ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー               その4              ぽ ぷ り の さ か な や さ ん                     第3稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              97/12/10 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 魚まさ 魚まさの奥さん カメラ店主 たばこ屋 パン屋 八百ひち 水の精霊 シブ ○にこにこ銀座/早朝 まだ夜が明けたばかり。一晩降った雨が未だぱらつ いており、どの店もシャッターが降りている。 と、大きな傘がひょこんひょこんと通りを来る。 ぽぷり、道のあちこちに落ちている枯れ枝を拾い集 めている。 ぽぷり「やっぱりいっぱい落ちてる! 夜の風、凄かったもの」 空を見上げるぽぷり。 ぽぷり「雨の朝ってあたし大好き!──あっと」 再び枝拾いを始める。 ぽぷり「ほうきを作るにはまだ足りないわ! あたしのほうき!」 ぽぷり、集めた枝を束にしてくるくると回る。 ぽぷり「ピンチィの魔法でほうきに乗って飛ぶの! なんて素敵 ! ふきこさんに見せたいなっ。でもまだきっと寝てる わね。こんな早くに起きてる人なんて──」 ぽぷり、あれっ? と目を凝らす。 魚屋の前に軽トラが停まり、店主が荷卸し中。 ○魚まさ 魚まさの前に駆けてくるぽぷり。 ぽぷり「魚まさのおじさん、おはよう!」 魚まさ「! おやぽぷりちゃんだっけ? 雨なのに早起きだね」 ぽぷり「おじさんこそ、すごーく早起き。こんなに早く、お客さ ん来るの?」 魚まさ「(苦笑)そうじゃなくって、市場で魚を仕入れてきたん だ。市場はもっと早起きなんだよ」 ぽぷり「ふうん! そうなの」 魚まさ「(ぽぷりの手を見て)何持ってるんだい?」 ぽぷり「あっ、これ? ほうきを作ろうと思って……」 魚まさ「ほうきかい? ウチのを貸してやろうか?」 ぽぷり「ううん、大人用のほうきはいいの。子ども用のほうきっ て無いのよ。だから自分で作って──」 魚まさ「自分で作って?」 ぽぷり「それに乗って」 魚まさ「それに乗って??」 ぽぷり「(はっ)──(あはははは)えーと……」 と、そこに電話が鳴る。 魚まさ「はい魚まさ! おうおめぇか。うん、うん──」 ぽぷり、箱に入った新鮮な魚に見入る。 ぽぷり「お魚って綺麗ね……」 魚まさ「なっ、なに〜? 判ったすぐ行く!」 ぽぷり「ど、どうしたの?」 魚まさ「ウチの奥さんが未だ市場にいるんだけどよ、どうやらヨ ソのと間違えて持ってきちまったって──」 魚まさ、仕入れてきた箱をより分け── 魚まさ「かーっ、こいつかーっ!」 中にはタコばかりびっしり。 魚まさ「ぽぷりちゃん、悪いんだけどちょっとばかし店番してて くんないか」 ぽぷり「えっ!」 魚まさ「(懇願)こんなにタコばっか売れやしないんだよ。これ から市場に返しに行かなきゃ。なっ、頼む」 ぽぷり「──(ニコーッ)あたし、お魚屋さんになるのね!?」 ○にこにこ銀座商店街 雨が止み薄日が差しているが、人通りは少ない。 ○魚まさ ぽぷり、黒いゴム・エプロンを引きずりながら踏み 台に乗って、はちまきを頭に巻いて── ぽぷり「(すーっ)さーいらっしゃいいらっしゃーい! 新鮮と れたてのお魚はいかがですかーっ! おいしいお魚はい     かがですかーっ。朝ご飯にまだ間に合いますよーっ」 しーん。 ぽぷり「何でもありますよーっ。鰺に鰤にえーと鮭に──あっ今 日はタコはないんですけどーっ!」 しーん。 ぽぷり「今日はぽぷりがお魚屋さんでーす! どんどん買いに来     てくださーい!!」       しーん。 ぽぷり「(嘆息)こんなに早くお魚を買う人なんていないかな」 ほ、と嘆息し、はす向かいのファーマシィーを見て ぽぷり「ふきこさん、まだ寝てるのかな……。