ときわ明るくファーマシィーの電飾が瞬いている。 ぽぷり「魔法って何でも出来るのかしら! どんなことでも出来 ちゃうのかな!? あたしもすぐに使える様になれるのか な!?(わくわくわくわく)」 ひゅうううううう。冷たい風が吹き込む。 ぽぷり「わっ、さっむーい──!?」 ぽぷり、夜の空を凝視。 月の明かりに透けて、美しい女が風に乗って虚空を 舞い飛んでいるのが一瞬見えて──消えた。 ぽぷり「今の──誰っ!?」 ○にこにこ銀座/翌午前 ぽぷり、駆けてくる。と、途中で── ぽぷり「はっっくちょい!」 パン屋のおじさんが、『クロワッサン焼き上がりま した』の札を表に出していたところ。 パン屋のおじさん「(くす)風邪引いちゃったかい? 早く春が 来ればいいねぇ」 ぽぷり「パン屋さん、おはよう!」 パン屋のおじさん「最近越してきた子ってあんただろ」 ぽぷり「あたしの事ぽぷりって呼んで。じゃ今度買い物に来るね」 ぽぷり、ファーマシィーの方へ走っていく。 ○ファーマシィー/店内 ぽぷり「ふきこさん、おはよーっ!」 返事が無い。 と、ぽぷり、鼻をくんくんと鳴らして顔をしかめ ぽぷり「くっさーいっ。なあに?この臭いー」 ────────────────────── 店の奥に進むぽぷり。そこは調剤室。 大きな石鍋でぐつぐつ何かを煮詰めているふきこ。 ふきこ「ぽぷりちゃん、おはよう」 ニボシ「にゃっ」 ぽぷり「(来て)おは──これ、なあに!? 何を作ってるの?」 ふきこ「(悪戯っぽい笑み)魔法の種ですわ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「魔法の、種っ!? えっ、魔法って植物だったの!?」 ふきこ「(微笑)種っていうのは例えですよ。魔法は自然の中に もともとあるもの。この種はそれを形にしたものですわ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり、鍋を覗き込む。 ぽぷり「ふぅぅぅん──(鼻がもぞもぞ)くしゅんっ」 ふきこ「あらあら、風邪を引きましたの?」 ぽぷり「(ハッ)そうだ! あのねあのね!? 昨日窓を開けて夜 の空を見たら、綺麗な女の人が風に乗って飛んでいたの! あれって魔女なのかな!?」 ふきこ「さあ……。ひょっとしたら、春の精霊かもしれません。 今年の春はちょっと早めに来てくれそうですわ」 ぽぷり「春の精霊……」 ふきこ「春は、春の精霊の魔法で目が覚めますのよ」 ふきこ、鍋の前から離れて、薬棚のある方へ。 ちょこちょこと後をついていくぽぷり。 ぽぷり「魔法──ねっ!ふきこさん、あたしも魔法を使える様に なれるって言ったわね!?」 ふきこ「え? ええ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「教えて! あたしも魔法使ってみたいの! 魔法って何 でも出来ちゃうんでしょ!?」 ふきこ「そうですわね。でも、魔法がちゃんと言うことを聞いて くれる様になるまでにはお勉強が必要ですわ」 ぽぷり「魔法が、言うことを、聞く?」 ふきこ、瓶等が並んだ棚を見探し、奥から小さな丸 い瓶を選びだして ふきこ「ぽぷりちゃんにはこれくらいの大きさがいいかしら」 ぽぷり「(目をまん丸にして見入る)」 ふきこ、自分がしていたネックレスの一つを外して その瓶に通し、ぽぷりの首に下げる。 ふきこ「これはアルデルの小瓶。この瓶の中に魔法の種を入れて 調合すれば、魔法が生まれてきますのよ」 ぽぷり「魔法が種から生まれるの!? そんなお話、どんな本にも 載ってないわ! すごい!」 ○にこにこ銀座 ぽぷりがぴょん、ぴょんと楽しげに歩いてる。 胸にはアルデルの小瓶が揺れている。 たばこ屋のショウウィンドウに映った自分を見て立 ち止まり、自分の胸の小瓶に見入ってニコニコ。 