ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー               その13              か め ら の き も ち                      第2稿                       脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                              98/01/31 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん(年齢不詳) ニボシ〔黒い子猫〕 のんすけ(03)…………………… 各話必ず一回登場 キノシタ写真店主 キヨコ(19)──────────昭和二十年代の少女 八百ひちの奥さん ○にこにこ銀座商店街/土曜の午後 ぽぷり、お買い物中。籠を腕に下げ、メモを見つつ ぽぷり「えーっと、後は卵とぉ、あっ、八百屋さんが先だわ!」 目を上げると──、よそ行きのワンピースに、きち んとお化粧をした婦人。 ぽぷり「あれ? あの人、前にどっかで見た事あるけど誰だっけ」 婦人、ぽぷりに気づく。 八百ひち妻「あら、ぽぷりちゃん」 ぽぷり「えっ? あ、こんにちは。あのぉ……おばさん、どこの 人だっけ?」 八百ひち妻「(苦笑)あたしの顔、忘れちゃったの?(声張って) はい大根安いよ買ってっとくれーい!」 ぽぷり「あははっ! なーんだ、八百ひちさんのおばさんだった の! とっても綺麗だから、あたし判らなかったわ」 八百ひち妻「え?(顔を赤らめ)やだよこの子ったら(苦笑)」 ぽぷり「どこかへお出かけ?」 八百ひち妻「ううん。キノシタさんとこ。じゃあね」 八百ひち妻、写真館の方へ歩いていく。 ぽぷり「キノシタ、写真店……?」 ○写真店奥/スタジオ 奥のスタジオ、カメラ前に座っている八百ひち妻。 写真店主「はい、いいですね。あ、もう少し顎を引いてみてくだ さい」 八百ひち妻「どうせ証明写真なんだから、そんなちゃんと撮らな くてもいいんだけどねぇ」 写真店主「(微笑)写真は残るものです。その時の、一番いい顔 を撮りましょう」 はにかんでる八百ひち妻。 スタジオを覗き込んでいるぽぷり。 ぽぷり「(声に出さず)わあ……」 写真店主「(オフ)では撮ります」 ハッセルのファインダの中の八百ひち妻、にっこり。 ぱしゃん。 ─────────────────────── ハッセルからフィルムを抜いていた店主、ぽぷりが 覗き込んでるのに気づき 写真店主「やあ、ぽぷりちゃん」 ぽぷり、さっき婦人が座っていた椅子に座る。 ぽぷり「八百ひちさんのおばさん、とっても綺麗だったわ」 写真店主「(微笑)そうだね。綺麗だったね」 ぽぷり、スタジオの壁を見回す。 数々の風景写真が額に。ぽぷり、近づいて見る。 ぽぷり「綺麗な写真ね。これ全部おじさんが撮ったの?」 写真店主「そうさ。気に入ってくれたかい?」 ぽぷり「ええとっても! でも、人の写真は無いのね」 写真店主「──仕事以外では、撮らないんだ……」 ぽぷり「──」 店主、店の方へ。ぽぷり続く。 ─────────────────────── ぽぷり、ショウケースに並んだカメラを眺める。 ぽぷり「色んなカメラがあるのね。そうだ! あたしカメラマン になりたい、って思っていた時があるのよ!」 写真店主「ほう?」 ぽぷり「前の学校で遠足に行った時にね、カメラマンの人も一緒 に来たの。あたし一杯撮って貰っちゃった。でね、その 時の写真ってホントにあたしたち楽しそうに写ってたの! それであたし思ったの。楽しいとか嬉しいって気持ちを 残せるなんて、とっても素敵だなって。だからあたしも カメラマンになりたいって思ったワケなの」 写真店主「そうだね。