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オトメユリ

オトメユリ


ユリ科ユリ属(リリウム属)
学名正名:Lilium rubellum Baker、異名:L. japonicum Houtt. var. rubellum Makino
英名 
和名オトメユリ(乙女百合)
別名ヒメサユリ(姫早百合)、ハルユリ(春百合)、アイヅユリ(会津百合)、コマチユリ
花言葉

 

メモ

 ユリ属の説明は、こちらをご覧下さい。
 和名と別名は「園芸植物大事典」と「最新園芸大辞典」に従いましたが、別名のヒメサユリの方が頻繁に使われているようで、園芸学会公式ホームページの文献データベース検索でも、オトメユリよりヒメサユリの方がヒット数が多いです。
 異名が示す通り、牧野富太郎博士は、ササユリ(L. japonicum)の変種と考えていたようです。ササユリと比べて、オトメユリは、草丈・花の大きさなどが小さく、開花期が早いと言う違いが認められるそうです。
 新潟県、山形県、福島県、宮城県に自生しているそうです。資料によっては宮城県が抜けていることがありますが、西南部の山形県境の白石川上流域に自生しているらしく、七ヶ宿町の町の花になっているそうです。

 草丈は、ユリ属の中では低く、15〜60cm程度だそうです。花は漏斗状で、横向きに咲きますが、斜め上向きに咲くこともあるようです。花被片に含まれる色素はアントシアニンで、花被片の色は桃色ですが、濃淡の変異があるそうです。球根(百合根)は食用にされるようです。
 ユリ属の中では早咲きで、自生している土地の標高にもよりますが、早いものでは5月上・中旬から咲き始めるそうです(海抜100メートル前後の丘陵地)。最も遅いものでは7月中〜下旬に開花して、8月上旬まで咲き続けるそうです(1000メートルを越す高地の雪田に接する場所)。花芽分化は開花する前年の秋に始まり、年内に完了するそうです。これは、生育期間が限られる寒さが厳しい地域で、発芽後短期間で開花するのに適した習性と考えられています。花芽分化時期については、環境(主に温度)や遺伝的な変異(個体差)があるようですが、新潟大学で行われた研究によると、9月下旬頃に花芽の各原基の分化が開始され、12月上旬頃に全ての個体の花芽が完成するそうです。また、花粉と胚珠は、春になって球根から芽が出た後に形成されたことから、これらが形成されるためには低温に遭遇することが必要であろうと推察されています。

 一年を通して開花させることを目的として、自然開花に加え、抑制栽培、早期促成栽培、後期促成栽培を組み合わせた栽培方法が考案されています。

栽培方法など開花期間概要
自然開花5月上・中旬〜8月上旬上記の通り自生地によって異なる。
抑制栽培自然開花後、早期促成栽培による
開花が始まる翌年の1月下旬まで
 鱗茎を低温(実験では0℃)で貯蔵して長期間成長を抑える方法。実験上は12月に貯蔵を開始し、翌年の6月以降一ヶ月おきに定植。
早期促成栽培2月上旬〜3月下旬 花芽分化をしている鱗茎を冷蔵処理し、開花のためにに必要な低温要求量を人為的に満たす方法。実験上は9月以降2週間おきに冷蔵処理を開始、14週間後に定植。
後期促成栽培4月上旬〜5月上・中旬 冬季の自然低温で低温要求量を満たした鱗茎を保温して開花を早める方法。実験上は1月以降2週間おきに加温。

 抑制栽培では、定植してから花が咲くまでの期間(到花日数)は7〜8月の高温に遭うと短くなるそうですが、高温に遭った株では伸長成長が抑えられたり、花が小さくなったそうです。これについては、冷房することで改善したそうです。また、低温貯蔵期間がおよそ9ヶ月以上になると、異常な花(葯先端の褐変)が生じる割合が高くなったそうです。また、0℃で貯蔵してもシュートが発芽してしまったことから、更に低い温度(−2℃)での貯蔵を検討した方が良いと考察されています。早期促成栽培では、0℃での貯蔵(本冷)の前に、13℃で2週間の予冷を行っています。予冷後に花芽の分化を観察したところ、9月に予冷を開始した鱗茎では、予冷を行っていない鱗茎よりも花芽の発達が早まったそうです。また、予冷開始時期が遅くなるほど(10月末までですが)、到花日数が短く、茎頂、葉長、花被片が長くなり、花数が多くなったそうです。後期促成栽培では、加温開始時期が遅くなるほど到花日数が短く、茎長が長くなったそうですが、花の大きさや花数などには、加温開始時期による違いは認められなかったそうです。
 一般的な栽培では、夏の暑さに注意する必要があるそうです。繁殖は実生が良いそうですが、時間がかかるそうです。