と、老店主が顔を出し たばこ屋「可愛いペンダントだね。似合ってるよ」 ぽぷり「違うわ。これはアルデルの小瓶って言って、魔法を──     あ……」 ○フラッシュ/ファーマシィー店内 ぽぷりが自分のスカートのポッケの一つを広げ、そ こにふきこが色んな形の“種”を入れてあげながら ふきこ「アルデルの小瓶の秘密は、ほかの人には内緒ですわよ」 ぽぷり「どうして?」 ふきこ「魔法は、他の人がいるとびっくりしちゃうの」 ぽぷり「(怪訝)魔法が、びっくりするの……?」 ○たばこ屋前 たばこ屋「どうしたんだい? お嬢ちゃん」 ぽぷり「えっ? あっ、ううん。何でもないの。この小瓶を気に 入ってくれてありがとう!(駆けていく)」 ○公園 商店街の外れにある児童公園。今は他に誰もいない。 ぽぷり「どうして魔法がびっくりなんてするのかな。まあいいわ。 とにかくやってみなきゃ判らないわね。(ふと)でも、 どんな魔法を最初にやってみようかなぁ(思案)」 ○フラッシュ/ファーマシィー店内 ふきこ、屈んでマーイの眼前に迫力ある顔を突き出 し、掌に種を乗せて見せ ふきこ「どんな魔法を呼び出すかは、種の組み合わせで決まりま     すの」 ぽぷり「こんなに一杯あるのに、覚えられないわ」 ふきこ「それは、お勉強していく内に判っていきますとも」 ニボシ「にゃあ」 ○公園 ぽぷりはタコの様な形の遊戯具前にいて、ポッケを 探って幾つかの種を取り出す。 ぽぷり「どんな魔法がいいかな──。魔法らしい魔法──。そう だ! またあたし空を飛んでみたい! 今度はお空の下 で、もっと高く飛んでみたい!」 ぽぷり、小瓶の蓋をポン、と抜き小瓶に種を放り入 れ、蓋をして振る。 ぽぷり「マホウヨマホウヨウマレテオイデ!」 瓶の中が化学反応を起こし始めた。 ぽぷり「わぁ!」 ピカッ! 閃光。 おそるおそる目を開けるぽぷり。 瓶の蓋がもぞもぞと動いている。 ぽぷり「あれ……?」 ぽぷり、瓶の蓋をぽん、と抜くと── ピンチィ「しゅかしゅかーっ!」 細い瓶の口から、みゅーっと現れる人工精霊。 ふわふわとぽぷりの前に浮かんでいる。 びっくりしたぽぷり、ふらふらと後ずさり、タコの 遊戯具にペタリと座り込む。 ぽぷり「あなたが、魔法なの?」 ピンチィ「しゅかーっしゅー」 ぽぷりが手を広げると着地。耳を丸める。 ぽぷり「あたしの言う事、判る?」 ピンチィ「(判ってるんだか)しゅしゅーっ」 ぽぷり「あなたは──名前があるの?」 ピンチィ「しゅかしゅかっ、しゅーしゅしゅ」 ぽぷり「何言ってんだか判んないー。いいわ。あたしがつけてあ げる。うーんと、そうね、あなたはピンチィって名前よ」 ピンチィ「しゅーしゅ」 ぽぷり「あなたはどんな魔法になれるの?」 ピンチィ、耳をぱっと広げ浮かぶ。 ふわふわとぽぷりの回りを飛び── ピンチィ「しゅしゅしゅしゅーっ」 と! 強い風がぽぷりに吹きつけ、小さな竜巻が現 れて消えた。 ぽぷり「風……、(立ち上がり)風の魔法なのね!? 凄い! じ ゃあきっと、あたしを空に飛ばせてくれるに違いないわ! やっぱりあたし、魔女の才能があるみたい!」 ピンチィ「しゅかしゅか?」 ぽぷり「ねっピンチィ、あたしを空に飛ばせて!?」 一瞬、思案気にしていたピンチィ── ピンチィ「しゅかしゅかーっ!」 ピンチィ、砂場に飛んでいき、小さなバケツを必死 に持ち上げ始める。 ぽぷり「(がっかり)違うわよぉ! あたしだってばあたし! でも、あんなに小さい子じゃあたしを飛ばすなんて出来 ないのかなぁ……。ピンチィ!」 ピンチィ「しゅ?」 ぽぷり「(必死に手振り)あたし! あたしを飛ばしてっ!」 ピンチィ「しゅ……、しゅか! しゅかしゅかっ!」 ピンチィ、ひゅんと浮上。 ぽぷり「どうしたの? 何をしているの?」 ピンチィ、空できょろきょろと見回していたが── 風が吹いてきた。 