(空を見上げ)     雨も上がっちゃったのに……」 ぽぷりの顔、突如パッと明るくなり── ぽぷり、ポッケから魔法の種をひと掴み。 アルデルの小瓶の蓋を開けて中へ。 ぽぷり「ピンチィ、魔法でお客さんがいっぱい来るようにって出     来るかな。マホウヨマホウヨウマレテオイデ!」 ぴかっ! ぽよん! 出てきたのはぷよぷよと青い、魚の様な精霊。 シ ブ「ぷくぷくーっ」 ぽぷり「ピンチィじゃない……。あなたはどんな魔法なの?」 シブ、空中を泳ぎながら シ ブ「ぷくっ、ぷくっ、ぷくーっ」 ぽぷり「お水みたい……。あ、もしかして水の魔法かも! ねっ     そうなんでしょ!?」 シ ブ「ぷく」 ぽぷり「(思案)名前が必要ね。水の魔法さん、じゃ呼びにくい もの。──そうだ! あなたはシブよ!」 シ ブ「ぷくぷくーっ」 ぽぷり「でも、どんな魔法が出来るの? このお店に、お客さん がいっぱい来る様に、なんて出来る?」 シブ、ショーケースの魚を仲間と思っているのか、 しきりに近寄っている。 ぽぷり「もう、聞いてる? シブ!」 シブ、きょとんとぽぷりを見て── シ ブ「ぷくぷくぷくぷくーっ」 ぽぷり「え……?」 シブ、どんどん膨らんでいく。店の内部中いっぱい にまで。ぽぷり、店の外へ後ずさっていく。 ぽぷり「なっ、何をしてるの?シブ!ダメよ!」 魚まさの店内が青い水に満たされた。 ぽぷり「どっ、どうしよう──」 ぽぷり、はっと、背後のファーマシィーを見て── ○ファーマシィー店内 飛び込んで来るぽぷり。 ぽぷり「ふきこさんふきこさんふきこさん起きてーっ」 と、既にお化粧も済んだふきこが来る。 ふきこ「あらぽぷりちゃん、随分朝早くに起きたんですわね」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「あっ、良かった! もう起きてたのね! 一緒に来て欲 しいの! 魚まささんが──」 ふきこ「え……?」 ○ファーマシィー前 店から出てくるぽぷりとふきこ。 ふきこ「──でね、あたしそんな事になるなんて思わなかったか ら──あっ!」 魚まさを見て愕然。 近所の店主達が六〜七人、店の前に立って覗き込ん でいた。 ぽぷり「ど、どうしよう……」 ふきこ「あらあら、皆さん集まってますわね」 ニボシ「にゃー……」 ○魚まさ前 「おおー」という感嘆の声を上げて中を覗いている 八百屋、パン屋、たばこ屋、カメラ屋各店主ら。 後ろからふきこ達来て── ふきこ「皆様、おはようございます」 振り向く店主達。 たばこ屋「あ、ふきこさん、おはよう」 ニボシ「にゃー」 一 同「(口々に)おはようございます」 ふきこ「どうなさったんですか?(ニコニコ)」 カメラ屋「見て下さいよ、凄いんです」 後ろで顔を覆ってるぽぷり。 ぽぷり「ど、どうしよう……。お留守番をちゃんとしなきゃいけ なかったのに……あたし──」 八百ひち「こいつはたまげた趣向だ、魚まさの奴、洒落た事しや がるなぁ」 ぽぷり「──え」 目を上げるぽぷり、目がまん丸くなって── ぽぷり「すっ、すごーい!」 魚まさの店内に青い水が満ち、まるで水族館の様に 魚達が自由に泳ぎ回っている。 パン屋「凄い仕掛けですなぁ。しかし魚達の活き活きしてる事」 ぽぷり「そうよ! だって市場から来たばっかりなんだもの!」 たばこ屋「おやぽぷりちゃん、鉢巻きなんかして、今日は魚屋さ んごっこでもしてるのかい」 ぽぷり「ごっこじゃないの。あたし、魚屋さんよ!? 今、ちょっ     と魚まささん、市場に戻ってるの。あたしがお留守番」 カメラ屋「それにしてもどういう仕掛けなんだろう(感心)」 八百ひち「(唖然)かまぼこまで泳いでる……」 たばこ屋「しかしこれでは魚は買えないですなぁ」 あ、となってしょんぼりするぽぷり。 ぽぷり「せっかくいっぱいお客さん来てくれたのに──」 ふきこ「ぽぷりちゃん、鰺を一匹、あ、ニボシ、あなたのもいる わね。