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ヘメロカリス

ヘメロカリス
品種:‘ダブルチャーフル’


ユリ科 ヘメロカリス属(ワスレグサ属、キスゲ属)
学名Hemerocallis hybrida hort.
英名Daylily
和名ヘメロカリス
別名 
花言葉 
メモ

 属名は、ギリシア語の「hemere(一日)+kallos(美)」で、花が一日花であることに由来します。英名も同様です。

 同属の植物に、ヤブカンゾウ(藪萱草、学名:H. fulva L. var. kwanso Regel)や、ユウスゲ(夕菅、別名:キスゲ[黄菅]、学名:H. citrina Baroni var. vespertina (Hera) M. Hotta)などがあります。このページで紹介している一般の園芸品種のヘメロカリスは、東アジア、中国、日本を原産としている物を交配親として育成されたものです。育種が始まったのは19世紀末からだそうですが、盛んになったのは第2次世界大戦以降で、その中心となったのはアメリカです。現在、アメリカでは経済的に重要な植物の一つで、「The American Hemerocallis Society(略称:AHS、アメリカヘメロカリス協会)」があるようです。この協会が、1947年に公式なヘメロカリスの登録機関として活動を始めてから、2000年までに登録された品種の数は、40000を越えると言われています。
 分類方法にはいくつかあります。

  1. 花茎の長さ:矮性(30cm)、低い(30〜60cm)、中間(60〜90cm)、高性(1m以上)

  2. 花の直径:ミニチュア(7.5cm未満)、小型(7.5〜11.5cm)、大型(11.5cm以上)。
    この他、花色や色のパターンによって、更に細かく分類されます。なお、花色は、藍(紺)色と純白以外なら、ほぼあらゆる色が揃っています。含まれている色素は、カロテン(カロチン),キサントフィル、クロロフィル、アントシアンで、これらが含まれている量や割合によって、様々な色が表れるそうです。

  3. 花形:円形、三角形、星形、蜘蛛形、他。花被片が6枚以上あるものは、ダブル(八重)、あるいは、カメリア(ツバキ)型として知られています。

 また、1960年代以降、コルヒチンで4倍体化させた品種も育成されているそうです。なお、原種、古くに作られた品種、最近作られた品種を遺伝子レベルで比較した論文もありますが、ここでは割愛します。

 耐寒性のある多年草で、栽培は容易です。日当たりが良いところが向いていて、日陰では生育が良くないそうです。肥沃な土で良く成長し、土質は選びませんが、pHの範囲は6〜7が最適だそうです。乾燥や多湿には比較的強いそうです。
 冬の終盤の休眠が打破される直前頃から、開花の直前まで、4週間おきに肥料を与えます。肥料は、バランスの取れたもの(詳細は分かりませんが、おそらく、窒素、リン酸、カリが適切に配合されたもののことだと思います)を与えますが、最後に与える肥料は、リン酸の量を多くしてあげると、蕾が良く育つそうです。水はけが良ければ、出来る限り多く水をやりますが、やりすぎて水浸しになると、葉っぱばかり生い茂って、花付きが悪くなるそうです。
 繁殖は、主に株分けで行います。株の更新を図るため、3年ごとに掘り上げて行うと良いようで、時期は、いつでも出来ますが、秋の彼岸頃が一番良いと言われています。実生の場合、開花まで2年かかるそうです。

 種子繁殖の可能性を探るため、種子の性質について検討した研究があります。これによると、室温乾燥条件で保存した種子(採取した種子をシリカゲルの入ったデシケーターに入れ、実験室内に置いたもの。保存期間中の光の有無は不明)を、採取直後から1ヶ月ごとに、温度(10℃、15℃、20℃、25℃、30℃の5段階)と光の有無(明条件・暗条件)を組み合わせた環境下に播種した場合、採取直後の種子では、暗条件・10℃以外の処理区で発芽し、保存後1ヶ月目の種子では、光の有無に関わらず、全ての温度区で発芽したそうです。しかし、それ以上長く保存した種子では、光の有無に関わらず、20℃でのみ発芽したそうです。ただし、光がある条件では、2年間保存した種子でも発芽したものの、光がない条件では、10ヶ月保存した物までしか発芽しなかったそうです。
 また、低温湿潤条件で保存した種子(ポリエチレン袋に密封し、5℃の冷蔵庫に置いたもの)を使って、同様の発芽試験(光は明条件のみ)を行ったところ、10〜25℃では、採取直後の種子より保存後2ヶ月後の種子で発芽率が高く、特に、低温では、発芽率が向上する傾向が著しかったそうです。
 上記2種類の保存条件に加え、低温乾燥条件で保存した種子(シリカゲルの入ったデシケーターに入れ、5℃の冷蔵庫に置いたもの)を、20℃・明条件で発芽試験をして、保存方法について検討したところ、保存後10ヶ月までは、低温湿潤条件で保存した種子の発芽率は、83.3〜95.8%と他の保存方法(室温乾燥条件:32.5〜83.3%、低温乾燥条件:28.3〜83.3%)より高かったそうです。それ以上長い保存の場合、室温乾燥条件と低温乾燥条件では、発芽率は下がるものの2年後まで発芽したそうですが、低温湿潤条件では、5℃で保存中に発芽してしまったそうです(これについては、休眠が打破されたためと推察されています)。
 以上の実験の結果から、ヘメロカリスの種子は、難貯蔵種子(Recalcitrant seed)の特性を示すと判定されています。

