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クリナム・パウエリー

クリナム・パウエリークリナム・パウエリー


ヒガンバナ科クリナム属(ハマユウ属、ハマオモト属)
学名Crinum × powellii Baker
英名Powell Crinum
和名クリナム・パウエリー
別名 
花言葉 
メモ

 クリナム属の解説は、こちらをご覧下さい。
 クリナム・パウエリー(以下、パウエリー種)は、南アフリカ原産の C. bulbispermum (ブルビスペルムム種。異名:C. longifolium [ロンギフォリウム種])を種子親、C. moorei (ムーレイ種)を花粉親にして作られた交雑種で、1873〜1874年に、種小名の由来となった Powell氏によって作出されたそうです。
 日本には、1925年(昭和初年)に渡来したそうです。

 ネット上で、パウエリー種をインドハマユウの園芸品種(あるいは、園芸種)と紹介しているページを見かけたり、サカタ種苗のカタログ(「園芸通信増刊」2005年春)で「クリナム ポーエリー 別名インドハマユウ」とされていたりしますが、これらは誤りです。「インドハマユウ」とは、C. latifolium (ラティフォリウム種)に当てられた和名です(参考文献:「改訂版・原色園芸植物図鑑.IV・球根編」、「世界の植物」、「原色牧野植物大圖鑑・続編」、「原色花卉園芸大事典」、「花卉園芸の事典」、「最新園芸大辞典」、「園芸植物図譜」、「園芸植物大事典」)。すなわち、パウエリー種は、インドハマユウとは別の種(しゅ;species)であり、ましてや、インドハマユウの園芸品種(あるいは、栽培品種;cultivar)などではありません。仮に、パウエリー種がインドハマユウの園芸品種であるとしたら、学名は「C. latifolium」であるはずで、「C. × powellii」という学名は一体何なのか、という疑問が生じます(園芸品種に学名を付けると言うことは、例えば、リンゴ[学名:Malus domestica]の‘ふじ’や‘紅玉’のような園芸品種に、さらに学名を付けるようなものです。園芸品種に学名は付きません)。種(species)と園芸品種(cultivar)の区別と言う、植物学の中でも基礎的なことが理解出来ていない方は、千葉大学園芸学部の安藤先生のページで勉強して下さい。
 また、前述の通り、パウエリー種の両親は、ブルビスペルムム種とムーレイ種であって、インドハマユウは交配にすら関わっていません。参考までに、Meerow氏らが nrDNA ITS 等の塩基配列に基づいてクリナム属植物の系統発生について調べたところ、ブルビスペルムム種とムーレイ種は共通の祖先を持つグループとしてまとまったそうですが、インドハマユウは別のグループに属することが明らかになったそうです。
 クリナム・パウエリー、インドハマユウ、ハマユウの違いなどをまとめると、以下のようになります。栽培環境によって、異なることがあると思います。

和名クリナム・パウエリー *1インドハマユウハマユウ
別名  ハマオモト
学名C. × powelliiC. latifoliumC. japonicum *2
異名 C. insigne
C. speciosum
C. ornatum var. latifolium
C. zeylanicum *3
C. asiaticum var. japonicum *2
原産地人為的な交雑インド、スリランカ日本
特徴

鱗茎の直径:〜15cm
葉:幅7.5〜10cm×長さ65〜150cm
花茎:〜60cm(〜150cm)
1花茎の花数:8〜10(10〜)
花筒:湾曲、〜10cm
花冠裂片:幅2〜3.5cm×長さ7.5〜12.5cm
花柱は赤
耐寒性あり

鱗茎の直径:〜20cm
葉:幅〜10cm×長さ60〜100cm
花茎:〜90cm
1花茎の花数:10〜20
花筒:〜10cm、帯緑色
花冠裂片:幅2.5cm×長さ〜10cm、外側中央は淡赤
花被片の長さと比べて、雄しべは短く、花柱は長い。

鱗茎:直径〜15cm、円柱状
葉:幅5〜12.5cm×長さ45〜60cm
花茎:〜80cm
1花茎の花数:10〜25
花筒:ストレート。〜10cm
花冠裂片:長さ〜7.5cm
花被片は白色
花柱:長さ10cm、先が紫色
夜中に開花する

主な
園芸
品種
Album’(純白)
Krelagei’(ダークピンク)
Harlemense’(ソフトピンク)
Roseum’(淡桃色)
 Variegatum
耐寒
ゾーン
6(−23.3〜−17.8℃)10(−1.1〜4.4℃)?
年平均15℃線以南に分布

*1 特に付いていないようなので、ここでは、便宜的に学名をカタカナ表記したものとしました。
*2 和製の図鑑では正名と異名が逆になっていることがありますが、「The New RHS Dictionary of Gardening」に従いました。
*3 インドハマユウ(ラティフォリウム種)と C. zeylanicum(ゼラニクム種)を同種とする説もありますが、別種だそうです。

 以下、パウエリー種の紹介です。
 花は、一見、ムーレイ種よりほっそりした外観をしています。写真はピンクの花ですが、この他に純白の花を咲かせる‘Album’という品種もあるそうです。切り花としての需要があるそうです。