二匹くださいな」 ぽぷり「えっ? ふきこさん、だって──」 ふきこ「(ウインク)ぽぷりちゃん今日は魚屋さんなんでしょう? なら、お魚たちだって言うことを聞いてくれますわよ」 ぽぷり「──!」 ふきこ「(小声で)オサカナオサカナポプリノイウコトキケー」 ニボシ「にゃーっ!」 ふきこ、小さくポーズ。 ぽぷり「えっと──、鰺を二匹、ですねっ」 ぽぷり、水面に向かって手を広げ ぽぷり「鰺二匹おいでーっ」 ざばっ! 二匹な鰺が水から虚空に飛び出してくる。 ぽぷり「わ!」 いつの間にかふきこ、手に空のお鍋を持っていてキ ャッチ。 ふきこ「(ニコ)素敵な魚屋さんですわね!」 ニボシ「にゃあ」 たばこ屋「じゃあ魚屋さん(ニコ)、こっちには鰯をおくれ」 ぽぷり「はーい、いわしさーん!」 勢いよく飛び出す鰯が三尾。 八百ひち「おう! こっちにはシャケをどーんとくれ!」 ぽぷり「はーいっ! シャケさーん!」 シャケの切り身がざばっ! ぽぷり「しじみさーん」 ざばざばざばっ ぽぷり「いかさーん!」 ざばわわわんん ─────────────────────── 一般の買い物客達も集まって、魚まさは大繁盛。 ─────────────────────── その客達の姿、消えている。 一人、ふうっと安堵のぽぷり。 ぽぷり「すっかり売り切れちゃったわ。すごい! あたしがお留 守番している間に売り切れになっちゃったら、きっと魚 まささんが帰ってきたらきっと──(はっと振り向き)」 まだ水が店の中でたぷたぷ。 ぽぷり「(あわわ)びっくり、しちゃう……」 ぽぷり、水に近づき ぽぷり「シブーっ! シブーっ!? もういいわよ! 元に戻して ちょうだい!」 水の中に、僅かに見えるシブの目。 ぽぷり「(目を凝らし)どこにいるのかよく見えないわ。シブー! 返事してよぉぉぉぉぉ」 と、呼びかける内に体が前傾し── ぽぷり「あ、あああ、あああああ」 ざばん。ぽぷりの体、水の中に── ○水の中 そこは魚まさの店内、の筈。 しかしまるで、大きな海の中の様。 ぽぷり、ゆらゆらと手足を動かしている。 ぽぷり「あれ? ここって水の中、だよね……。でも息が苦しく ない……」 ぴょこん。眼前に目だけのシブ。 ぽぷり「シブぅ!(嬉しい) あれっ? どうして目だけなの?」 シ ブ「ぷくぷくー」 ぽぷり「あ──そっか。この水って、ぜんぶシブなのね? シブ の中にあたし、いるのね!?」 シ ブ「ぷくぷくぷくーっ」 ぽぷり、泳ぎ始める。 ぽぷり「わーっ! 何か面白ーい。お店の中なのに泳げるなんて」 ぽぷり、楽しそう。 店から、奥の居間へ── 日本の民家らしい居間をゆらゆらと泳ぐぽぷり。 再び店の方へ── と、車の音が遠くから微かに聞こえる。 ぽぷり「!」 ぽぷり、店の外に面した領域に接近。 ゆらゆらとゆらめく景色の中で、魚まさの軽トラッ クが近づいてくるのが見えた。 ぽぷり「あっ! 魚まささんが帰ってきた! シブ! シブ!」 必死にぽぷり、シブの目を探す。 ぽぷり「どこ!? お願い、早く元に戻して!」 シ ブ「ぷくっぷくーっ」 ぽぷり「(迫る車を見て焦る)ああっ、もうすぐそこに! どっ、     どうしよう!!(焦りまくり)」 と、突如ぽぷり、虚空に── ぽぷり「え?──」 床に落ちて尻餅。 ぽぷり「いったーい。あれ、どうしたの?(振り向く)」 店の中一杯だった水、青い大きなボールになって裏 の方へ出ていく。 ぽぷり「シブ? どこ?」 魚まさ「(オフ)ぽぷりちゃんすまなかった──」 はっと振り向くぽぷり。魚まさと奥さんが呆然と立 っていた。 魚まさの奥さん「ぽぷりちゃん? これは──」 魚まさ「店にあった魚は──」 ぽぷり「(にこッ)ぜーんぶ売り切れちゃいました!」 顔を見合わせる二人。 と、二人の向こうの水たまりからひゅーっとネッシ ーの様に首を伸ばしてシブがぽぷりを見ていた。 ぽぷり「(小声で)ありがとう、シブ!」 魚まさ+奥さん「ん?(振り向く)」 ちゃぽん。シブ、水の中に消えていた。                     つづく