ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー            その28           く ち べ に つ け た                 第2稿                脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                       98/05/10 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん〔ファンファンファーマシィー店主〕 ニボシ〔黒い子猫〕 のんすけ(03)〔各話必ず一回登場〕 ぽぷりのママ 買い物の主婦 カメラ店主 たばこ屋 花屋バイト コンビニ・バイト小坂 洋品店主 風の精霊・ピンチィ ○にこにこ銀座商店街/午後 まだまだ暑い日差しの午後、蝉時雨。 風鈴屋の屋台が涼しげな音をたてている。 ─────────────────────── ファーマシィー前ではふきこさんが、『夏の化粧品 大売出し』の貼り紙を剥がしていたところ。 ふきこ「ふう……。今日も暑いですわね」 ニボシ「にゃあ」 ○ファーマシィー店内 カウンターの前の高いスツールに座り、脚をブラブ ラさせていた── ぽぷり「もうすぐ学校が始まるのよ。みんなと会えるのは楽しみ だけど、夏が終わっちゃうのはつまんないわ」 ふきこ「(苦笑)もうちょっと、夏は続きますわ」 ニボシ「にゃ」 ふきこ、カウンター上の鏡を覗き ふきこ「(小鼻を気にして)あら……」 ふきこ、奥へ行き、階段を登っていく。 ぽぷり「?」 椅子から飛び降り、後に続く。 ○ふきこの部屋(二階) 大きな鏡台の前、鏡に向かっているふきこ。 ファンデーションで化粧直し中。 ドアから興味深そうに覗き込んでいるぽぷり。 ふきこ「(微笑)入ってらっしゃいな」 ぽぷり「(駆け寄りじーっと見て)ふきこさん、お化粧上手ね」 ふきこ「好きだからですわ」 ニボシはやや離れたところで丸くなっている。 ぽぷり「あたしはいつからお化粧するのかな……」 ふきこ、リップブラシで唇にラインを描く。 目をまん丸くして見入るぽぷり。 ぽぷり「ママもお化粧するけど、ふきこさんみたいに上手じゃな いかも。だってそんな風に口紅塗ったりしないもの」 ティッシュで抑え、もう一度口紅を塗る。 ふきこ「──さ、出来ましたですわ。(ぽぷりに向き)いかが?」 ぽぷり「とーっても綺麗!」 と、階下より主婦の声。 主 婦「(オフ)ごめんくださーい。ふきこさーん?」 ふきこ「あら、お客様ですわ」 ふきこ、階下へ下っていく。ニボシ続く。 ぽぷり、並んだ化粧品の瓶の数々に見入る。 ぽぷり「(呟き)いっぱいあるのね……。わあ……」 変わった形の香水瓶を手にとって見る。琥珀の液体 が揺れる。 と、その瓶が窓の光を受けて── ぽぷり「?」 一番隅の棚奥の何かに反射し、輝かせる。 ぽぷり、椅子に乗って近づき手を伸ばし──、手に 取ると ぽぷり「これ……」 古いリップスティック。 キャップを外すぽぷり。未だ半分以上も残っている。 ぽぷり「──」 鏡に向かったぽぷり、じーっと自分の顔を見つめて いたが──、おもむろに口紅を唇に塗り始める。 ○ファーマシィー店内 ふきこ「(客に)オホホホホ。それは良かったですこと」 すっかり談笑している。 ニボシ「にゃ……?(階上を気にする)」 ○ふきこの部屋 鏡に映っているぽぷりの顔──、割に上手に塗れた。 ぽぷり「(ニコ)ちょっと大人っぽくなったみたい……。ふふっ」 ぽぷり、鏡の前からパッと離れる。 ○ファーマシィー店内 出ていく客。 客  「じゃ、お世話さまでした。ふきこさん、また来ます」 ふきこ「ありがとうございました」 ニボシ、ひゅっと奥へ。 ふきこ「どうしました?