ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー               その9                パ ン の ま ほ う                      第3稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              97/12/28 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 くるみ(10)…………………ぽぷりの同級生 たばこ屋のおじさん パン屋のおじさん パン屋のおばさん 祥 子(16)…………………………高校生/パン屋の長女 ハートの精霊 ラルゥ ○駅の向こう側 にこにこ銀座がある反対側は、開発され開けてる。 駅にやってくるぽぷりと同級生の女の子。 ぽぷり「──えーっ? そうかしら?」 くるみ「(笑)そうだよぉ、かおり、じゃなかった、えと、ぽぷ りちゃんって。先生にまでニックネームで呼んでねなん て言わないってば普通」 ぽぷり「だって気に入っている名前があるのに、毎日違う名前で     呼ばれるのはおかしいと思うの」 くるみ「(苦笑)あっ、あたしン家あっちなの。ぽぷりちゃんは 駅の反対側なんだよね?」 ぽぷり「うん!にこにこ銀座の向こう側なのよ! あたしあの街 とっても大好き!」 くるみ「あたしも時々買い物にいくよ。あ、後で明日のパン買い にいかなくっちゃ。あそこのパン屋さん美味しいんだよ ね。じゃ、今度遊びに行くから! また明日ね!」 ぽぷり「うん明日ねっ! くるみちゃん!」 ぽぷり、手を振って階段を駆け上がる。 ○階段〜にこにこ銀座 駆け降りてくるぽぷり、最後にぴょんとジャンプ。 眼前に延びるにこにこ銀座。いつもの街。 ぽぷり「ここが、あたしの街!」 駆けだすぽぷり。 たばこ屋「(ニコニコ)やあぽぷりちゃん、今日から学校かい」 ぽぷり「そうなの!(立ち止まらず)」 たばこ屋「友達出来たかーい?」 ぽぷり「たーっくさーん!」 走るぽぷり。と、パン屋の前で立ち止まる。          ぽぷり「あれれー?」 店の前にワゴンはあるものの空。中を見るぽぷり。 ぽぷり「パン屋さんにパンが全然無いなんて変だわ!」 ○パン屋店内 ぽぷり「(覗き込んで)どうしちゃったんだろ……」 と、奥から声。 パン屋「(オフ)だあっ! また駄目かぁっ!」 ぽぷり「!」 ○製パン室 飛び込んでくるぽぷり。 ぽぷり「どっ、どうしちゃったの!?」 オーブンを開けたところのパン屋、振り向き パン屋妻「あら、ぽぷりちゃん」 ぽぷり「何が駄目だったの?」 パン屋「いやそれが……」 トレイを見せるパン屋。潰れたまま焼けているパン。 ぽぷり「これ、パン? (指で触れ)全然膨らんでいないわ」 パン屋「どういう訳か今朝から焼いてるパンが全く膨らまないん んだよ」 パン屋妻「困ったわねぇ。そろそろお客さんが来る頃なのに」 パン屋「ああっ! このにこにこ銀座のパン屋の焼きたてふかふ かパンがどれだけご近所の朝の食卓を支えてきたか!( 泣きそう)粉も卵もいつもの通りなのに何故なんだぁ!」 パン屋妻「ちょっとパパ、落ち着いて──」 ぽぷり「ふ、膨らまなくたって、美味しければ大丈夫よ!」       パン屋、平べったいパンをぽぷりの目の前に。 ぽぷり「え(手にとり)──(もぐもぐ)──(もぐ)……」 パン屋妻「美味しくないでしょ」 ぽぷり「う、うん……」 パン屋「パンはね、膨らまないと美味しくならないんだよ。ああ どうしたらいいんだぁ……」 じっと見つめていたぽぷり── ぽぷり「ね、パンてどうやって作るの?」 パン屋「え?」 ぽぷり「もう一度作ってみて! あたし見てみたかったの! も     しかしたら今度こそ成功するかもしれないじゃないっ!?」 パン屋「──そうだな。やはりどこかでミスをしていたのかもし れないし──。よし!もう一度だ」 ─────────────────────── 粉の中にイーストを入れるパン屋。 