ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー            その33(製作ナンバー32話)           こ こ ろ の わ す れ も の                 第2稿                脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                       98/06/09 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん〔ファンファンファーマシィー店主〕 ニボシ〔黒い子猫〕 のんすけ(03)〔各話必ず一回登場〕 大矢 静江……………………旧家の老婦人 大矢 栄一郎………………… その夫 子どもの静江 中学生の静江 ミコール………………………フェアリー 風の精霊 ピンチィ 水の精霊 シブ                 劇中歌 作詩・貝澤幸男 ※アトリエのシーン、最小限にカットしています。前のムードも捨  て難いんで、もし尺に余裕がある様でしたら初稿から戻して下さ  い(無理かな……)。 ○にこにこ銀座裏手の住宅街の道 雨が降っている。ぽぷりの傘がスーッと移動。 地面から三十センチ程浮いた状態で、ぽぷりがピン チィと飛んでいる。 ピンチィ「しゅっかー」 ぽぷり「あはははは。ちょっと冷たいけど、面白ーい!」 ふわっ、と上昇するピンチィ。 と、長い塀の向こう側に大きな日本庭園が見える。 ぽぷり「あっ、このお家、前に来た事があるわ!」 ○大矢邸庭 ぽぷり、フワリと着地。ピンチィは耳を丸めて傘の 上に。ぽぷりが傘を回すと、ピンチィもくるくる。 ピンチィ「しゅしゅー」 ぽぷり「ピンチィ、どうお? 素敵なお庭でしょ」 ピンチィ「しゅか」 と、背後に人影。ハッと振り向くぽぷり。 ぽぷり「あ……、こ、こんにちは。あたしぽぷりです」 品の良い老紳士が不審そうにぽぷりを見ている。 大 矢「ここは公園ではないよ」 ぽぷり「ごめんなさい、勝手に入ってきて。でも、いつでも遊び に来ていいって言われたのよ」 大 矢「?──誰にかな?」 ぽぷり「おばさんよ。着物を着たとっても綺麗な人。会わせて?」 大 矢「(顔を曇らせ思案)──」 ○大矢邸/廊下 玄関から続く長い廊下。庭を左手に見つつミシ ミ シと、二人の歩く音。 ぽぷり「まるで旅館みたい。前にパパとママと旅行に行った時、 こんなところに泊まったのよ」 大 矢「(苦笑)──あなたは不思議な子ですね」 ぽぷり「そうかしら……」 角を折れて、一番奥の部屋の前に。 大矢、そっとノック。 ぽぷり、どきどきしている──。 大 矢「(優しく)静江、入るよ、私だ」 ○アトリエ ぽぷり「!」 一瞬、森の中に入った、と思った──。 そこは建て増された洋室。天井の高いアトリエ。 入ってきたぽぷり、見回して驚いている。 ぽぷり「わあ……」 床には大判のキャンバスが何十も置かれている。ど れもがモネ風の森の油彩。それが部屋中に。 大矢は奥へ。そこにはスチールのベッド。老婦人は 穏やかな顔で眠っている。顔色は蒼い。 大 矢「(小声)すまないね。今は眠っている」 ぽぷり、脇に来て心配そうな顔。 大 矢「もうひと月以上も、ここに閉じこもり根を詰めて絵ばか りを描いていたんだ……」 大矢、悲しそうに目を伏せ、ベッドから離れる。 ぽぷり、夫人を気にしつつ後に続く。 絵の立てかけられた壁へ来る二人。どれも不思議な 形の木々が描かれている。その内の一枚には泉が真 っ青な水を湛えていた──。 ぽぷり「素敵な絵……。ここに入った時、ホントの森の中に入っ たみたいな気がしたの」 大 矢「静江は思い出したいんだそうだ」 ぽぷり「え……?」 大 矢「何か大事なものを忘れてしまって──、それを思い出す 為に絵を描いている、そう言うんだ。しかし根を詰め過     ぎて体調を崩してしまった」 ぽぷり「(夫人に振り向き)何を思い出したいのかしら……」 大 矢「子どもの時の事だそうです……」 ぽぷり「──」 ○ファーマシィー外観/雨が降っている ふきこ「(オフ)まあ、それは心配ですわね」 ○ファーマシィー/調合室 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「ねえふきこさん、忘れていた事を思い出すお薬ってない のかしら?」 ふきこ「お薬は何でも出来る訳ではありませんのよ」 ニボシ「にゃ」 ぽぷり「(しゅん)判ってるわ……。あたしも、今の事とか、思 い出せなくなっちゃう事ってあるのかしら」 ふきこ「──」 ぽぷり「そんなの絶対嫌だわ! あたし、どんな事だって、どん な小さな事だって全部覚えていたい」 ふきこ「(穏やかに)そうですわね。でも人の記憶というのは、 狭い引き出しに入ってる様なものなのですよ」 ぽぷり「狭い引き出し? そこに入らなくなったら、無くなって しまうの?」 ふきこ「いいえ、引き出しから零れて奥に入り込んでしまうので すわ。