ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー            その31(製作ナンバー三〇話)           お は な の ダ ン ス               松島みのりさんから戴いた本に              インスパイアされて──。                第2稿                脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                       98/05/30 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん〔ファンファンファーマシィー店主〕 ニボシ〔黒い子猫〕 のんすけ(03)〔各話必ず一回登場〕 老婦人 夏の精霊(大柄な中年の男) 風の精霊 ピンチィ ○ファーマシィー前 ぽぷり、駆けてくる。と── ぽぷり「あら?」 上品そうな老婦人が地面を何か見探している。 ぽぷり「おばあさん、何か落とし物?」 老婦人「(振り向き)え……? (やや怪訝そうに)そうなのよ。 眼鏡がどこかに行ってしまって……。歳ですからね、あ れが無いとよく見えないの」 ぽぷり「それは大変! あたしも探してあげる!」 ぽぷり、老婦人の回りを迂闊に踏まないよう迂回し て後側に回り込み── ぽぷり「あっ! なあんだ!」 老婦人「え?」 背中側に、首から銀の鎖で眼鏡が下がっている。 ─────────────────────── 老婦人「(眼鏡を掛け)ありがとう、お嬢さん。どうしようかと 思いましたわ」 ぽぷり「(ニコッ)どういたしまして!」 老婦人、公園の方へ。 ぽぷり「(見送り)まるでウチのママみたい。うっかりね──」 ○ファーマシィー裏/デッキ庭園 ハーブ類が繁る鉢の数々。 ふきこ、手入れをしながら水をやっている。 ぽぷり、ローズマリーの葉に鼻を近づけ── ぽぷり「これは──ローズマリーね」 ふきこ「ぽぷりちゃんもすっかりハーブに詳しくなりましたわね」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「(見回し)ふきこさんのお庭ってあたし大好きだわ。と っても綺麗に植えられているし、植物園と違って触った り出来るんだもの──。あら?」 ぽぷり、隅の一角に見入る。そこだけは雑草が生い 茂り雑然としている。 ぽぷり「(前に来て──クスッ)ふきこさんもうっかりね」 ふきこ「(振り向き)ええ?」 ぽぷり「だって、ここのところだけはちっとも手入れをしていな いわ。全然ハーブじゃない草が生えているんだもの」 ふきこ「(微笑)そこは、わざとそうしてあるのですわ」 ニボシ「にゃ」 ぽぷり「え……、どうして?」 ふきこ「(来て)そこは、ノームのお庭、って呼んでいますの」 ぽぷり「ノームってなあに?」 ふきこ「小さな妖精の仲間ですわ。プカもノームなのですよ」 ぽぷり「ええっ!? ここに妖精が住んでいるのっ!?」 ふきこ「いえいえ、そうじゃありません」 ふきこ、屈んで繁った雑草を手にとる。 ふきこ「ここだけは、風が運んできた種がそのまま育つ様にして あるのですよ、ぽぷりちゃん。この場所だけは、その季 節の草が一番新鮮に生えますでしょ。(悪戯っぽく笑い) それに、時々とんでもないものが生えていたりしますの」 ぽぷり「それが、どうして妖精さんの──あっ、判ったわ!」 ぽぷり、しゃがみ込んで雑草類に見入る。 ぽぷり「自然に任せていると、まるで妖精さんが悪戯したみたい になるんだわ!」 ふきこ「ええ。自然は、妖精の様に悪戯好きなところがあります のよ。ね、ニボシ」 ニボシ「にゃあ」 ふきこ「あら……、もう季節が終わりかと思っていたわ……」       ふきこ、ある草に見入っている。 ぽぷり「どうしたの?」 ふきこ「ぽぷりちゃん、今夜、またここに来られますかしら?」 ぽぷり「夜?──どうして?」 ふきこ「(微笑)来れば判りますわ」 ぽぷり「(唇を尖らせ)今教えてくれたっていいのに」 ふきこは微笑んでいるばかり。 ○ぽぷりのマンション/夜 ○ぽぷりの部屋 ドアの向こうに ぽぷり「ママ、お休みなさーい」 ドアを閉め、電気を消すぽぷり。 ぽぷり「ママに黙って出ていくの、ちょっと悪いなって気がする けど──」 ぽぷり、アルデルの小瓶に種を入れ── ぽぷり「ピンチィ、出てきてね。 マホウヨマホウヨ、ウマレテオイデ!」 ○ぽぷりのマンション〜夜空 窓が開き──、傘を広げたぽぷりがフワリと夜空に 浮かぶ。 ピンチィ「しゅかしゅかー」 ぽぷり「ファンファンファーマシィーに行くのよ、ピンチィ。ふ きこさんが何か面白いものを見せてくれるんだわ!」 ピンチィ「しゅー」 にこにこ銀座上空に差しかかり──、ファーマシィ ーの裏手に降下していく──。 蝋燭が何本もデッキに置かれ、夢幻的。 ぽぷり「!──わぁ……」 ○ファーマシィー裏/デッキ・ガーデン 降り立つぽぷり。 ぽぷり「ありがと、ピンチィ。こんばんは、ふきこさん」 ふきこ「こんばんは。まだもうちょっと時間が掛かるみたいです わ。それまで、このお茶でも飲んで待ちましょう」 クロスの敷かれたテーブルの上にも蝋燭。そしてテ ィーセット。 夜空には満月。虫達の合唱……。 ─────────────────────── テーブルでお茶を飲む二人。テーブルの上にピンチ       ィもいて、とことこ歩いている。 ぽぷり「これは、カモミールのお茶ね」 ふきこ「ええ。気持ちを穏やかにしてくれるお茶ですわ」 ニボシ「にゃ!」 ノームの庭前にいたニボシ、ふきこを呼びテーブル       に飛びつく。 ピンチィ「(びっくりして)しゅ〜〜〜〜っ(虚空へ)」 ぽぷり「あっピンチィ! どうしてニボシが苦手なのかしら……」 ふきこ「ニポシが教えてくれましたわ。いらっしゃいな」 ぽぷり「何を見るの? ただの雑草じゃないの?」 二人、蝋燭に淡く照らされたノームの庭に近づく。 ふきこ「ほら、あれ……」 ぽぷり「(息を飲む)」 一株の草が、身を震わせている。 ぽぷり「う、動いてるわ……」 ふきこ「──」 ぽぷり「まるで──、まるで踊っているみたい……」 茎がしなり、震え──、その先につけた蕾から、ゆ っくりと蝶の羽を思わせる薄黄色の花弁を一片一片 開き始める。 ぽぷり「(小さく)ああっ!──」 月の光を浴びて、美しい花を咲かせる。 ふきこ「待宵草ですわ……。綺麗でしょう」 ぽぷり「──綺麗なんてものじゃないわ……。お花が踊るなんて あたし聞いた事もない──。あっ、今のって妖精さんの 仕業なの!?」 ふきこ「いいえ。自然の野に咲く待宵草は、こういう風に花を咲 かせるのですよ」 ぽぷり「──これは、魔法だわ……」 うっとりと見入るぽぷり。 ふきこ「それにしても、変しょう? 待宵草は夏の花ですわ。も うすっかり秋だのに……」 屈んで覗き込むふきこ。 ふきこ「ちょっと目を放していたら、随分変わった物が生えてい るみたい……」 ぽぷり「でも、外側からじゃよく見えないわね」 ふきこ「じゃ、内側に行ってみましょうか」 ぽぷり「ええっ? どうやって?」 ふきこ、両手を広げ ふきこ「ミンナデイッショニチイサクチイサクナアレー!」 ニボシ「にゃーっ」 ぽぷり「!」 三人、ふわっと光に包まれ── ぽぷり「わわわ」 ぽぷりの視点、どんどん下がっていく──。 ○ノームの庭 ぽぷり「わーっ」 見上げるぽぷり。 眼前に広がるのは──鬱蒼とした異界のジャングル。 月明かりが葉陰から差し込む幻惑的な世界。 ぽぷり「なんかとっても素敵……、外国のジャングルみたいよ」 ふきこ「(微笑)待宵草の奥に何があるのか、見に参りましょ」 ニボシ「にゃあ」 ニボシ、先に奥へ小走りに進んでいく。 更に奥に進む二人。地衣類が草に絡まり、ますます ジャングルの様相。 と、奥で何かが光っている(この辺、もう距離感は 大嘘です)。 ぽぷり「あッ! 何かがあそこで光っているわ!」 ふきこ「何でしょう、夜だというのにあんなに眩しい……」 と、向こうからニボシが呼んでいる。 ニボシ「にゃーっ! にゃにゃにゃーっ!」 ぽぷり「ニボシが呼んでいるわ! ふきこさん! 行きましょう」 ふきこ「あら、ぽぷりちゃん、待って下さいな」 慌てて駆けていくぽぷりを追うふきこ。 ○真夏の草原 光源は定かで無いが、その一角には陽光が燦々と降 り注ぎ、向日葵が生い茂っている草原。向日葵のサ イズはぽぷり達のサイズで、つまり普通の草原。 蝉の声も遠くから響く、ここはまるで夏。 そこへ走り込んでくるぽぷり、草原の真ん中に立つ。 ぽぷり「こ、ここは一体どこぉ!? ファーマシィーのお庭なんか じゃないわ!」 ふきこ、追いついてくる。 ふきこ「まあ、ノームの庭の奥がこんな事になっていたなんて、 わたくし全然知りませんでしたわ」 ニボシ「にゃーっ!」 ニボシ、草原の小山の頂に向かって走っていく。 ぽぷり「ニボシーッ!」 ─────────────────────── 小山の頂には大きな木が一本。その枝にハンモック が吊られ、太った大男が気持ち良さそうに眠ってい る。そこに駆けてくるぽぷり。 ぽぷり「! おーっきな人ぉ……。気持ち良さそうに眠ってる」 ふきこ「どっかで見た様な方ですわね。もしもし、もしもし?」 男  「(大あくび)ふわぁぁぁぁぁ(また寝る)」 ぽぷり「あっきれた。また眠っちゃったわ。失礼ね、おじさん、 おーじーさーん!」 男、むにゃむにゃと起き上がる。 男  「なんだね、折角お昼寝をしているところだのに、勝手に 起こさないでくれたまえ」 ぽぷり「御免なさい。でも、どうしてこんなところでお昼寝なん てしているの? ここはふきこさんのお家のお庭なのよ」 男  「だってこのお庭はとっても居心地が良いんだもの。お昼 寝するにはぴったりさ」 ふきこ「でも、ちょっとそのお昼寝、長すぎたみたいですわ」 男  「何ですって?」 ぽぷり「長すぎた……?──(ハッ)判った! この人は──」 男  「おや、そう言えばどうしてこの私が見えているんだ? あなた方は魔女ですか」 ぽぷり「そうよ! で、あなたはきっと、夏の精霊ね!?」 ふきこ「(微笑)」 夏の精霊「(大仰に)こいつは驚いた。まだ小さいのにもうしっ かり魔女なんだね、お嬢さんは」 ぽぷり「あたしはぽぷり。で、こちらはふきこさん」 ニボシ「にゃー」 ぽぷり「あっ、ごめんね、この子がニボシよ」 夏の精霊、汗をかきかきハンモックから降りる。 夏の精霊「あ、これはどうもご丁寧に。ふきこさんは、ファンフ ァンファーマシィーの魔女さんでしたな」 ふきこ「ええそうですわ」 ニボシ「にゃあ」 夏の精霊「私の仲間が以前お世話になったそうで」 ○フラッシュ 春の精霊と一緒にほうきで飛ぶぽぷり達。 ○真夏の草原 ぽぷり「春の精霊のお姉さんの事ね。夏の精霊はこんなおじさん だったなんて、あたし全然知らなかった。でも、ホント にお昼寝が長すぎだわ」 夏の精霊「おや、そうなんですか。というと今は──」 ふきこ「もう秋ですのよ、このノームのお庭の外はすっかり」 夏の精霊「いかんいかん、秋の精霊に怒られてしまう。そろそろ 地球の反対側に行かなければ」 ぽぷり「夏の精霊さんがいたから、待宵草が花を開くところをあ たし見れたの。だからお礼を言わなきゃ」 夏の精霊「(微笑)待宵草か。あれは綺麗な花です」 ぽぷり「それにとっても不思議な花なのよ。だって踊るんですも の!」 夏の精霊「──ありがとう、二人の魔女さん。あ、それに魔女の     猫さん」 ニボシ「にゃ」 夏の精霊、ふわりと浮かび虚空に向かって飛ぶ。 それに連れて、真夏の光も消えていく。 ぽぷり「さようなら、夏の精霊さん。また来年ね! 絶対寝坊し ちゃダメよ! あたし夏って大好きなんだからーっ!」 ○ファーマシィー裏/ノームの庭前 二人、元に戻ってノームの庭を見下ろしている。 ぽぷり「不思議なお庭だったわね、ふきこさん」 ふきこ「ええ」 ぽぷり「あ、でもそうしたら、もう秋の精霊さんが来ているって ことよね」 ふきこ「そうですわね」 ニボシ「にゃ」 ぽぷり「どんな精霊なのかしら……。会ってみたいな……」 ふきこ、微笑している。 その上空、ファーマシィーの屋根の上を悠然と飛ぶ 精霊姿の眼鏡を掛けた老婦人。優しげな笑みを浮か べて二人を見下ろし、向こうへ飛び去っていく。そ の周囲をピンチィ、くるくる回りながらまとわりつ いている。                     つづく