パン屋「ウチはパン・トラディショネルという、一番基本だけど 一番奥が深い作り方をしているのさ。おっと砂糖だ」 小さじで砂糖を入れる。 ぽぷり「お砂糖? これって甘いパンになるの?」 パン屋妻「ううん。普通のパンよ。でも必ずお砂糖も入れるの」 ぽぷり「知らなかったぁ!」 ─────────────────────── 練り上がった生地がやや膨らんできた。 ぽぷり「練っただけなのに膨らんできてるわ!」 パン屋「イーストの作用で発酵したんだ」 指を突き刺し、具合を図る。 ぽぷり「イーストって?」 パン屋「パンのたね、だよ(と生イーストを見せる)」 ぽぷり「パンのたね!? そんなものがあるの!?」 パン屋妻「酵母っていう小さな生き物なの」 ぽぷり「これ、生きてるの!?(手にイーストをとり見入る)」 パン屋「(呟き)この段階の膨らみが足らないのかなぁ……」 ぽぷり「まるで魔法みたい──ううん、魔法そのものじゃない!」 ─────────────────────── 生地を小さく千切って形を整えるパン屋妻。 パン屋妻「ぽぷりちゃんもやってみる?」 ぽぷり「えっ!? いいの!?」 ぽぷり、一緒になってパンを作り始める。 ぽぷり「あたしカニの形のパンが大好きなの! 作っていい?」 パン屋妻「(苦笑)いいわよ」 パン屋「(時計を気にして)さあ、急がないとオーブンに入れる 時間になってしまうよ」 ぽぷり「はーい!」 ─────────────────────── オーブンのドアを開くパン屋、その顔──曇る。 パン屋「──おかしい……どうしてなんだ……」 潰れたパンのトレイを、手袋をしたぽぷりに手渡す。 ぽぷり「カニのパン、膨らんでくれなかった……(ハッ)ちょ、     ちょっとこれ貸してねっ!」 言ってぽぷり、店の方へ。 ○店内 トレイを棚に載せたぽぷり、アルデルの小瓶を手に ぽぷり「どうしたらパンて膨らんでくれるかな。どんな魔法を使 ったらいいか全然判んないけれど──、でも──」 種を入れて振る。 ぽぷり「マホウヨマホウヨウマレテオイデ!」 ぴかっ! ぽよん! みゅーっと出てきたのは、ハートの形の精霊。 ぽぷり「(ニコ)はじめまして! えっと、名前をつけてあげな くっちゃね。そうね……あなたは──、ラルゥ!」 ラルゥ、ニコニコ(喋らない)。 ぽぷり「ねっ! このパン膨らまないの! どうやったら膨らん でくれるか判る?」 ラルゥ、片方の手を伸ばしぽぷりの腕に巻きつく。 ぽぷり「?」 もう片方の腕はトレイのパンに巻きつく。 ぽぷり「な、なぁにこれ。何をしてるの?ラルゥ」 ラルゥ、ただニコニコしてるだけ。 ハッとなるぽぷり。じっとパンを見つめる。 ぽぷり「何か聞こえる……。くーくーって……。まるで眠ってる みたいな──。もしかしたら、ラルゥはこうやって気持 ちを伝えてくれる魔法なのかも……。そうなの!?」 ラルゥ、ひょこひょこと反応。 ぽぷり「きっとそうだわ! あたしの気持ちがパンに伝わるのね!? パン、聞こえる? パンは膨らまないと美味しく食べて 貰えないの。だから膨らんでちょうだい?」 ぷるるるっとラルゥの腕が、情報を伝える様に振動。 パンがぴくっと反応。 ぽぷり「(息を飲む)聞こえたんだ! あたしの声!」 ぽよん、と膨らむパン。 ぽぷり「すごーい! じゃ、次のパン!」 ラルゥの手が次のパンに。 ぽぷり「膨らんでちょうだい?」 ふわわわん。ドッジボールくらいにまで膨らむ。 ぽぷり「おもしろーい!! もっともっと大きくなれる?」 次のパンは一抱え程に。 ぽぷり「カニのパンも大きくなあれっ!」 ぽわわん。巨大カニパン登場。 ぽぷり「もっともっと!」 次々に膨らんでいくパン。あちこちでバウンド。 はしゃぐぽぷり。 ○パン屋外 幾つかのパンがバウンドしながら飛び出していく。 通り掛かったたばこ屋、びっくり。 たばこ屋「なんだ? この風船みたいな……」 ─────────────────────── カニパンはふわふわ飛びながらファーマシィー前へ。 ニボシ「(ドアの内側から見上げ)にゃ?」 ○パン屋店内 顔を出すパン屋夫妻、口あんぐり。 大きなパンが店内をぽんぽんと跳ねている。 パン屋妻「ぽぷりちゃん! これって……」 ぽぷり「(はっ)」 ふわん、とラルゥ、ぽぷりの手から離れて天井近く に浮遊、夫妻の視線から逃れる。 ぽぷり「いっけない……。あんまり面白くって……。でもでも見 て! パンが目を覚まして膨らんでくれたわ!」 パン屋「目を覚まして……?」 バウンドしてきたパンをキャッチするパン屋。 ぽぷり「食べてみてみて! こんなに膨らんだのよ!? 美味しさ だってきっと何倍にもなってるわ!」 パン屋、ちぎって一切れを口に。 ぽぷり「どう!? 美味しいでしょ!?」 パン屋「(首を横に振り)ただ空気が入ってるだけだよ……」 ぽぷり「(しゅん)そう……。やっぱり魔法じゃ駄目なのかな」 と、ふきこの声。 ふきこ「(オフ)このカニさんはおいくらですの?」 ぽぷり「(振り向き)ふきこさん!?」 カニを抱えたふきこ、ニコニコと立つ。 ふきこ「ウチのお店に迷い込んできたのですわ」 ニボシ「にゃあ」 パン屋妻「すみません。それは食べられないパンなんですよ」 ふきこ、ふと見上げると天井を漂うラルゥ。 ふきこ「あら、ハートの魔法……(得心)」 ふきこ、ぽぷりに耳打ち。 ふきこ「ぽぷりちゃんの仕業ですわね」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「ごっ、ごめんなさい。こんな風になっちゃうなんてあた し、あたし思わなかったから……」 ふきこ「(微笑)いいえ、ハートの魔法がせっかく出てきてくれ たんですもの。ちゃんと気持ちを伝えましょう」 ぽぷり「えっ? 誰に……?」 ○製パン室 パン屋、イーストの包みを示す。 パン屋「これがウチが使ってるイーストです、ふきこさん。今ま では粉末のを使ってたんですが、もっと本格的にパンを 焼きたくて、生のイーストを使い始めたんですよ」 ぽぷり「こんな固まりみたいなのが、生きてるなんて不思議……」 ふきこ「きっと、このお店に未だ慣れていないから、恥ずかしが ってるのですわ」 ニボシ「にゃあ」 パン屋妻「恥ずかしい?」 ふきこ「ぽぷりちゃん、そっと話しかけてごらんなさい」 ぽぷり「えっ? うん……」 ぽぷりの背中にリュックの様についていたラルゥ、 ぽぷりの腕とイーストそれぞれに繋がる。 ぽぷり「何て話しかけたらいいかな。えっと、イーストさん。聞 こえてますか? みんなが美味しいパンを食べたいの!」 ラルゥの手が巻きついたイースト、ぷるっと震えた。 怪訝そうに見ているパン屋。 ぽぷり「──あ……何か聞こえる(耳に手をあて)」       ぽぷりにだけ、小さい声がぺちゃくちゃと聞こえる。 ぽぷり「え?なあに? 何が足りないの?──お砂糖?」 ふきこ「イーストの好物はお砂糖でしたわね」 パン屋「そうか……。新しいイーストに適切な砂糖の量ではなか ったのか。いかんですな(苦笑)本に頼ってばかりでは」 ぽぷり「いいですかーっ。今度はしっかり、美味しく膨らんでね」 ぷるぷるぷるっと、ラルゥの腕が震えた。 ─────────────────────── オーブンが開き、ぽぷりの目が輝く。 ぽぷり「うわーっ!」 美味しそうに膨らんでいるパンが出てきた。 パン屋妻「ぽぷりちゃん、食べてごらんなさい」 ぽぷり「いいのっ!?」 食べるぽぷり──すっっっごく嬉しい。 ぽぷり「おいしーっ!! こんなに美味しいパンは初めてだわ!」 と、制服姿の女子高生が顔を出す。 祥 子「何してんのぉ?」 パン屋「なんだ祥子か、ただいまが先だろ」 祥 子「お客さん達並んでるよー?」 ○パン屋店内 棚にはいっぱいのパン。 並んでいる買い物客達。 ぽぷり「(エプロン姿)お待たせしましたーっ。焼きたてパンが できましたよーっ!」 くるみ「ぽぷりちゃーん(手を振ってる)」 ぽぷり、あっとなって、友達に駆け寄っていく。 天井にはラルゥがまだにこにこ浮かんでいた。のん すけだけにはそれが見えている。                     つづく