だって人は、生きてる限り、新しい事を覚えて、 引き出しにどんどん詰め込んでいくのですから」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷり「でも、奥に零れちゃった思い出を取り戻したい時だって 絶対来るわ」 ふきこ「──その奥様は、絵を描く事で取り戻そうとしているの ですわね」 ぽぷり「ええそうよ。どれも森の絵ばかりなの」 ふきこ「その森の中に、思い出が隠れているのかもしれません」 ぽぷり「! 絵の中に!?」 ぽぷり、う〜〜〜んと唸り考え込む。 ふきこ、優しく見守る。 ぽぷり「──あたし──、やってみる!」 ○大矢邸庭 塀をよじ登って、降りてくるぽぷり。 庭を駆け抜けてアトリエの方へ── ○アトリエ 眠っている静江を覗き込むぽぷり── ぽぷり「絵の中に入って、探して来るわ」       ぽぷり、部屋を見回し──、泉が描かれた絵の前に。 魔法の種をアルデルの小瓶に入れ── ぽぷり「(小声で)マホウヨマホウヨ、ウマレテオイデ」 ぴかっ! ちゃぽん。 シ ブ「ぷくっ」 浮かんでいるシブ。 ぽぷり「シブ、この絵の中の泉に入れる?」 シ ブ「ぷくぷくっ」 ぽぷり「あたし、この絵の中に入りたいの」 絵の中に描かれた泉を指して、飛び込むポーズ。 ぽぷり「あそこに連れていって!」 シ ブ「ぷーくぷくぷくっ」 シブ、絵の中に飛び込む。 ちゃぽん。絵の中の泉から首を出すシブ。 ぽぷり、両手を広げて目を閉じる。 ぽぷり「シブ、お願い」 シブ、絵の中から延びてぽぷりを取り込み── ○絵の森の中 目を開けるぽぷり。 そこは、あの絵の中。初夏の様な爽やかな日差し。 シブは泉の中で楽しげにぷくぷくしている。 ぽぷり「ありがとうシブ。ホントに入れちゃった。でも、何を探 したらいいんだろう──」 暫く森の中を歩くぽぷり。モネ風に抽象化された木 々の間を抜けていく。 と──、向こうに人影。 ぽぷり「!」 ぽぷり、その方へ駆け出し絵と絵の境を抜ける。 小さな人影──それは──、ぽぷりと同じくらいの 歳の美しい少女。 ぽぷり「あなた、誰?」 少 女「あなたこそ、誰?」 ぽぷり「あっ、あたしはぽぷりよ」 少 女「ぽぷり、ちゃん?」 ぽぷり「ねえ、あなたが忘れ物なの?」 少 女「え? (くすくす)変な事言うのね。あたしが忘れ物だ なんて」 ぽぷり「あ、御免ね。だって絵の中にいるんだもの……」 シ ブ「ぷくぷくーっ」 シブがぽぷりの方に空を泳いでやってくる。 少 女「あら、それなあに?」 ぽぷり「え、シブが見えるの?」 少 女「シブっていうのね。その子もミコールの仲間かしら」 ぽぷり「ミコール……?」 と──、少女のすぐ側に小さな妖精が降りてくる。 半透明のスカートがクラゲの様に揺れている。 ぽぷり「(感激)わあ……、妖精ね……」 シ ブ「ぷくぷくーっ」 ミコールは無言でふわふわ。 ぽぷり「あなたも魔女? だってシブや妖精が見えるなんて」 少 女「(くすっ)ホントに変な事ばかり言うのね」 ぽぷり「そ、そう?」 少 女「ミコールは誰にだって見えるわ。ぽぷりちゃんにだって 見えている……」 ぽぷり「──あなたは、静江、ちゃんね?」 子どもの静江「あら、あたしの名前知っていたの」 ぽぷり「子どもの時の、静江さん……」       ミコール、ふわりと向こうへ飛ぶ。それに続いて歩       きだしながら── 子どもの静江「ミコールの姿は子どもなら誰でも見える──。で も、大人になったら見えなくなっちゃうんだって」   絵と絵の境を抜けると、静江は中学生くらいに成長   している。 ぽぷり「──!」 中学生の静江「段々、あたしミコールの事、思い出しもしなくな ってきたわ……。ミコールはいるのに! 見えなくなっ ていくなんて──」 ミコール、ふわりと飛んで木の一つに下がる。 ぽぷり「!」 それは、ミコールの仲間達が形作る木だった。 ぽぷり「見えていたんじゃない……、静江さんは、この絵をずっ と描いてたんじゃない。でも思い出せなかった──」 中学生の静江「──(寂しい笑み)大人になったら見えなくなっ ちゃうんだって……」 静江の姿、徐々に消えていく。 愕然となっていたぽぷり──、絵の外に向かって ぽぷり「忘れていたのは絵に描いてあるわー!」 ぽぷりの視界──ワッと広がり── ○アトリエ 静 江「ん……」 目を開ける老いた静江。ぽぷりがベッドサイドに立 っていた。 静 江「あら、あなたは──」 ドアを開け、入ってくる大矢。 大 矢「どうしたんだね?」 ぽぷり「──忘れ物は、ちゃんと絵に描いてあったのよ」 静 江「──え……?」 静江、起き上がり、絵の前に。 当惑してぽぷりと静江を交互に見る大矢。 ─────────────────────── 静江、不思議な形の木の脇に、ミコールの絵を描く。 静 江「──ミコール──、久しぶりね(微笑)」 ぽぷり「──思い出して、くれた……(ちょっと泣く)」 静江の脇に来る大矢。 大 矢「静江……?」 静 江「──(見上げ)心配かけてすみませんでした。もう大丈 夫。思い出せたんですから」 大 矢「──そうかい……(深い安堵)」 寄り添う老夫婦を眩しそうに見るぽぷり。 ○雨上がりの道 ぽぷり「♪きのうの夢みた 青い空 かけていく あしたの 夢みた 遠く やさしい笑顔 わたし いつか 出会うのかしら 思いつたえる あの人に……」                     つづく