 栽培は容易だそうです。土は、有機質に富み、排水性の良く、なおかつ保水性のある物を好むそうです。日当たりは、日光が直接当たらないところが良いようです。生育期間中は、十分に水を与え、肥料は液肥を月に1回程度施与すると良いと言われています。花が終わった後は水の量を減らし、休眠中も土が乾燥しない程度に与えます。一度植えたら、3〜4年は植え替えしなくても良いそうです。植え替えする場合は、早春が良いそうです。病害虫には強いそうです。繁殖は分球か、実生によります。
 交雑親は、両親とも耐寒性に優れる種ですが、パウエリー種は、両親よりも更に耐寒性が強いと言われているようです。露地では、冬季には、葉が枯れてしまいますが、霜の対策をしておけば、植え付けたままでも越冬できるそうです。これは、あくまでも、耐寒性のあるクリナムの話です。パウエリー種とその両親以外のクリナムには耐寒性がないので、加温温室に置く必要があるそうです。

 他のヒガンバナ科植物と同様に、仮軸分枝を繰り返す成長をします。側枝に3〜4枚(平均3.3枚)の葉が形成されると茎頂に花芽が分化し、さらに、その直下の葉の葉腋から新しい側枝が生じるという成長を、春から秋の生育期間中に5〜6回繰り返すそうです。
 花芽が形成されてから開花するまでには1年半かかるそうで、中には、開花に至る前に枯死する花序もあったそうです。このことについては、複数の花序が存在することによる養分競合が起こったためと推測されています。なお、アマリリスバロータと同様に、花芽の形成には温度や日長などの環境要因は影響を及ぼさず、生育可能な温度下では、栄養成長と生殖成長を繰り返すそうです。
 開花するためには(より正確には、雌ずい形成期から花粉形成期に達するためには)、一度、低温に遭遇する必要があるそうです。低温としては、昼/夜の温度が20/17℃の場合は無効で、15/12℃くらいでは30日で効果があったそうです。なお、実験が行われた堺市の自然条件下では、開花に必要な低温遭遇量は12月上旬までに満たされたそうです。
 必要な低温に遭遇した後の開花は、10〜25℃で起きたそうですが、25℃で最も早かったそうです。

追記(2003.11.8.)
 これまで、種小名のカタカナ表記を「ポウェルリー」としていましたが、「園芸植物大事典」の「人名に由来するものは、極力その語本来の発音による」に従って、「パウエリー」に改めました。

追記2(2004.2.22.)
 これまで、「The New RHS Dictionary of Gardening」に従って、命名者名を「L. H. Bail.」としていましたが、「The Plant-Book」に従って、「Baker」に改めました。また、インドハマユウとの関係について追記しました。

追記3(2005.8.27.)
 パウエリー種、インドハマユウ、ハマオモトの比較の表を追加しました。

追記4(2005.9.20.)
 右の写真を追加しました。


本棚以外の参考文献
  • 塚本洋太郎.改訂版・原色園芸植物図鑑.IV・球根編.保育社.1972年.

  • 高林成年.ハマオモト.世界の植物.2294〜2296ページ.朝日新聞社.1977年.

  • 牧野富太郎.原色牧野植物大圖鑑・続編.北隆館.1983年.

  • 塚本洋太郎監修.原色花卉園芸大事典.養賢堂.1984年.

  • 阿部定夫ら.花卉園芸の事典.朝倉書店.1986年.

  • Meerow, A. W., et al. Phylogeny and biogeography of Crinum L. (Amaryllidaceae) inferred from nuclear and limited plastid non-coding DNA sequences. Botanical Journal of the Linnean Society. 141: 349-363. 2003.

  • 森 源治郎ら.クリナム(Crinum × powellii Hort. ex Bak. cv. Album)の開花に及ぼす温度の影響.園芸学会雑誌.第61巻:651−657ページ.1992年.

コメント

 職場に自生しているもので、私が育てたものではありませんが、クリナム・ムーレイのページを作ったついでにと言うことで(^^ゞ。クリナム属植物の生態を調べた文献が、上記参考文献以外に見つからなかったこともありますが。
 私が就職する以前からずっと生えているようで、誰が植えたのか全く分かりません。手入れをされているようにも見えませんし(もしかしたら、誰かが肥料くらいは与えているかもしれませんが目撃したことはありません)、冬も霜対策無しですが(枯れた葉っぱがマルチの代わりになっているのかもしれません)、それでも、毎年7月頃から花茎を10数本伸ばして、綺麗な花をたくさん咲かせています。

 写真は、花リレーで、2000年7月22日〜8月6日に展示したものと同じです。なかなか思い通りの構図・色の写真が撮れなくて(^^ゞ(2002.8.18.)

もう一言(2005.9.20.)
 右の写真を追加しました。左は、花が開いて間もない頃に撮影したもので、状態が良いですが、この状態はあまり長く続きません。普段よく目にする状態の写真も載せておきたいと言うことと、ついでに花序の写真も載せてみたいと思って追加しました。ただし、萎れた花の花色は、実物はもっと濃い色をしています。もっと良い写真が撮れて、なおかつ気が向いたら、差し替えるかもしれません。

 
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