おじさんも、今ぽぷりちゃんが通ってる小 学校の遠足や運動会には、写真を撮りに行くんだよ」 ぽぷり「ほーんと!? わー、楽しみだなぁ、早く遠足行きたいな」 写真店主、ショウケースからM3を取り出す。 ぽぷり「──、それ、随分古いみたいだけど、売れ残ったの?」 写真店主「(苦笑)そうじゃないさ。これは売り物じゃない。お じさんが大事にしているカメラさ」 ぽぷり「ふうん……。え……、触ってもいいの?」 写真店主、ぽぷりにM3を手渡す。 ぽぷり「──重たいのね……」 写真店主「(微笑)そう。それに最近のカメラと違って、露出な んかも自分で決めるからね、使いこなすのが難しい。で も、とってもいい写真が撮れるんだ」 ぽぷり、カメラマンになったつもりで ぽぷり「こんなに素敵なカメラを持ってるのに、人を撮らないな     んて勿体ないわ! はーい、いい顔してねーっ」 苦笑しているカメラ店主。 ぱちり。 ぽぷり、レンズを奥の無人のスタジオに向ける。 ぱちり。 写真店主「なかなかいい構え方をしているよ」 ぽぷり「ほんと!? あたしカメラマンになれるっ!?」 ぽぷり、また写真店主の方にレンズを向ける。 ぽぷり「!(息を呑む)」 ─────────────────────── ファインダの中の映像、カメラ店内では無い。 黄昏の光に包まれた洋室。 質素なワンピース姿の若い女性が椅子に腰掛け、こ ちらに向いて微笑んだ。 ぱちり。 ─────────────────────── ばっ、とカメラを降ろして呆然として店主を見つめ るぽぷり。 写真店主「? どうしたんだい?」 ぽぷり「い、今、そこに女の人がいたの!」 写真店主「(怪訝)え?」 ぽぷり「髪が長い、綺麗な女の人! 椅子に座ってこっちを向い ていたわ!」 眉を顰める写真店主。 写真店主「大人をからかうものじゃない」 ぽぷり「うっ、嘘じゃないの! ホントに見えたの!」 写真店主「(抑えた怒気)それを返しなさい」 ぽぷり「あ、あたし……」 べそをかいてるぽぷり、M3を差し出す。 ○ファーマシィー ○同/調合室 調合テーブルに頬杖ついてるぽぷり。 ぽぷり「絶対あたし見たもの。ほんとに見えたのよふきこさん」 大鍋で何やら煮詰めているふきこ。 ふきこ「ぽぷりちゃんがそう言うのならきっと見えたのでしょう」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「でも不思議。だって、その女の人がいた部屋って、あの カメラ屋さんの中じゃなかったんだもの。そんな事って ある?」 ふきこ「そうですわね、そのカメラは古いカメラでしたかしら」 ぽぷり「とっても古いカメラなのよ。それにとても重たいの」 ふきこ「古い道具は、長い間人と触れ合う内に、思い出を懐く事 があるのですわ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「? カメラが思い出を持つの? カメラが思ったりする の? 気持ちとかがあるの?」 ふきこ「どうですかしら、そのカメラがどうかは判りませんけど」 ぽぷり「(考え込む)」 ○スタジオ モデル用の椅子に腰かけ、休むキノシタ。 写真店主「ふう……」 ふと、傍らのM3に目を留め、手に取る。 写真店主「──あの子に強く言いすぎてしまったな。今度来たら 謝らなくては……ん?」 M3の巻き上げレバーが引っ掛かる。 写真店主「──フィルムが入ってたままだったのか……(思案)」 ○暗室 じっと定着液を見つめるキノシタ、愕然。 印画紙に浮かんでくる、若い女性の姿──。 写真店主「キヨコ……」 微笑んでいる女の顔……。 ○夕暮れのにこにこ銀座商店街 黄金色に染まる街。買い物客達で賑わっている。 と、人の頭の上にふわふわと風船の様にラルゥが。 ─────────────────────── 歩くぽぷり。その上にラルゥが寄り添う様に浮かん でいる。▼見えているのはのんすけだけ。 ぽぷり「──生き物じゃないのに、気持ちなんて判るのかしら。 ねえラルゥ、あなたはハートの魔法だけれど、カメラの ハートまであたしに伝えられるの?」 ラルゥは声を出さない。 ぽぷり「なんか呑気な顔しちゃってぇ……。でも、カメラ屋のお じさん、またあの古いカメラに触らせてくれるかしら」 ○カメラ店前 入るのに躊躇しているぽぷり。 ぽぷり「──ええっと、(練習)こんにちは。さっきはごめんな さい。あたし、でももう一度だけカメラに触らせて欲し いの──。ああ、理由を聞かれたら何て答えたらいいの。 でも嘘はつきたくないし──ええっと──」 写真店主の声「嘘じゃなかったって、知ってるよ」 ぽぷり「えっ!?(振り向く)」 ○スタジオ ぽぷり「(息を呑む)この人よ!! この人が見えたの!」 カビネに焼かれた、モノクロの女性の姿。 写真店主「──不思議だね。こういう事ってあるのかな……」 やや寂しそうな声にぽぷり、心配そう。 ぽぷり「あの──、おじさん?」 写真店主「あ、なんだい?」 ぽぷり「この女の人って……」 写真店主「(微笑)おじさんがね、若い頃に好きだった人さ」 ぽぷり「──奥さん?」 写真店主「──結婚はしなかった。出来なかったんだ」 ぽぷり「どうして……」 写真店主「──病気でね、命が短かったからさ」 ぽぷり「(涙が浮かぶ)……」 ぽぷり、写真を見つめる。 ○写真の中の部屋 写真が、セピアトーンになって動きだす。 キヨコ、やや首を傾げて微笑みかける。 若い頃のキノシタ「いい顔をしている。じゃあ撮るよ」 キヨコ「早く撮ってくださいな。恥ずかしいわ」 微笑する若い頃のキノシタ、M3のシャッターを、 ぱちり。 ○スタジオ はっ、となるぽぷり。 ぽぷりの手と、M3をラルゥが繋いでいる。 写真店主「(怪訝)?」       ぽぷりの目からぽろぽろと涙が零れる。 写真店主「(やや慌てて)ど、どうしたんだい?急に」 ぽぷり「──(泣き笑い)あのね、このカメラ、おじさんがとっ ても好きなんだって」 写真店主「え……?」 ぽぷり「このカメラ、ずっとおじさんと一緒にいたでしょ。だか らおじさんの気持ちが判るのよ。最近、ちょっとおじさ ん、元気が無いみたいだから心配しているの。キヨコさ んもそうよ」 写真店主「──」 ぽぷり「このカメラ、とっても綺麗な気持ちしてるわ。おじさん がこのカメラを大事にして、綺麗なものばっかり撮って きたからだわ」 写真店主「(やや当惑しつつも、しかし嬉しい)ありがとうね、      ぽぷりちゃん」 ぽぷり「ううん。お礼はこのカメラに言ってあげて。じゃ、あた しもう帰らなくっちゃ」 ぽぷり、M3を店主に両手でそっと手渡す。 写真店主「──」 ぽぷり、出口に向かって── 写真店主「ぽぷりちゃん」 ぽぷり「えっ?(振り向く)」       店主、ぽぷりにM3のレンズを向けている。 ぽぷり「! お仕事じゃないのに……?」 写真店主「撮らせておくれ、ぽぷりちゃん」       ぽぷり、おしゃまなポーズ。       ぱちり。       ─────────────────────── ぽぷり「じゃ、さよなら!」 駆けていくぽぷり。 微笑んでいた写真店主、はっとなり 写真店主「あっ、そうだ待ってくれ!」 ○店の外 暮れなずむ商店街。 もうぽぷりは遠くを走っている。 出てきた店主── 写真店主「──どうして、キヨコの名前を……」 店主、手にしていたM3に目を落とす。 写真店主「──(微笑)大丈夫さキヨコ。私は元気にやってるよ」 キノシタ、空に浮かぶ、キヨコの姿の様なオレンジ 色の雲にレンズを向け── ぱちり。                     つづく