ふしぎ魔法 フ ァ ン フ ァ ン フ ァ ー マ シ ィ ー            その39(製作ナンバー37話)     な に か が み ち を や っ て く る                 第2稿                脚本/ 小 中 千 昭 Animation Play by Chiaki J. Konaka                       98/07/30 登場人物 ぽぷり〔西野かおり〕(10) ふきこさん〔ファンファンファーマシィー店主〕 ニボシ〔黒い子猫〕 のんすけ(03)〔各話必ず一回登場〕 煙草屋店主 カメラ店主 なつみ なつみの祖母 一人旅の学生 ○にこにこ銀座商店街/午後 ランドセルを背負ったぽぷり、スキップしながら帰 ってきたところ。 ぽぷり「♪みーんな笑顔で楽しいお店!──あら?」 カメラ店の前に、皿に載ったおはぎ。 ぽぷり「なんでこんなところに置いてあるの……?」 ふと見回すぽぷり。 ぽぷり「あっ!」 その隣の店も、その正面の店も、みんな店の前にお はぎを載せた皿を置いている。 ぽぷり「(思案)変だわ。まるでお祭りみたいだけど──」       ─────────────────────── 煙草店主、店の前に、皿に載せたおはぎを置いてい るところ。ぽぷり駆けてきて── ぽぷり「たっ、煙草屋のおじさん、お、おはぎ!」 煙草屋「おやぽぷりちゃん、お帰り。これはね、ごんまやせさん にあげるんだよ」 ぽぷり「え? ごん……」 カメラ店主「(来て)ごんまやせさんの日ですからね」 ぽぷり「ねっ、ごんまやせさんって誰なの?」 煙草屋「さてねぇ、何と言えばいいのやら……」 ぽぷり「え?」 カメラ屋「毎年この日の夜、このにこにこ銀座をごんまやせさん が通るんだ。ずっと昔からね」 ぽぷり「通るだけ?」 煙草屋「そう、通りすぎるだけ。でも、おはぎが店の前に置いて あると、それを食べる事もある」 ぽぷり「それで?」 カメラ屋「食べて貰った店は、その一年の間繁盛するんだ」 ぽぷり「凄ーい! で、そのごんまやせさんてどんな人なの?」 顔を見合わせる煙草屋とカメラ屋。 煙草屋「確か、とてもとても背が高いひょろーっとした人なんじ ゃなかったかな」 カメラ屋「(怪訝)おや、変な事言いますね。ごんまやせさんと いうのは狸の化けた太った姿じゃないですか」 煙草屋「はて? 私はひょろ長いって昔から聞いてましたがね」 カメラ屋「いいやそれはおかしい!」 ぽぷり「あああの、喧嘩しちゃダメよ!」 カメラ屋「あ? あはは。喧嘩なんかしないけどね」 煙草屋「しかし妙ですな。昔からそう聞いていたつもりだが……」 ぽぷり「(はっ)昔のお話だったら──!」 ○木野内電気店/夕刻 ぽぷり「こんにちはーっ!」 飛び出してくるなつみ。 なつみ「ぽぷりちゃんだーっ」 ぽぷり「こんにちは、なつみちゃん」 なつみ「あのね、今日ね、ごんやませさんの日なの。だからなつ     みもおはぎ作ったの」 ぽぷり「ごんやませさん? (あり?)」 なつみの祖母「(続いて出てきて)あら、いらっしゃい。なつみ、 ごんやませさんじゃなくて、ごんまやせさんだよ」 なつみ「へへへ」      なつみの祖母、店前に盆を置いて、シャッターを閉め      始める。 ぽぷり「えっ? もうお店お終いなの?」 なつみの祖母「今日はどの店も早く閉めるのよ。そうしないと恥     ずかしくてやって来れないのよ、ごんまやせさん」 ぽぷり「そう! あたしその事を聞きに来たの! ごんまやせさ んって、どんな人なの?」 なつみ「あのね、ごんやませさんはー、えーとなつみくらいの大 きさなの。でも、とっても年をとったおじいさん」 ぽぷり「ええっ!? 煙草屋さんとカメラ屋さんが言ってたのと、     全然違うわ!」 なつみの祖母「おや、そうでしたか? 私はずっとそう聞いて育     ちましたけどねぇ」 ぽぷり「なんか、本当にいるって思えなくなってきたわ」 なつみ「いるよー、ごんやませさんいるよー」 ぽぷり「どうして?」 なつみ「だってね、なつみのおうち、去年おはぎ食べて貰ったん だもの」 ぽぷり「本当!?」 なつみの祖母「そうなんだよぽぷりちゃん。あと、八百ひちさん のところも食べて戴いたんだよ」 ぽぷり「ふうん……」 ○ファーマシィー店先 おはぎがやはり置いてある。 