ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー               その7                 ま ほ う は す て き                      第2稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              97/12/18 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 パン屋のお兄さん 風の精霊 ピンチィ ○空       雨雲が消えて──陽光が差し込む。 ○ファーマシィー前/朝 『今日はちょっとお休みです』 の札が掛かったドア前のぽぷり。手製ほうきを手に。 ぽぷり「あれえ、ふきこさん、どこに行っちゃったのかなぁ。せ っかくほうきが出来たから、飛び方を教えて貰おうって 思ったのに……」 ぽぷり、店前から離れ、ふと空を見る。 店の裏からほうきに乗ったふきこが飛び去っていく。 ぽぷり「わっ! わわわ! ふっ、ふきこさん!」 と、通りかかった花屋のお兄さん。手に届け用花束。 花 屋「ん、どうしたんだい?」 ぽぷり「えっ!? あ、お花屋さん!(ちょっと顔を赤め)えと、 ううん、何でも──」 花 屋「(空を見上げ)やっと雨も止んだね(去る)」 ホッとして空を見るぽぷり。既にふきこの姿無く。 ぽぷり「(呟く)ふきこさん、大胆だなぁ……。(くすっ)よー     っし、あたしも──」 ○ファーマシィー裏 手入れの行き届いたハーブ等の鉢がいっぱいデッキ に並べられている。軒先から雨雫がぽつぽつと落ち。 ふきこの派手な傘が広げて干してあった。 ぽぷり「(来て/くすっ)ふきこさんの傘、大っきいっ!」 デッキの向こうには生い茂った林。 ぽぷりがほうきを足に挟み、アルデルの小瓶を手に ぽぷり「あたし、飛びたいの! 魔女なんだもの、ほうきに乗っ     てふきこさんみたいに飛びたい! だから出てきて、ピ ンチィ。マホウヨマホウヨウマレテオイデ!」 ぴかっ! ぽよん! ぽぷり「ピンチィ!」 ピンチィ「しゅかしゅかーっ」 ぷかぷかと浮いているピンチィ。ぽぷり、嬉しい。 ぽぷり「きっと出てきてくれるって思った。風の魔法なのよね、 ピンチィ。あたしを風に乗せて。飛ぶの、こうやって」 ぽぷり、手で飛ぶ仕種。 ピンチィ「しゅーしゅーか(判ってるんだかいないんだか)」 ぽぷり「こうだってば」 ぽぷり、ムキ。 ピンチィ「しゅーかしゅーかしゅー」 ピンチィ、勝手にデッキの周りをぷかぷか飛ぶ。 ぽぷり「もうっ! 聞いてるの?ピンチィ! ちゃんと魔法にな ってよぉ!」 ぽぷり、ほうきにまたがったままデッキを走り回る。 ピンチィ、わざとではないのだけど逃げてる感じ。 ピンチィ「しゅかしゅかしゅーしゅー」 ぽぷり「ピンチィってば! ねえ!──あっ、わわっ」 ぽぷり、鉢の一つに足を引っかけ──、 ぽぷり「わわわわー」 デッキの手すりから落ちそうになるぽぷり。 ピンチィ「しゅかーっ!」 瞬間的に風を吸い込み大きくなったピンチィ、ぽぷ りのほうきの穂を大きく膨らませて持ち上げる。 ぽぷり「──えっ……」 ぽぷり、ほうきにしがみついたまま浮いている。 ぽぷり「!(満面に笑み)やったぁ! 飛んでる! あたし飛ん でる──ぅぅぅってでも……」 ずるずるずる。極端な前傾姿勢。 ぽぷり「ぴっ、ピンチィ! これじゃあたし──、ああ、あああ」 どてん。 ぽぷり「いったーい。ピンチィ!」 しゅーっ。ピンチィ、小さく戻り、ほうきは林の方 に落ちていく。 ぽぷり「あーん、せっかく作ったほうきなのにぃ! (嘆息)と りに行かなくっちゃ……」 と、突如ピンチィの動きが激しくなる。 ピンチィ「しゅかしゅか! しゅかしゅか! しゅーしゅしゅ!」 ぽぷり「え?なあに? 何言ってるのか全然判んないわ!」 ピンチィ「しゅかーっ!」 ぽぷりの髪が揺らいだ。 ぽぷり「──?」 ひゅうううう! 強い風が吹いてきた。 と、干していた傘が転がりながら手すりの方へ。 ぽぷり「あっ! ふきこさんの傘!」 