ユリ属の説明は、こちらをご覧下さい。 和名は、花被片の斑点模様を鹿子斑に見立ててことに由来するそうです。別名のドヨウユリ、タナバタユリは、開花時期に由来するものと思われます。別名は、他に、スズユリ、カラユリ、リュウキュウユリ等があるそうです。 原種のユリの一つで、日本では九州(特に、鹿児島県の甑島[こしきじま])と四国に自生しているそうです。また、中国や台湾にも分布しているそうです。
開花期は7〜8月頃です。草丈は50〜170cm、花は下向きで、花被片が反り返っています。花被片の基部には突起があります。花色は、白、桃、紅などで、前述の通り、斑点がありますが、写真のシロカノコユリのように、斑点がない物もあります。芳香があります。鱗茎は食用になります。
コンバー氏のユリの原種の分類では、第4節のオリエンタル(「花専科・ユリ」)、あるいは、Archelirion(Dubouzet氏らの論文)に分類されています。また、カノコユリを親として育成された園芸品種は、イギリス王立園芸協会(Royal Horticultural Society; RHS)の分類のオリエンタル・ハイブリッドに分類されます。世界で最初のオリエンタル・ハイブリッドは、カノコユリとヤマユリの交配によって1869年に育成された L. × parkmanii だそうです。
変種(variety; var.)や品種(forma; f.)があるそうですが、図鑑によって分類法が異なります。一部の図鑑の分類法は以下の通りです。なお、以下の「別」は、「別名」のことです。
1.「最新園芸大辞典」。1955年に発表された阿部氏と田村氏の分類に基づいているそうです(このためか、命名者名が Abe et Tamura となっている変種や品種が多いです)。産地によって、(I)台湾型、(II)甑型、(IIIa)長崎型、(IIIb)高知型の4群に大別されるそうです。異名がある変種もありますが、異名は省略します。
- var. clivorum S. Abe et Tamura(タキユリ[滝百合]、別:ベニカオリユリ[紅香百合])
- f. metaroseum S. Abe et Tamura
- f. vittatum S. Abe et Tamura
- var. gloriosoides Baker(タイワンカノコユリ、別:カネヒラユリ、コニシユリ、アキザキカノコユリ)
- f. sanguineo-punctatum S. Abe et Tamura
- var. speciosum S. Abe et Tamura(シマカノコユリ)
- f. album Masters
- f. album-novum Mallet.(ミネノユキ[峰の雪]、別:ユキヤマユリ、キンシベ、キンシビ)
- f. coccineum S. Abe et Tamura
- f. compactum S. Abe et Tamura
- f. concolor S. Abe et Tamura
- f. erectum Walker(ウケザキカノコユリ)
- f. punctatum Courtois
- f. radiatum S. Abe et Tamura
- f. roseum Masters
- f. rubro-punctatum S. Abe et Tamura
- f. vestale Masters(シロカノコユリ、別:オキナユリ[翁百合]、シラタマユリ
2.「園芸植物図譜」
- var. album hort.(シロカノコユリ、別:シラタマユリ)
- f. album-novum Mallet.(峰の雪、別:ユキヤマユリ、キンシベユリ)
- var. rubrum hort.(アカカノコユリ、別:ヒカノコユリ)
3.「園芸植物大事典」
- var. clirorum Abe et T. Tamura(タキユリ)
「clirorum」は「clivorum(斜面に生えた、丘の)」のスペルミスだと思います。なお、「園芸植物大事典」では、白カノコ、峰の雪が園芸品種(cultivar)として扱われていて、それぞれ、‘白カノコ’、‘峰の雪’となっています。
4.「The New RHS Dictionary of Gardening」。流石に和名は載っていませんが、以下の変種が紹介されていたので、参考までに。
- var. album Mast. ex Bak.
- var. gloriosoides Bak.
- var. magnificum Wallace
- var. roseum Mast. ex Bak.
- var. rubrum Mast. ex Bak.
以上のように、図鑑によって変種・品種・園芸品種の区別や学名がバラバラで、例えば、シロカノコユリは、変種(L. s. var. album/「園芸植物図譜」)であったり、品種(L. s. var. speciosum f. vestale/「最新園芸大辞典」)であったり、園芸品種(‘白カノコ’/「園芸植物大事典」)であったりします。そこで、このページでは、カノコユリに属するこれらの物を一括して扱うことにします。なお、以上の他に、園芸品種として、‘内田カノコ’、‘紅こしき’、‘Grand Commander’、‘Melpomene’等があるそうです。
低温要求性で、休眠を打破し、シュート(葉と茎)を発達させて花を咲かせるためには、鱗茎を低温に当てる必要があるそうです。また、花芽分化は、芽が出てから間もない頃に起こるそうです。 低温処理と植物ホルモンであるジベレリンとベンジルアデニン(サイトカイニンの一種)の組合せが、カノコユリの休眠打破とシュートの発達にどのような影響を及ぼすかについて検討したところ、次のようなことが分かったそうです。
低温処理を行わない場合は、ほとんど成長しなかったそうです。また、この場合は、ホルモン処理を行っても、効果はほとんど現れなかったそうです。
5℃で低温処理を行う場合、処理期間が長いほど(最長で60日)、低温後の生育が良くなるそうです。また、低温処理期間が長いほど、植物ホルモンの効果が現れやすかったそうです。
処理するジベレリンは、GA3 は効果がなかったそうですが、GA4+7 は効果があったそうです。このことから、複数の種類のジベレリンが、カノコユリの休眠打破や花成誘導に関与していることが示唆されています。
5℃の低温処理を60日間行った後に、ベンジルアデニンを、単独で処理した株や、GA4+7 と併用して処理した株では、ジベレリン単独処理の株より、1株当たりの花数が多かったそうです。しかし、ベンジルアデニンとGA4+7 を併用した株の草丈は、ベンジルアデニンを単独で処理した株の草丈や、ジベレリンを単独で処理した株の草丈より、短かったそうです。
追記(2008.8.18.) ‘天女’の写真を追加しました。
本棚以外の参考文献
Dobouzet, J. G., et al. Phylogenetic analysis of the internal transcribed spacer region of Japanese Lilium species. Theoretical & Applied Genetics. 98: 954-960. 1999.
大川 清.日本自生ユリの花芽分化期について.園芸学会雑誌.第67巻第4号:655〜661ページ.1989年.
Ohkawa, K. Effect of gibberellins and benzyladenine on dormancy and flowering of Lilium speciosum. Scientia Horticulturae. 10: 255-260.
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