ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー               その8         に こ に こ ぎ ん ざ の お は な み                      第2稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              97/12/24 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 春の精 緑と地の魔法 グリム 花屋のお兄さん にこにこ商店街青年会 たばこ屋 八百ひち 魚まさ 魚まさ妻 パン屋 パン屋妻 カメラ屋 植木屋 ○公園/午後 ぽぷり、ぴょんぴょんと飛び石する様に公園の中を 駆ける。枯れ木に語りかける様に── ぽぷり「なーにか素敵な魔法を使いたいなーっ」 あ、とぽぷり、足を止める。 木立の茂みに、緑色のコートを着た若い女の人が屈 み込んで何かを見探してる様子。 ぽぷり「(駆け寄り)何か探しているの?」 女  「え……?(怪訝な顔で振り向き)」 ぽぷり「(見惚れ)うわー、なんて綺麗な人……」 女  「あたしの事、見えているの?」 ぽぷり「見えるわ。それにお話しだってしているじゃない」 女  「(微笑)そ、そうね、お話ししているくらいだもの、見 えているわよね」 ぽぷり「何かを落としたの? 一緒に探してあげよっか。あのね! あたし無くしたものを探すのって得意なのよ! ウチの ママお財布の置き場所とかすぐ忘れちゃうんだけど──」 女  「あ、ううん。違うの。落としたんじゃなくって……」 ぽぷり、あっ、と見入る。女がふっと触れた低い枯 れ木にふわっと芽が出たのだ。 ぽぷり「(ハッと女の顔を見て)あれ……、お姉さん、あたし前に (想起)、何だか見た事あった──」 花屋の声「よーし、じゃあどんどんやっちまおう」 ぽぷり、声の方を見て── ぽぷり「あっ! お花屋さんのお兄さん達だ! ねっ、みんなで     一緒に探せば──(振り向く)あれ……」 そこにいた筈の女がいない。 ぽぷり「あれぇ? 変だなぁ。だって今ここに……」 花 屋「やあ、ぽぷりちゃん」 ぽぷり「こんにちは! みんな、これからここで何するの?」 若い男達、仮設テントや横断幕、提灯、ゴザ等を搬 入してきたところ。 花 屋「これからお花見の用意をするんだよ」 ぽぷり「お花見! すごーい! いついつやるの!?」 花 屋「それが、今夜なんだ」 ぽぷり「え、今夜……?」 ぽぷりと花屋、木々を見回す。 ぽぷり「まだ桜、咲いてないわ」 花 屋「うん、でも今日じゃないとダメなんだ。この公園の桜は、 にこにこ銀座の創立記念に植えられたんだって。だから 毎年その日を記念してお花見をしてるんだ。いつもの年 ならとっくに満開なんだけど……」 ぽぷり「お花屋さんだったら、何とか出来ない?」 花 屋「(苦笑)無理だよそんなの。魔法でも使えれば別だけれ     どね。(背後の仲間に)じゃ、始めようか」 ぽぷり「!(ニマニマニマ)そうよね! そんな魔法があったら 素敵よね!」 花 屋「(振り向きながら)そうだね……あれ?」 もうぽぷりの姿はそこにない。 ○公園/木立の奥 そっと木陰からのぞくぽぷり。 向こうでは若い衆が提灯を下げたり、横断幕を張っ たりしている。 ぽぷり「(小声で)魔法でお花を咲かせて上げるからねっ!」 アルデルの小瓶に魔法の種を入れ── ぽぷり「緑の魔法はグリムだったわね。ちょっと気難し屋さんだ ったんでちょっと心配。でも、きっと──、マホウヨマ ホウヨウマレテオイデ!」 ぴかっ! ぽよん! グリム「かぷちかぷちかぷ(偉そうにそっくり返る)」 ぽぷり「わっ! 良かった! ちゃんとグリムが出てきてくれて。 ね、グリム。この間は全然言うこと聞いてくれなかった けれど、今度は大丈夫よね」 グリム「かぷ……」 ぽぷり「見て! もう春なのに、桜が全然咲かないの。