ニボシ」 ○ふきこの部屋 ふきこ「(言いながら)ぽぷりちゃ──、あら……?」 ぽぷりの姿、無い。 ○にこにこ銀座商店街 いつもの様に駆けるのでも早足でもなく、女の子ら しく歩くぽぷり。 ぽぷり「何だか気分までちょっと大人になってきたみたいだわ」 と、肩からライカを下げたカメラ屋が来て── ぽぷり「あっ、カメラ屋のおじさん、こんにちはっ!」 カメラ屋「(怪訝)は? あ、はあ、お暑うございますね」 頭を丁寧に下げ、小首を傾げながら去っていく。 ぽぷり「変なカメラ屋さん……」 ─────────────────────── たばこ屋前に来るぽぷり。 きんたの餌をあげているたばこ屋に、 ぽぷり「こんにちは! たばこ屋のおじさん、きんた!」 たばこ屋「(怪訝)こんにちは。ええと、どちら様でしたかな。 きんたの名前まで覚えて戴いてるとは……」 ぽぷり「たばこ屋のおじさんまで……。あたしの事判らないの? ぽぷりよ! ぽ・ぷ・り!」 たばこ屋「ぽぷりちゃん? (笑いだし)悪い冗談はよしてくだ さいな。ぽぷりちゃんは子どもですよ」 ぽぷり「あたし子どもだわ! どうしちゃったの!? あ、口紅を つけたから──」 ぽぷり、バッと、たばこ屋の向こう側のショウウィ ンドウ(二話参照)に自分の顔を映す。いつもの顔。 ぽぷり「──口紅塗っただけで、どうしてあたしって判らないの かしら!? そんなの絶対変よ」 と、背後を花屋バイトが通りかかり── ぽぷり「(バッと振り向き)花屋のお兄さん!」 花 屋「え……」 花屋、顔をちょっと赤くして立ち止まる。 ぽぷり「あたし誰だか判るでしょ!?」 花 屋「(どぎまぎ)ええっと……。お花の御用でしたら……」 ぽぷり「あたしの事判んないのぉ!?」 というやりとりを聞いていたコンビニ・バイトの女 子大生── 小 坂「(皮肉)この女の人、知り合い? 随分親しそうだけど」 花 屋「え? そんな事、ないですよねっ? 初対面ですよね?」 ぽぷり「ええーっ?」 小 坂「ふうん、やっぱもてるんだ……(寂しそう)」 言って去っていく小坂。 花 屋「え? いや別にそういうんじゃなくて──」 ぽぷりも花屋から去っていく。 花屋、両方を見てオロオロ。 ─────────────────────── ぽぷり「──みんなにはあたしがあたしに見えていない……。 大人に見えているみたい。でも、鏡で見てもあたしには 判んない……。あたしどんな大人になるのかな……。 見たいわ! 絶対見たい! あたし、どんな大人になる のか見てみたい!──でも、どうやったら見えるのかし ら……(思案)。そうだ!」 ○洋品店前 店先の姿見前に立つぽぷり、ポーチから出して── ぽぷり「タビスのルーペなら、見えないものが見えるのよね。 ミエナイモノ ミエナイモノ ミセテオクレ!」 ルーペを覗くぽぷり。 しかし── ぽぷり「(しゅん)見えない……。やっぱり自分ではダメなのね」 洋品店主、出てきて 洋品店主「(ニコニコ)いらっしゃいませ。気に入ったのがあり ましたら着てみて下さいませ」 ぽぷり「──あの、あたし、幾つに見えるのかしら?」 洋品店主「そうですわねぇ、学生さんかしら、もうお勤めしてら っしゃる? ハタチ……、ううん二十二、当たりでしょ」 ぽぷり「ハタチ! 大人だわ! すごいすごい! あ……、あの ごめんなさい。今日は買い物はしないわ。さよならっ」 ○路地 店と店の間の細い道のぽぷり、周りを見回し── アルデルの小瓶に種を入れながら ぽぷり「こういう時はやっぱり魔法よねっ! ラルゥだったら、 他の人がどうあたしを見えているか伝えてくれるかも! マホウヨマホウヨ、ウマレテオイデ!」 ぴかっ! ぽよん。 ピンチィ「しゅっかーっ」 ぽぷり「(シオシオ)どーしてピンチィが出てきちゃうのぉ?」 ピンチィ「しゅ」 ぽぷり「(くるっと回り)どうお? あたし大人っぽいでしょ? ううん、今あたし、大人になっているのよ!? どう?」 