ぽぷり「(オフ)ふきこさんも知らないの?」 ○同/店内 ふきこ「その土地土地で、不思議なことってあるものですわ」 ニボシ「にゃあ」 ぽぷりの前に出されるおはぎ。 ぽぷり「わあ! あたしも食べていいの?」 ふきこ「ええ。ぽぷりちゃんの分も作っておきましたの」 ぽぷり「ごんまやせさんにお礼を言わなくっちゃね! ごんまや せさんのお陰であたしもおはぎ食べられるんだもの! いただきまーす!」 ぱくっ。 ぽぷり「(もぐもぐしながら)れも、ごんまやせさんってろんな ひとなのかひら。みんなみようとしないのってへん」 ふきこ「(苦笑)ぽぷりちゃん、食べている時にはお話してはい けません、ってお母様に言われてますでしょ?」 ぽぷり「(赤くなって/ごくん)ご、ごめんなさい。でも、年に 一度だけ、にこにこ銀座を通るなんて変わった人」 ふきこ「人、とは限りませんですわ。ね、ニボシ」 ニボシ「にゃ」 ぽぷり「!──そうよね! 一年に一度だけ通るなんて絶対変過     ぎるもの! 何かとっても不思議なものに違いないわ!     よーっし! あたし絶対見たい!」 ○にこにこ銀座商店街 日が沈み──、群青の空となる。 シャッターがみな閉まっており、歩く者もいない。 と、虚空よりふわり、と傘で降り立つぽぷり。 ぽぷり「ピンチィ、ありがとう!」 ピンチィ「しゅっしゅー」 ピンチィ、小さくなって耳を丸め、ぽぷりの周囲を 飛んでいる。 ぽぷり「(見回し)良かった! まだどこのおはぎも食べられて ないみたいよ」 ピンチィ「しゅ」 ファーマシィー脇の路地に入ってしゃがみこみ── ぽぷり「さて、ごんまやせさんってどんな姿なのかしら。あ、ひ ょっとしたら普通には見えない魔法みたいな人なのかも」 ぽぷり、右ポケットからタビスのルーペを出す。 ぽぷり「ふふっ。でもこのタビスのルーペがあれば、見えないも のだって見えちゃうわ。用意オッケー!」 ─────────────────────── 夜が更けていくにこにこ銀座商店街。 ─────────────────────── 膝を抱えて待っているぽぷり。寒風が頬を撫でる。 ぽぷり「う、寒……。ごんまやせさん、てどんな姿なのかしら」 う〜んと考えるぽぷりの言葉に合わせて、シルエッ トが次々に変容。 ぽぷり「(オフ)ひょろーっとしてて、でも太ってて、でも背の 高さはなつみちゃんくらいで……、おはぎをいっぱい食 べられるんだから、お腹は大きいのかも。でも恥ずかし がり屋さんて事は、もっと不思議な姿なのかも……」 自分の想像にぷっと吹き出すぽぷり。 ぽぷり「へぇんなの(くすくす)」 と──、金属の触れ合う音が近づいてくる。 ぽぷり「誰か来る!」 バッ、と立ちそっと建物の陰から通りを覗く。 ぽぷり「(息を呑む)」 公園側の階段を登って来る人影がぼうっと街灯に浮 かび上がる。判然とはしないが、バランスが変な、 とても人間とは思えないシルエット。 ぽぷり「あれが──、ごんまやせさん……?」 黒い人影、ゆっくり歩いてくる。 と──、ファーマシィーの玄関前で立ち止まり、店 先のおはぎの皿をじっと見つめている。 ぽぷり「! (小声)ふきこさんのおはぎ!」 黒い人影、しゃがみ込んで皿を手にとる。 ぽぷり「(嬉しい)今年はファンファンファーマシィーのおはぎ が食べられるんだわ!」 黒い人影、口をあんぐり開けおはぎを食べている。 ぽぷり「でも──、暗くて顔がよく見えないわ」 ピンチィ「(いきなり大声で)しゅかしゅかーっ」 ぽぷり「(ギョッ)だっ、だめよピンチィ、静かにっ!」 ギョッとしたのは黒い人影も同じ。否、ぽぷりの声 に驚いたのだ。 ぽぷり「(ピンチィの口を抑えている)あ……、こっちを見てる」 ピンチィ「(くぐもった声)しゅーしゅー」 ぽぷり「(は……)ピンチィの声、聞こえるのってあたしだけだ った……。どうしよぅ、ごんまやせさん恥ずかしがり屋 なのに──、でも、あたし絶対見たい!」 ぽぷり、バッと路地から通りに出る。 ギクッ、となる黒い人影。 ぽぷり「あ、あのー、ごんまやせさん、ですよね?」 黒い人影「……」 ぽぷり「脅かしちゃって御免なさい。でもあたし、どうしてもご んまやせさんのお顔が見たくって──」 ダッ! いきなり駆けだす黒い人影。ぽぷりの脇を 抜けて駅方向へガチャンガチャンと凄い音を立てな がら走っていく。 ぽぷり「ま、待って!」 