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ユリ属


このサイトで紹介している種・変種・グループ

ヤマユリ サクユリ スカシユリ テッポウユリ
ヤマユリ
auratum
サクユリ
auratum var. platyphyllum
スカシユリ(交雑種)
(× elegans
テッポウユリ
longiflorum
 
オトメユリ カノコユリ イトハユリ オリエンタル・ハイブリッド
オトメユリ[ヒメサユリ]
rubellum
カノコユリ
speciosum
イトハユリ
tenuifolium
オリエンタル・ハイブリッド
(種不明の物)

ユリ科Liliaceae
学名Lilium L.
英名lily
和名ユリ属
分布北半球の亜熱帯〜亜寒帯(北緯10〜65°)
種数約96種(アジア周辺に59種、北米に25種、ヨーロッパに12種)
属名の性別中性

属名の由来

マドンナ・リリー(L. candidum)に付けられたギリシア名「leirion」と同じ意味を持つラテン古名「lilium」に因む。もともとは、古ケルト語の「li(白)+lium(花)」に由来するようである。和名の「ユリ」については、「風に花が揺り動く」、「寄り合う」に由来する等、諸説あるが、はっきりしていない。

旅行にある
関連施設
どんでん平ゆり園南くりこま高原一迫ゆり園
メモこのページは少しずつ説明を追加していく予定です。ご了承下さい。

生態・形態など
 多年生の草本で単子葉植物です。種(しゅ;species)によって生態が異なりますが(詳細はそれぞれの種のページをご覧下さい)、一般に耐寒性があり、寒さには強いですが、暑さには弱いようです。球根は鱗片から成る鱗茎ですが、チューリップなどと異なり、鱗皮に包まれていません(無皮鱗茎)。ご存じの通り、百合根として、食用・薬用とされています。根は、下根と上根があります。下根は鱗茎の基部から出て、地上部を安定させる働きがあるそうです。一方、上根は、茎の地下部から発生したもので、肥料を吸収する役割があるそうです。花は、形態が似た3枚の外花被片と3枚の内花被片から成る同花被花()です。雄蕊は6本、子房は上位で、3室に分かれています。受粉に関しては、自家不和合性の種もあるようです。

 花被とは、雄しべ、雌しべを守る花葉のことで、花被片は、その一枚一枚のことです。花被片が同質で、配列が内側か外側かで区別される場合、内側の物を内花被片、外側の物を外花被片と称し、このような花被片から成る花を同花被花と呼びます。これと異なり、外花被片と内花被片の質が異なる場合は、外花被片を萼片、内花被片を花弁と称し、そのような花被片から成る植物を異花被花と呼びます。

 繁殖は実生、または、分球・木子繁殖・鱗片差しなどの無性繁殖によります。実生で繁殖させる場合、播種から開花まで数年かかりますが、シンテッポウユリのように、播種後7〜9ヶ月で開花する物もあります。なお、開花のためには、鱗茎が一定量の低温に遭遇する必要があります。

 歌田氏らによると、種子が発芽してから地上部が発達するまでに、次の5つの段階(ステージ)を経ると言われています。なお、各ステージの適温や処理期間は、種間や採種環境によって異なるそうです。

ステージI
地下発芽誘導期

 播種後の高温処理(30℃)によって種子内部で生理的な変化が進み、それに続く地下発芽が促進される時期。

ステージII
地下発芽期

 ステージI より低い低温(20℃)で地下発芽が起こる。

ステージIII
小球形成期

 発芽後直ちに小球の発達が認められるが、20℃で成熟し低温感応性を持つようになる。

ステージIV
低温感応期

 低温(5〜10℃)に感応して上胚軸休眠が打破される。

ステージV
展葉期

 ステージIV の終了後ただちに第一葉が出現する。20℃が適温。

 また、「花の品種改良入門」や「花専科*育種と栽培・ユリ」によると、種子の発芽は子葉の出方と発芽の遅速によって、以下の四つのタイプに分けることが出来るそうです。

発芽特性のタイプ原種
地上速発芽イワユリ、ヒメユリ、スゲユリ、テッポウユリ、コオニユリなど
地上遅発芽マドンナリリー、キカノコユリなど
地下速発芽クルマユリ、エゾスカシユリ、ウケユリ、タモトユリ、カノコユリ
地下遅発芽ササユリ、ヤマユリオトメユリサクユリ

地上:子葉が地上に出る。地下:子葉が地下に留まる。
速発芽:播種後数週間〜数ヶ月で発芽。遅発芽:播種後半年〜1年以上経て発芽。

 速発芽と遅発芽は、ステージI〜V を経過する時間が種によって異なることに起因するものと思われます。


主な種類
 存在する種数は上記の通りです。これらのうち、日本には15種が自生していますが、そのうちの日本固有の種は、以下の6種のみだそうです(変種は省略しています)。