ピンチィ、ぽぷりの周りを楽しげにふわふわ飛ぶ。 ぽぷり「──ピンチィはあたしの事、判るみたい……」 ピンチィ「(急に耳を立て)しゅかしゅか」 通りの方へ飛んでいくピンチィ。 ぽぷり「あっ、待ってピンチィ! どこ行くのよ!」 ○にこにこ銀座商店街 風鈴屋の屋台が涼しげな音を立てている。 ピンチィ、飛んできて、風鈴の間を楽しそうに飛び 回る。(のんすけ、見ている) ピンチィ「しゅーかしゅーか」 ぽぷり、駆けてくる。 ぽぷり「もう! ピンチィったら風の子だからって……あっ!」 風鈴を選んでいる通勤帰りの客、それは── ぽぷり「ママ!」 ぽぷりママ「え……?」 ぽぷり「(駆け寄り)ママ! 判らないの!?」 ぽぷりママ「(苦笑)どちら様でしたっけ……」 ぽぷり「(急に怖くなる)ママにまで判って貰えないなんて……」 ぽぷり、後ろのポッケからハンカチを出し、ごしご しと唇を拭く。 ぽぷりママ「……?」 ぽぷりの口の周り、擦れて赤くなり、惨めな顔。 ぽぷり「判らないっ!? あたしぽぷりなの!」 ぽぷりママ「(当惑──、静かに強く)ぽぷりは私の大事な娘で す。変な冗談はやめて下さい」 言って去っていくママ。 ぽぷり「ママ……」 涙が滲み始めるぽぷり。 ぽぷり「こんなの──、嫌!!」 ○ファーマシィー店内 ぽぷり「ふきこさーん! ふきこさーん!!」 飛び込んでくるぽぷり。 ふきこ、一瞬驚いた顔だが──、すぐに合点。 ニボシ「にゃあ」 ふきこ「ぽぷりちゃんですわね?」 ぽぷり「(泣く)そうなの。御免なさい、あたしふきこさんの口 紅黙ってつけちゃって、そしたら(ひっく)、みんなが あたしの事判らなくなっちゃって……」 ふきこ「──(微笑)」 ○ふきこの部屋 椅子に座らせたぽぷりの口元に、クレンジング・ク リームを塗るふきこ。 天井近くではピンチィが舞っている。 ふきこ「擦ったって口紅はとれませんのよ。クレンジング・クリ ームを塗らないと。しかもぽぷりちゃんがつけた口紅は、 とっても昔の、魔女の口紅なんですから」 ぽぷり「(口をもごもご)まじょのくひべに?」 ティッシュでクリームを拭うふきこ。 ふきこ「さ、ぽぷりちゃんのお顔が出てきましたわ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「あたしの顔、見えているのね!?」 ふきこ「ええ」 ぽぷり、椅子から飛び下りて鏡を見る。 ぽぷり「──いつもの顔だわ(安堵)……」 ふきこ、あの口紅を手にとる。 ふきこ「お化粧は、人により良く見えたいって思ってするもの。 でも、本当はそれだけではなくって、自分の顔を鏡で見 た時、どう自分が見えているかが大事なのですわ」 ぽぷり「自分の顔が見えくてはつまんないもの」 ふきこ「ええ。お化粧は人を変えてしまうものではなく、自分自 身の心も豊かにしてくれるものだって、わたくしは思っ ていますの。ですから、この口紅は使いません」 ニボシ「にゃあ」 ふきこ、口紅を元の棚の奥に仕舞う。 ぽぷり「(見上げ)ピンチィだけはあたしだって判っててくれた のよね」 ピンチィ「しゅかしゅか」 もう一度鏡を見るぽぷり。 ぽぷり「あたしには未だお化粧は早いわね。でも、ちょっとだけ 見たかったなぁ、あたしがどんな大人になるのか」 ふきこ「大丈夫。きっとすてきな大人になりますわ」 ぽぷり「(ニコッ)ほぉんと!?」 ふきこ「ええ。ね、ニボシ」 ニボシ「(そっぽ向き)にゃ……」 ぽぷり「ニボシったらひっどーい!」 ふきこ「(くすくす)」 二人、笑いだす。 ○カメラ店 カウンターの上の一葉の写真に見入るキノシタ。 カメラ屋「記憶力が落ちたものだ。誰だったかなぁ……」 その写真、斜め後ろから撮ったぽぷりの顔。 僅かに見えるその顔は、ちょっとだけ、大人……。                     つづく