あなたは 緑の魔法なんでしょう?」   ぽぷり、手を一杯に広げて── ぽぷり「お花を咲かせて!」 グリム「かぷちかぷちぷちぷち」 グリム、ヘナヘナと薄っぺらい横を見せて飛ぶ。 ぽぷり「あっ、待って!」 グリム、桜の木の一本の先に止まる。 ぽぷり「お花を咲かせてくれるのねっ! いっぱいによ!(手を     広げ)」 駆け寄ってくるぽぷり。 グリム「かーぷーちー(身をぷるぷる震わせ)」 ぐわにょ〜ん。巨大なラフレシアの如き花がドカン と桜の木に現れる。 ぽぷり「ええっ!? そ、そうじゃないってば! 大きなじゃなく って、いっぱいに──」 はっ、となって振り向くぽぷり。 唖然と立って花を見ている花屋達。 蕎麦屋三代目「なっ、何だこれ」 自転車屋バイト「でっけー」 ぽぷり「あっ、あの……これ……」 花 屋「ふうむ、これは南洋の植物だね。どうして種子がここま で飛んできたかは判らないけど、ブラジルの森林ではこ んな風に生えるんだよ」 ぽぷり「そ、そうなの……」 花 屋「後でじっくり観察しよう。ぽぷりちゃん、よく見つけた     ね」 ぽぷり「あっ、うん……」 花 屋「さあ、じゃ早いところ作ろう」 自転車屋バイト「ほーい」  その場から去る青年達。 ぽぷり「(嘆息)──、(見上げ)もう、グリムったら……」 枝の先で風になびいていたグリム、ぽよんと消える。 ぽぷり「何て無責任な魔法なのっ!? もう……。やっぱりふきこ さんに聞いてみなくっちゃ」 ○ファーマシィー/調合室 ぽぷりの前のカップに、ティーが注がれる。 ぽぷり「(匂いを嗅いで)ふわ〜、不思議な香りー!」 ふきこ、自分のカップにも注ぐ。 ふきこ「試しに作ってみた春のハーブ・ティーですの」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「いただきまーす」 ぽぷり、ふうふうと湯気を吹いて、そっと飲む。 ぽぷり「──(段々情けない顔に)う……」 ふきこ「どうですか? ぽぷりちゃん」 ニボシ「にゃ?」 ぽぷり「う、うん、凄く、不思議な味……」 ふきこ「これを入れたら、もっと美味しいかもしれませんわ」 瓶詰めのマーマレードをスプーンですくってぽぷり のカップに。 ぽぷり「マーマレード?」 ふきこ「(にっこり)さ、どうぞ」 ぽぷり「(飲んで〜みるみる顔が明るくなり)おーいしい!!」 ふきこ、座ってドライのままティーを飲む。 ふきこ「(微笑)みなさんの楽しみにしていたお花見ですものね。 私もお料理を持っていきましょう」 ぽぷり「わー! ふきこさんのお料理!!」 ふきこ「ではちょっと早いですけれど、今日はもう閉めましょう」 ぽぷり「じゃ、あたしがお店閉めてくる!」 ぽぷり、部屋を飛び出す。 ○ファーマシィー/ドア近く ぽぷり、ガラス戸に『今日はもうおしまいです』の 看板を下げ、カーテンを引こうとしたその時── ぽぷり「!」 ふわり、と瞬時に虚空からドア前に降下してきた、 緑のコートの女。コンコンとガラスをノック。 ぽぷり「(あんぐり)」 女  「あなたがファンファンファーマシィーの魔女さんだった のね!?」 ぽぷり「この人……」 ○フラッシュ/2話 夜、マンションの窓から夜空を飛ぶ女を見るぽぷり。 ○ファーマシィー/ドア近く ぽぷり「春の精……」 春の精「欲しいものがあるの! お願い!」 ぽぷり「(はっ)す、すぐ開けるわ!」 ○同/調合室 春の精を囲むふきことぽぷり。 春の精「目覚まし草、ありますか?」 ふきこを見るぽぷり。 ふきこ「ありません。目覚まし草は千年に一本しか見つからない んですもの」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「そんなに珍しいの!」 春の精「困ったわ。ここの公園の桜だけ、目覚めさせるのを忘れ てたの(額を抑える)」 ぽぷり「桜って、春の精が目覚めさせるものだったの! びっく り! ね、どうやって目覚めさせるの!?」 春の精「春を知らせる時計が毀われてしまって……。