・ウケユリ(請百合、受百合;L. alexandrae hort. Wallace
ヤマユリ(山百合;L. auratum Lindl.
・ササユリ(笹百合L. japonicum Thunb. ex Houtt.
・イワトユリ(岩戸百合;L. maclatum Thunb.
・タモトユリ(袂百合;L. nobilissium (Makino) Makino
オトメユリ(乙女百合、別名:ヒメサユリ[姫早百合];L. rubellum Baker

 また、日本原産で、中国と台湾にも分布している種として、テッポウユリ(鉄砲百合;L. longiflorum Thunb.カノコユリ(鹿の子百合;L. speciosum Thunb.が挙げられます。
 中国、台湾、韓国産で、日本に分布している種として、以下の7種があります。

・スゲユリ(菅百合;L. callosum Sieb. et Zucc.
・ヒメユリ(姫百合;L. concolor Salisb.
・エゾスカシユリ(蝦夷透百合L. dauricum Ker-Gawl.
・タカサゴユリ(高砂百合;L. formosanum A. Wallace
・オニユリ(鬼百合;L. lancifolium Thunb.
・キヒラトユリ(黄平戸百合;L. leichtlinii Hook. f.
・クルマユリ(L. medeoloides A. Gray

 上記の種以外で、観賞価値があり、園芸品種の原種と重要な種として、以下の物が挙げられます。

・マドンナ・リリー(L. candidum L.)…原産:近東パレスチナ付近説
・タケシマユリ(武島百合;L. hansonii Leichtl. ex D. D. T. Moore)…原産:欝陵島の武島
・キカノコユリ(L. henryi Baker)…中国湖北、貴州省
・マルタゴン・リリー(L. martagon L.)…ヨーロッパ〜シベリアに分布
・リーガル・リリー(L. regale E. H. Wils.)…中国四川省の高地


ユリの分類
 ユリの分類法にはいくつかの種類があります。

1. 花の形態に基づく分類(原種の分類1)
 ウィルソン氏(Wilson, E. H.)が1925年に発表したもので、原種を以下の4つの亜属に分類するそうです。浜名湖花博の「花みどり未来館」でも、この分類方法が紹介されていました。ただし、この分類法は、交雑親和性については考慮されていないそうで、少なくとも、今時の研究者でこの分類を支持している人はいないと思います。

テッポウユリ亜属(Leucolirion)…筒状花。横向き、稀に下、斜上〜上向き咲き
テッポウユリ
テッポウユリ
オトメユリ
オトメユリ
ウケユリ、ササユリ、タモトユリ、タカサゴユリ、など
 
ヤマユリ亜属(Archelirion)…漏斗状花。横向き咲き
ヤマユリ
ヤマユリ
サクユリ
サクユリ
など
 
スカシユリ亜属(Pseudolirion)…盃状花。上向き咲き
  ヒメユリ、エゾスカシユリ、イワトユリなど
 
カノコユリ亜属(Martagon)…鐘状花。下向き咲き
カノコユリ
カノコユリ
イトハユリ
イトハユリ
スゲユリ、オニユリ、、キカノコユリなど

2. 形態的特徴と地理的分布を基にした分類(原種の分類2)
 コンバー氏(Comber, H. F.)が1949年に発表した分類が知られています。これ以降にも、更に詳細な解析がされ、新しい分類法が考案されたそうですが、現在でも、コンバー氏の分類が最も受け入れられているそうですし、Dubouzet氏のITS領域を解析した結果も、コンバー氏の分類をほぼ支持するものとなったそうです。
 コンバー氏のオリジナルの文献が手に入らなかったので、以下は他の文献からの間接引用ですが、文献によって異なっています。オリジナルを入手することが出来たら、訂正したいと思います。

a)花専科・ユリ」より引用。それぞれの節に属する種を一部省略しています。ご了承下さい。
 実際には、類縁関係を示す線が引かれていて、図にする方がいいのですが、ここでは省略しました。
 この分類法もウィルソン氏の分類法と同様に、形態が似ているからと言って、必ずしも近縁と言うことではなく、近縁と思って交雑してみても種子が出来ない(縁が遠い)ことがあるそうです。

1節 Martagon(マルタゴン)
クルマユリ、マルタゴンリリー、タケシマユリ
2節 American(アメリカン)
a)
b)
c)
d)
3節 Candidum(キャンディドゥム)
マドンナリリー
4節 Oriental(オリエンタル)
カノコユリヤマユリサクユリ、タモトユリ、ササユリ、オトメユリ、ハカタユリ
5節 Asian(アジアン)
a)コオニユリ、オニユリ、キカノコユリ
b)ヒメユリ、スゲユリ、マツバユリ、イトハユリ、コマユリ
c)
6節 Trumpet(トランペット)
a)リーガルリリー
b)テッポウユリ、タカサゴユリ
7節 Dauricum(ダウリクム)
エゾスカシユリ

b)Nishikawa氏ら(2002年)、Dubouzet氏ら(1999年)の文献より。Nishikawa氏らはcpDNAの3つのスペーサー領域、Dubouzet氏らはITS領域を調べることで、ユリ属の類縁関係を明らかにしています。なお、これらの文献に記載されていた節や種についてのみ記しています。