 桃色の花色はユリ属では珍しいため、他の種に導入することを目的として育種に用いられています。花色が白に限られるテッポウユリにアントシアニン系花色を導入しようとして、テッポウユリを種子親、オトメユリを花粉親として交雑を試みたところ、濃いピンクの雑種が得られたそうですが、テッポウユリの品種・系統によって結実率が異なったそうです。また、宮城県農業・園芸総合研究所では、シンテッポウユリを種子親、オトメユリを花粉親として‘杜の乙女’、‘杜の精’(いずれも品種登録は1999年6月)、‘杜のロマン’(品種登録2000年6月)という杜シリーズが育成されています。
 また、オトメユリは細菌病に弱いことから、抵抗性が強い中国産のリーガル・リリーと交配させて強健な雑種を作ろうとした研究もあるようです。オトメユリを種子親、リーガル・リリーを花粉親とした場合は雑種が出来なかったそうですが、リーガル・リリーを種子親、オトメユリを花粉親とした場合は、胚珠培養によって5.3〜6.7%の頻度で雑種が得られたそうです。雑種の花色は淡桃色(白いリーガル・リリーと桃色のオトメユリの中間色)で、中には二重の花を咲かせる系統もあったそうです。本来の目的である、強健かどうかについては検討されていませんでした。


本棚以外の参考文献
  • 大川 清.日本自生ユリの花芽分化期について.園芸学会雑誌.第67巻第4号:655〜661ページ.1989年.

  • Niimi, Y. et al. Time of initiation and development of flower buds in Lilium rubellum Baker. Scientia Horticulturae. 39: 341-348. 1989.

  • 池田幸弘.ヒメサユリの周年開花のための開花調節法.園芸学会雑誌.第66号第2巻:371〜377ページ.1997年.

  • 岡崎桂一ら.胚培養によるテッポウユリ,シンテッポウユリとオトメユリ,ササユリの種間雑種.園芸学会雑誌.第60巻第4号:997〜1002ページ.1992年.

  • Niimi, Y. et al. Production on interspecific hybrids between Lilium regale and L. rubellum via ovule culture. Journal of the Japanese Society for Horticultural Science. 64: 919-925. 1996.

コメント

 球根の植え付けは昨年の11月上旬、芽が出たのは今年の4月上旬、最初の花が咲いたのは5月中旬です。無加温の温室で栽培しています。球根を3球植え付けて、まともに咲いたのは1株のみ。他の2株は病気に罹って蕾が開かなかったり開花しても見た目が悪かったです(--;
 ユリは、他に数種を栽培していますが、これらが芽を出したのは3月上〜中旬。それに比べたら芽が出るのが随分遅くて気を揉みました。芽が出るのが遅かった割に開花は早く、芽が出てから約1ヶ月で花が咲きました。他の種は、このページを作っている時点で、スカシユリの‘ナボナ’、LAハイブリッドの‘アルゲーブ’、テッポウユリの‘デリアナ’が今月中旬以降に咲き始め、サクユリの‘シントシマ’、シロカノコユリがまだ咲いていない状態です。先に書いた習性と関係すると思いますが、遅く芽を出すことで春先の寒さを避けて、早く開花・結実して種子を充実させようという、寒冷地に適した生態のためなのでしょうね。高地では生育期間が更に短くなりそうですけど、それにも適応しているなら見かけによらず逞しいです。
 百合根が食べられることは先に書きましたが、宮城県七ヶ宿町で販売されている「乙女ゆり麺」にも百合根が入っているという話を聞いたことがあります。どんな味なんでしょうね?(2003.6.28.)

 
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