だから──」 ポケットから金色の時計を出してぽぷりに渡す。 春の精「目覚まし草で代わりに桜を目覚めさせたかったんです」   ぽぷり、時計を振る。ヂリン、ヂリンと鈍い音。 ふきこ「(音を聞いて)!……」 ぽぷり「ふきこさん、時計を直す魔法って──」 ふきこ「判りました。私が目覚まし草の代わりをしてさしあげま すわ(ポンと胸を叩き)」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「本当!? ふきこさんそんな事出来るの!?」 春の精「目覚まし草の代わり? どうやって……」 ─────────────────────── ふきこ、大きな目覚まし時計をぽぷりに手渡す。 ぽぷり「おっきな目覚まし時計!」 ふきこ「ぽぷりちゃん、それを上に持っていて下さいな」 ぽぷり、両手で頭の上に持ち上げる。 ふきこ、ポーズをとり── ふきこ「ハルヲシラセテ、サクラニシラセテ、メザメヲシラセテ」 ニボシ「ニャーッ」 虚空に一瞬、白い精霊達が浮かび、目覚まし時計に 吸い込まれ──時計は蔓草に覆われ、ベルが花に。 ぽぷり「ふわぁぁ」 ふきこ「さ、参りましょう!」 ニボシ「にゃあ」 ○公園上空/夕暮れ ひゅるるるん。ほうきに乗ったぽぷり、ふきこ、そ れに春の精。自在にほうきを飛ばせるふきこ。ぽぷ りは目覚まし時計を抱えている。 ぽぷり「わあ! あたしもこんな風に自由に飛べる様になりたい」 春の精「あたしの姿が見えるんですもの。あたし、てっきりあな     たが魔女かと思った」 ぽぷり「魔女!? (くすっ)そう! あたし魔女! でもまだ魔     法が言うことを聞いてくれないの」 ふきこ「(眼下見て)もう商店街の皆さん、集まってらっしゃい     ますわ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「あっ、あたし達、飛んでるところ見られちゃったら──」 ふきこ「大丈夫ですわ。空はもう暗くなってきましたもの。提灯 が綺麗ですわね」 ぽぷり「──ほぉんとぉ! 公園じゃないみたい!」 提灯の明かりが賑やかな人々を照らしている。 ふきこ「さ、ぽぷりちゃん、目覚まし時計をお願い」 ぽぷり、ゆっくりと目覚まし時計を両手で掲げる。 ふきこ「春の精のお嬢さん。目覚まし時計は鳴らしてもらうのを 待ってますわよ」 春の精「(微笑)はい。ありがとうございます、ふきこさん」 春の精、しなやかな指でそっとぽぷりが掲げる時計 のベルに触れる。 ジリジリジリジリジリジリジリ!! ぽぷり「桜の木たちーっ! 春のベルよー! 起きなさーい!」 花のベルを鳴らしつつ、公園上空を旋回するほうき。 ○公園 商店主達、宴の準備中。 たばこ屋「違うよそっちじゃない! 全く若いもんは気が利かな ……ん?」 ジリジリジリ……。微かに聞こえるベル。 たばこ屋、見上げる。 暗い夜空に、ぼんやりと飛ぶほうきの影。 たばこ屋「(眼鏡をとり)はて……」 カメラ屋「どうしました?たばこ屋さん」 たばこ屋「おお、カメラ屋さん。今何かベルの音が……」 花 屋「あああっ!」 その声に驚いて見る一同。 花 屋「見て下さい! 花が咲き始めました!!」 次々と開花していく桜の木々。 一同、感嘆の声を上げる。 一人、勝手に始めてて鼻が赤い植木屋、酔った目で 植木屋「ばかな事言っちゃいけないなー。そんなに簡単に桜が咲 いたら植木屋さんは要りませんよ、と(飲む)」 魚まさ「見事じゃねーか!」 魚まさ妻「さっ、八百ひちの奥さん! お料理出しましょ!」 八百ひち妻「春の野菜たっぷり持ってきたからね!」 八百ひち「まずは酒だってんだ! さあ、今夜は飲むぞーっ!」 パチリ。ライカで夜桜を撮ったカメラ店主。 カメラ店主「素晴らしいです。今年の桜は」 たばこ屋「良かった良かった(ニコニコ〜あ、と見上げ)しかし、 一体さっきの目覚まし時計の音は──?」 ○公園上空 月の明かりにシルエットとなって飛ぶほうき。                     つづく