Martagon
タケシマユリ、クルマユリ
Pseudolirium
Liriotypus
Archelirion
スゲユリ、ササユリ、タモトユリ、オトメユリカノコユリヤマユリ※1)、ウケユリ(※1
Sinomartagon
スゲユリ、ヒメユリ、オニユリ、キヒラトユリ(※1)、イワトユリ(※1
Leucolirion
タカサゴユリ、テッポウユリ
Daurolirion
エゾスカシユリ(※2

※1 Dubouzet氏らの研究の結果によります。オリジナルのコンバー氏の分類では、どの分類に含まれるか調べられませんでした。
※2 Dubouzet氏らの研究で、Sinomartagon に属することが明らかになりました。

3. 園芸品種の分類
イギリス王立園芸協会(Royal Horticultural Society; RHS)による分類が一般的です。

Division 1: Asiatic Hybrids(アジアティック・ハイブリッド)
 オニユリ、マツバユリ、コオニユリ、イワトユリ(スカシユリ)、コマユリ、イトハユリ、ヒメユリ、に由来する雑種。
 雑種のうち、上向き咲き雑種を1(a)、横向き咲きを1(b)、下向き咲きを1(c)とする。
Division 2: Martagon Hybrids(マルタゴン・ハイブリッド)
 片親にタケシマユリ、マルタゴンリリー系統の雑種が用いられたマルタゴンタイプの雑種。
Division 3: Candidum Hybrids(キャンディドゥム・ハイブリッド)
 マドンナリリー、およびこれらと近縁ヨーロッパ原産の種(マルタゴンリリーは除く)より得られた雑種。
Division 4: American Hybrids(アメリカン・ハイブリッド)
 ベリンガム・ハイブリッドなどアメリカ原産の種を中心とした雑種。
Division 5: Longiflorum Hybrids(ロンギフロルム・ハイブリッド)
 テッポウユリ、タカサゴユリの雑種。シンテッポウユリなど。
Division 6: Trumpet Hybrds(トランペット・ハイブリッド)
 キカノコユリなどアジア原産の種を親とするトランペット型雑種。Aurelian Hb.(オーレリアンハイブリッド)、Sunburst Hb.(サンバースト・ハイブリッド)、Olympic Hb.(オリンピック・ハイブリッド)など。
 雑種のうち、筒状花を持つ雑種を6(a)、漏斗状花を6(b)、星形花を6(c)とする。
Division 7: Oriental(オリエンタル・ハイブリッド)
 ヤマユリカノコユリ、ササユリ、オトメユリなどの雑種およびこれらとキカノコユリとの雑種。
 雑種のうち、筒状花を持つ雑種を7(a)、漏斗状花を7(b)、扁平花を7(c)、反捲花を7(d)とする。
Division 8
 以上の1〜7いずれの区分にも属さない組合せの雑種。LAハイブリッド、他
Division 9:原種およびその変種

 その他、余り馴染みがないかもしれませんが、上記の日本に自生する種は、核型によって五つのグループに分類できるそうです。また、先述のNishikawa氏らやDobouzet氏ら以外にも、分子系統学的手法を用いて類縁関係を明らかにしている研究があります。これらについては、今後、機会があったら解説するかもしれません。


本棚以外の参考文献
  • 西尾 剛ら.花の品種改良入門・初歩からバイテクまで.誠文堂新光社.2001年.

  • 浅野義人.ユリ類・栽培の基礎・原産と来歴.農業技術大系・花卉編10.シクラメン/球根類:467−470.?年.

  • 歌田明子ら.ユリの種子繁殖に関する研究.II.ヤマユリ,カノコユリおよびパシフィック・ハイブリッド種子の発芽特性に関する研究.園芸試験場報告A.第12号:135〜148ページ.1973年.

  • Okazaki, K. Lilium species native to Japan, and breeding and production of Lilium in Japan. Acta Horticulturae. 414: 81-92. 1996.

  • Nishikawa, T., et al. Phylogenetic relationship among Lilium auratum Lindley, L. auratum var. platyphyllum Baker and L. rubellum Baker based on three spacer regions in chloroplast DNA. Breeding Science. 52: 207-213. 2002.

  • Dobouzet, J. G., et al. Phylogenetic analysis of the internal transcribed spacer region of Japanese Lilium species. Theoretical & Applied Genetics. 98: 954-960. 1999.

(2003.1.18./最新の更新:2005.11.27.)
 
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