後を追うぽぷり。 がちゃんがちゃん。黒い人影が背負っている物に、 金属の物が一杯ぶら下がっているらしい。 ぽぷり「待ってーっ!」 黒い人影、追いつかれると思ったのか、バッと立ち 止まり、左右を見回して──、路地へ! ぽぷり「どっ、どうしよう! ごんまやせさんが来年から来なく なったら──あ、あ、あたしのせい!? 待って!!」 ○路地から路地 にこにこ銀座商店街から神社側へ入り込んだ路地。 古い旧家が並ぶ狭いくねくねとした道。 そこをバタバタと走る黒い人影。 ぽぷり「どうして逃げるの!? 話聞いてくれたっていいじゃない」 黒い人影、どんどん先へ行ってしまう。 ぽぷり「ああっ! 見失っちゃったら二度と来てもらえないかも! ピンチィ!」 バッと傘を広げるぽぷり。 ピンチィ「しゅかしゅか」 バッと膨らみ、傘の中に入るピンチィ。 ぽぷり「あの人に追いつきたいの!」 ピンチィ「しゅかっ、しゅー」 バン! 傘が風で押され── ぽぷり、地上1mの高さで狭い路地を駆け抜ける。 ぽぷり「こ、こんな飛び方、初めて……」 角を幾度か曲がる内に黒い人影に段々近づいていく。 ぽぷり「見つけた!」 黒い人影、バッと通りへ。 ○にこにこ銀座商店街 バン! 傘を持ったまま飛び出すぽぷり。 見回すと── 黒い人影、再び公園側の階段を下っていくところ。 ぽぷり「! 戻ってっちゃう!」 ○階段〜公園 黒い人影、はあはあと息を切らしながら階段を下り、 公園に出たところで、小休止──。 黒い人影「!」 ふと顔を上げると、ぽぷりが傘を持って立っていた。 黒い人影「ひっ(と引く)」 ぽぷり「お願い逃げないで! あたしぽぷり。あの、御免なさい。 あたしどうしても、ごんまやせさんの顔を見たくって」 と──、黒い人影、街灯の下に来てその顔を露す。 ぽぷり「あ!」 それは、普通の徒歩旅行姿の小太りな若者。異様な シルエットは背負っている巨大なバックパックのせ いだった。口の周りには餡がついた人懐こい顔。 青 年「あの、ごんまやせさん、て誰の事?」 ぽぷり「え……?」 青 年「僕はそんな名前じゃないよ。誰かと間違えてない?」 ぽぷり「(しょぼん)そんなぁ……」 ─────────────────────── ブランコにそれぞれ座っている。 青 年「大学をもうすぐ卒業しちゃうからね、今の内に、ずっと やりたかった事をやろうと思って」 ぽぷり「日本中を歩いて旅をするなんて──凄いわ!」 青 年「もうこの靴だって五足目だよ。足なんて豆だらけ(苦笑) 腹が減ってたし──、あんまりあのおはぎが美味しそう だったから──つい……」 ぽぷり「ううん。ふきこさんだって、美味しそうって言って貰え たら喜んでくれるわ、きっと」 青 年「──だといいけど。さて、じゃそろそろ行くよ」 ぽぷり「──」 青年、立ち上がり、歩きだすが──振り向き 青 年「──人違いで、残念だったね」 ぽぷり「──人違いじゃ、ない」 青 年「え?」 ぽぷり「ふきこさん言ってた。にこにこ銀座は不思議なところだ って。いろんな人がやってきたり、通りすぎたりするの」 青 年「ふうん……。面白い町なんだね」 ぽぷり「それにとっても素敵なところ! お兄さんが今夜にこに こ銀座を通るのって、ただの偶然じゃないって気がする」 青 年「どういう、事?」 ぽぷり「必ず、毎年、誰かがこのにこにこ銀座を通るのよ。でも     それは毎年違う人。だからみんな違う事を言ってたのよ」 青 年「そっか……。今年はそれが僕だったんだ……。旅をして     るとね、今まで見えなかったものが見えてくるんだ」 ぽぷり「え……?」 青 年「毎日違う景色の中を歩いていると、季節や自然、人の生     活、ちょっとした違いが感じられるのさ。僕が今日ここ     を歩くのは偶然だけれど、にこにこ銀座に何となく惹か     れてきたのかもしれない。ぽぷりちゃんが言う様に、素     敵な人達の町みたいだからね」 ぽぷり「──(感動)それって、絶対素敵な事だわ」 青 年「ぽぷりちゃんも、大きくなったら旅をしたらいい」 ぽぷり「ええ! きっとあたしも旅をするわ!」 階段を昇っていく青年。 ぽぷり「さようなら! 今年のごんまやせさん!」 青 年「来年のごんまやせさんによろしく言ってよね!」 ぽぷり「うん!」 手を振り続けるぽぷり。                     つづく