慌ててとろうと走るぽぷり。 もう少しで飛ばされそうだという間際──、 ぽぷりの手が柄をキャッチ! ぽぷり「(ほっ)」 ピンチィ「しゅっかーっ!」 ぽぷり「え?」 ピンチィ、風を大きく吸い込んで大きくなり── 傘の内側に入った! ぽぷり「え? え? あわわわわわ」 上昇していく傘。ぽぷり、必死にしがみついている。 ○林 木々の合間をふわふわ飛ぶ傘。 ぽぷり「ちょっ、ピンチィ! 何してるの!? これは傘よ!? ほ うきじゃないわ!? こんなの変よぉぉ!」 ピンチィ「しゅっかー」 ピンチィ、なんかウキウキ。 ぽぷり「傘で飛ぶなんて──、あ、そう言えばこの前、植木屋さ んを助ける時にも傘って使ってたっけ……」 ぽぷりの傘、どんどん上昇──。 ○林上空 ぽぷり、不安定な態勢を立て直し、しっかりと柄に しがみついた。 ひょいひょいと木々の上に出る傘。徐々に上昇。 ぽぷり「これでも、飛んでる事には変わりないわよね……。(段 々と笑みが)──飛んでる──、あたし飛んでる!」 振り向くぽぷり。 にこにこ銀座が向こうに。 ぽぷり「もうこんなに高い! 凄い! 凄い凄いー!」 ピンチィ「しゅか、しゅか」 眼下を流れていく木々──徐々に小さく。 ─────────────────────── 数十mまでも上昇するぽぷり。 ぽぷり「傘で空を飛ぶ魔女なんていたかしら。でもでも、これっ てすごーく面白い! パラシュートの逆だもの! あ、 あたしパラシュートで空から下りた事なんてないけれど、 でもこんなに楽しくはないと思うわ!」 ぽぷり、深呼吸。 ぽぷり「うわあ、高いところの空気って美味しい! 胸にすーっ って溶け込んでくみたい!」 ピンチィ「しゅーしゅしゅーしゅ」 ぽぷり「ピンチィ、こうすればあたしも飛べるのよね!」 ピンチィ「しゅ……」 ピンチィの目、きょろきょろと見回している。 ぽぷり「どうしたの?」 ピンチィの体、徐々に小さくなっていく。 ぽぷり「あ! ピンチィが小さくなっちゃう! ど、どうして!?」 しーん……。 ぽぷり「!? 風! 風が無くなってる!」 ピンチィ、どんどん小さくなっていき、それに伴い ぽぷりも降下。 ぽぷり「わーん! ピンチィ、もうちょっと頑張って! そんな に早く小さくなっちゃったら、たら、たら──あああ」 ひゅーん! 落下していくぽぷり。 ぽぷり「ピッ、ピンチィィィィィィ!」 ピンチィ「しゅかーっ」 ピンチィ、小さい体にはなってしまったが、必死に 傘を持ち上げんと頑張る。モコッと盛り上がる傘。 ぽぷり「魔法だったら何でも出来る! ピンチィ、頑張って!」 ピンチィ「しゅぅぅぅぅ」 降下速度は早まるばかり。段々森の木々が近くなっ       ってくる。 ぽぷり「(ハッと下を見て)わ! このまま落ちたら大変! ピ ンチィ、お願い!!」 ピンチィ「しゅ……」 ピンチィ、力尽きて──、一瞬光に包まれ、大気へ 拡散して消えた。 ぽぷり「ピンチィ!!」 必死に傘につかまるぽぷり。 ぽぷり「も、もう一度魔法を──」 しかし傘をつかむのに精一杯。 ぽぷり「魔法だったら──何でも──」 バッ! 傘がオチョコになってしまう! ぽぷり「きゃあああああああああ!!」 ○森の中 ぽぷり「わああんんんん」 ばさっ! 木々の枝枝に引っ掛かりながら、くるく ると回りつつ──、着地。 ぽぷり「いったぁぁぁぁい」 おしりを打ったらしい。しかし何とか立ち上がり ぽぷり「(ぷんぷん)もう!ピンチィったらどうして言うこと聞 かないの!? あたしいつまでたっても魔女なんかに──」 ザザッという音に、はっと見回すぽぷり。 鬱蒼と木々が生い茂り、苔で深い緑に覆われている。 動く者の姿はなく── ぽぷり「な、何かいるの……?」 見上げるぽぷり、木々が覆い被さり青空は僅か。 ぽぷり「(脅え始める)こ、ここ、どこ……?」 歩き始めるぽぷり。 抑圧してくる濃密な緑──。 ぽぷり「にこにこ銀座からどれくらい離れてるの……?」 ササ……。また何かの気配。 はっと振り向くぽぷり。 ぽぷり「だ、誰もいる訳ないわ、こんな森の中に」 しかし──、木々と木々の隙間の陰に、黒いものが 蠢くのが見えた──。 ぽぷり「な、なによぉ……。