ぽぷり「わ……」 ピンチィ、口をいっぱいに広げて風を吸い込む。 どんどんパンパンに膨らんでいくピンチィ。 ぽぷり「すごい! さすがは風の魔法ね!」 ぽぷり、手を広げ ぽぷり「さあ! あたしを空へ!」 ピンチィ「しゅーーーーしゅかーっっっ!」 閃光。 目を閉じていたぽぷり、ゆっくり目を開ける。 ぽぷり「……、え?」 目の前に大きなタコの遊戯具がが浮かんでいる。ピ ンチィが必死な顔をして持ち上げているのだ。 ぽぷり「ちょっ! 違うってば! それじゃなくってあたしを飛 ばせるの!」 ピンチィ「(懸命)しゅ……しゅかしゅか」 ピンチィ、聞かずどんどん遊戯具を虚空へ。 ぽぷり「あっ、待って!」 駆けだし追いかけるぽぷり。 ○商店街 ピンチィが持ち上げている遊戯具、五mくらいの高 さで商店街上空に。 慌てて駆けてくるぽぷり。 ぽぷり「どっ、どうしよう! みんなにあんなのが飛んでるの見 られちゃったら──」 買い物の主婦や子ども連れが歩いている。5歳くら いの幼稚園帰りの子ども、見上げ 子ども「あっ! ママ! ママ!(袖を引っ張り)」 母親は肉の吟味で振り向かず。 母 親「ちょっと待っててねー」 ぽぷり、声を絞りながら ぽぷり「ピンチィ! こっち戻ってってば!!」 ピンチィ、ひたすら頑張り遊戯具を飛ばし続ける。 ピンチィ「しゅ……しゅ……しゅかーっ」 と、呼び込みをしていた八百まさのおじさん。 八百ひち「さーさ安いよ安いよほうれんそたまねぎごぼうどんど ん買ってっとくれーい……ん?」 見上げるとそこは遊戯具。 八百ひち「なんだいありゃ」 段々街の人々が気づきだした。軒先から見上げる人 々。立ち止まって指差してる人。 ぽぷり「なんてピンチなのっ!?もー、あたしどうしたらいいの?」 焦りまくるぽぷり、見上げ──愕然。 ぽぷり「えっ?」 遊戯具を追い越すかの様に、ジャングルジムやブラ ンコ、公園の看板がひゅーっと飛んでいく。 目をぱちくりさせ、じっと見つめるぽぷり。 それぞれの下には白い精霊たちが力を合わせて持ち 上げていた。 遊戯具の下にも援助の精霊。 ピンチィ「(嬉しい)しゅかーっ」 街の人々、大騒ぎ。 八百屋「公園のもんばかりじゃねーかっ! 何が起こったんだ!!」 と、ブランコや遊戯具、段々高度を落とし── 人々の方へ。 人 々「わーっ」 慌てて左右に割れる人々。 ぽぷり「!! だめぇぇぇぇぇ!」 遊戯具たちは地面すれすれに飛ぶ。 ごおおおおおおおおお 凄まじい風が吹きつける。 ぽぷり「わっ!」 目を覆うぽぷり。 風が去り──、目を開け振り向くと── 遊戯具達は公園に下りていくところ。 街の人々と共に茫然と立つぽぷり。 たばこ屋「何だったんだろうか、今の……」 と、ふきこさんの声。 ふきこ「(オフ)山下ろしの春の風ですわよ」 振り向く街の人達。 ぽぷり「ふきこさん!」 にこやかにふきこさんが買い物籠を下げていた。 カメラ店主「春一番ですか。そんな時分になりましたかね」 ふきこ「ええ。風は気まぐれですものね。八百ひちさん、大根く     ださいな」 八百ひち「へいまいどーっ。ふきこさんならオマケしとくよっ」 街の人達、談笑しながらそれぞれの店に戻っていく。 ぽぷりはずっと公園の方を振り向いていた。 ピンチィや精霊たち、遊戯具を置いて空へ──。そ のまま虚空に消えていく。 ぽぷり「ピンチィ、もう会えないのかな……」 ふきこ「(微笑)また会えますとも。ぽぷりちゃんが魔法を使い     たい、って願えばですけど」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「(ニコ)そうなの。(空の向こうを見て)また会おうね ピンチィ。今度はちゃんと魔法を使ってあげる」 にこにこ銀座はまたいつもの賑やかさ。                     つづく