 先にも書きましたが、花は一日しか咲かない一日花です。多くが朝に開いて夕方に閉じる昼咲性ですが、午後に咲き始めて一晩中花開く夜開性のタイプもあります。それぞれに、16時間以上花が開く性質を持つものもあるようです。
 多くの植物で、花の老化にエチレンが関わっていることが知られています。しかし、ヘメロカリスはエチレンに対して感受性を示しません。そのため、エチレンを処理しても花の老化は促進されず、エチレンの作用を阻害するSTS(silver thiosulfate complex;チオ硫酸銀錯塩[チオスルファト銀錯塩])やエチレン生合成阻害剤のAOA(aminooxyacetic acid)を処理しても、花の日持ちを延長させることが出来ないそうです。ただし、ヘメロカリスの花自体は、エチレンを発生するそうです。その量は、他の植物と比較すると、極端に少ないそうです。この生成されるエチレンが、ヘメロカリスの花に対してどのような働きをするのかは、明らかでないそうです。
 タンパク質の生合成を翻訳の段階で阻害するシクロヘキシミド(cycloheximide:CHI)を処理すると、花持ちが6〜7.5日まで延長したそうです(論文=方法?によって少々差があるようです)。花被片に含まれるタンパク質は老化に伴って減少しますが、CHI処理した花では、タンパク質の減少が抑制されたそうです。このことから、ヘメロカリスの花の萎れには、特殊なプロテアーゼ[タンパク質分解酵素]の新たな合成が必要とされ、CHIはこれを阻害することで花の老化を阻害しているものと推察されています。
 その一方で、遺伝子の発現を転写の段階で阻害するアクチノマイシンD(Actinomycin D)で処理しても、花の老化を抑制することが出来なかったそうです。このことについては、花がアクチノマイシンDを処理されたときまでに、老化に必要とされるタンパク質をコードしているmRNAが既に合成されていたのかもしれないと推察されています。


本棚以外の参考文献
  • 箱田直紀ら.ヘメロカリスの花色に関する研究.(第1報)花色と花弁色素の関係について.園芸学会昭和43年度秋季大会研究発表要旨:206−207.1968年.

  • 鈴木貢次郎.ヘメロカリス種子の発芽特性.園芸学会雑誌.第66巻(別冊1):492−493.1997年.

  • Lukaszewski, T. A. et al. Bulb-type flower senescence. Acta horticulturae. 261: 59-62. 1989.

  • Lay-Yee, M. et al. Flower senescence in daylily (Hemerocallis). Physiologia Plantarum. 86: 308-314. 1992.

コメント

 無加温の温室で、苗からの栽培ですが、3月中旬に定植したところ、6月半ば過ぎに最初の花が咲きました。八重咲きと言うことでしたが、花糸が全く弁化していない花があったり、弁化していても、せいぜい2〜3枚程度でした。初めて咲いた花が一重の花だったので、「商品名(八重咲きヘメロカリス)に偽り有りか?」などと思っちゃいました(^^;
 職場の勉強会で、花の老化のことで話題になったので、育ててみました。その勉強会の時、何だか、ヒメノカリスと勘違いしたのか、「ヒガンバナ科」などと仰っていた方がいらっしゃいました(^^;。確かに、名前がよく似ていますね。
 実際に自分で調べてみると、花の老化関連の論文は相当数ありました。ここで紹介しているものは、古い上、ごくごく一部ですし、にわか勉強なので、適切な引用でないかもしれません。ご了承下さい。でも、他の、例えば、色素とか、栽培に関する資料は、検索の仕方が悪かったのか、あまり見つかりませんでした。ここで紹介した色素の学会報告なんて、私が生まれる前のものですし( ̄▽ ̄;。その当時に比べれば、現在の方が分析機器がかなり発達しているので、新しい発見がありそうだと思いますが。(2002.7.13.)

 
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