誰かいるなら出てきてよ!」 ザワザワザワザワ……。言葉にならない囁き声がぽ ぷりを包む。 ぽぷり「やっ、やだぁっ!(涙が零れだす)」 駆け出すぽぷり。倒れた枝に脚を引っかけても尚、 必死に走る。 ぽぷり「はあっ、はあっ、はあっ、はあ」 ざわざわざわざわ……。見上げるぽぷり。 木々がどんどん覆い被さってくる様に見える。 ぽぷり「まっ、魔法が使えたら──、あたし──あたしだって魔 女なんだからぁぁっ!」 と! 前方の木々が突如左右に割れ、眩い光がぽぷ りに差し込む! ぽぷり「!」 眩しさに目を細めたぽぷり、ゆっくりと目を開ける。 そこは── ○草原 裏山の裾野に広がる草原。 ぽぷりとふきこが向かい合って立つ。 ぽぷり「ふきこさん……ありがとう……。あたしとっても怖かっ     たの。森の中に、誰もいない筈なのにまるで──」 ぽぷりの掌に、小さな花をつけた草の束を乗せ ふきこ「向こうの山でしか生えないお花を摘みに行ってましたの」 ニボシ「にゃあ」 じっと花を見つめるぽぷり。片手には壊れた傘。 ぽぷり「──綺麗……」 ぽぷり、小さな裏山を見る。 ふきこ「今日花が咲いたと、森の魔法が教えてくれたのですわ」 ぽぷり「──魔法なら何でも出来る、ってそう思ってたのに」 ふきこ「(小さく笑い)──ぽぷりちゃん、魔法だってそれぞれ の力の限りはありますのよ」 ぽぷり「──あたし、魔法の事ってよくわからなくなっちゃった。 魔法って何なの? 魔法ってどこから来るの?」 ふきこ「ぽぷりちゃん、いままでどんな魔法と出会いました?」 ぽぷり「(思案)ピンチィ、シブ、グリム、リック……。(はっ)     風──、水、木の葉、それに光……。(ふきこを見て) 自然に、あたしの回りにあるもの……?」 ふきこ「魔法は、自然にあるものなのですよ、ぽぷりちゃん」 ぽぷり「でも、あたし全然気づかなかった……」 ふきこ「森の魔法は、ぽぷりちゃんに気づいて欲しいって思って     たようですよ」 ぽぷり「えっ!? あ……じゃ、さっき森の中のって……」 ぽぷり「でも、でも、あたし全然知らなかった。自然にそんな魔 法の力があったなんて……。そう、そうなんだ……」 ばっ、と駆けだすぽぷり。 草原の中に立ち、見回す。 流れる雲──、風が草とぽぷりの髪を優しくそよが せる。 ぽぷり「──魔法って、こんなにあたしの近くにあったのね……」 ふきこ「ご覧なさいな、ぽぷりちゃん」 ぽぷり「え……?」 ふきこが指を差しているのは──山の向こうにかか った大きな──虹。 ぽぷり「! わあああ!」 ふきこ「自然の中には不思議な事っていっぱいあるのですわ」 ぽぷり「──虹の中が──キラキラ光ってる……」 ふきこ「昔の人は、自然の中にある魔法の力を、知らず知らずの     内に上手に使っていましたのよ」 ぽぷり「──素敵!」 ふきこ「綺麗ですわね……」 ぽぷり「(ふきこを見上げ)ううん! 素敵なのはふきこさんの 事よ!」 ニボシ「にゃ?」 ぽぷり「あたし何となく魔法って判ってきた気がする! まだま だあたし全然上手に使えないけど、でもでも、あたし絶 対ふきこさんみたいな魔女になるわ!」 にっこりとぽぷりを見つめるふきこ。 ふきこ「さ、ニコニコ銀座へ帰りましょう。お店をあんまり空け てたら困る人がいるかもしれませんですもの」 ぽぷり「うん!」 二人を優しい風が包む。ぽぷり、はっと見上げ── ぽぷり「──今だったらあたし、ピンチィをちゃんと魔法にして あげられるかもしれない!」   見守るふきこ。   ─────────────────────── ぽぷり「マホウヨマホウヨ、ウマレテオイデ!」   ぴかっ! ぽよん! ピンチィ「しゅかーっ!」   ばっ。傘を広げるぽぷり。 ぽぷり「ピンチィ、行こう!」 ピンチィ「しゅかしゅかっ!」   風を一杯に吸い込んだピンチィ、ぽぷりが広げた傘   中に。   浮かび上がるぽぷり。既にほうきで上空にいるふき   この方へ。  ぽぷり「ふきこさーん!」 ふきこ「さ、おいでなさいな、小さな魔女さん」   二人、森の向こうへ。そこはにこにこ銀座のある街。                       つづく