花粉症のFAQ 2000(慈恵医大花粉症のページより)


抗アレルギー薬について

抗アレルギー薬について少し新しい情報を加えました。


 エッセンス(詳しい内容は下記にあります)

1.苦しくなった時に薬を使って症状を押さえること、そのような対症療法だけが花粉症の治療ではない。
2.花粉症の対策は予防が主体であり、苦しくなったからの治療では満足のいく効果を得にくい。
3.花粉症の患者でも、花粉飛散期の症状が花粉だけとは限らない。
4.花粉症の治療法として、最初は多くの医師の認める標準的な治療法を選ぶのが良いと思われる。
5.花粉症の治療は、日常生活の節制と薬物療法を、早めに行うことが主体となると思われる。
さらに必要により、減感作療法や手術療法を加え、予防することもある。
6.花粉飛散の初期から抗アレルギー薬の内服を開始しこれを続けるのが他の予防より簡便であり、有用性も高い。
7.花粉症の治療に用いられている、薬の効果、使い方と副作用を知るのが望ましい。
8.花粉症の非常時に用いられる薬剤を長期間用いない。また翌年以降に用いないで済むように予防する。
9.花粉症が翌年以降、自然に治ることはあまり期待できない。
10.症状を繰り返すことで鼻が過敏になったり、寝不足やイライラ感などから全身が過敏になったりすると、花粉症の治療が難しい。これは、症状と過敏性亢進がお互いに悪循環の形で繰り返されることによると考えられる。


目次

A.花粉症とは?
B.花粉症の診断について
C.花粉症の治療方針について
D.花粉症の薬について
E.そのほかの花粉症の治療について


A.花粉症とは?

1.花粉症といわれる時と、アレルギー性鼻炎といわれる場合があります。どう違うのでしょうか?

 花粉症は花粉が原因で起こるアレルギー性炎症です。主なものは花粉によるアレルギー性鼻炎とアレルギー性結膜炎ですが、咽頭炎、喉頭炎、皮膚炎、花粉喘息などが出る場合もあります。アレルギー性鼻炎の原因は花粉以外にも、ダニ、カビ、ペットの毛などがあります。従って、両者はかなりの部分が共通し、病気の理解や治療法はほぼ同じように考えて良いと思います。

2.春以外にも春先と同じ症状がありますが、やはり花粉症でしょうか?

 花粉症は花粉が原因で起こる病気ですが、様々な花粉が様々な時期に飛散し、同じような症状を起こします。そこで、他の花粉症の合併も疑われますが、家の中のほこり(ダニ)なども原因となっている可能性があります。日本では今までに50種類を越える花粉症が報告されていますが、重要な花粉はスギ、ヒノキなどの樹木からの花粉と、イネ科(カモガヤ、ハルガヤ)やキク科(ブタクサ)などの草の花粉があります。地域により飛散する花粉はかなり異なるようですが、スギ花粉は北海道と沖縄を除き日本全国的に重要な花粉です。また北アメリカではブタクサ花粉症、欧州ではイネ科花粉症がもっとも重要な花粉症と考えられています。

3.花粉症を何年も繰り返していますが、いつになったら治るのでしょうか?

 花粉症の予後についての研究は少ないのですが、約2%から5%しか自然に治らないと報告されています。お年寄りが新たに発症することは多くはありませんが、若い時に始まった花粉症が老年期まで続くことは少なくないようです。またスギ花粉の飛散が今後減少するかどうかは、まだはっきりした予定は立っていません。日本気象協会村山先生の試算では、2040年では地球の温暖化が進み、雨量が減少するために関東地方ではスギ花粉数が1.5倍以上に増加し、患者数が20%増加するとのことです。したがって、患者さんにとってはしばらくは花粉症が長く続くものとして長期的な対策を練るのが良いと思います。長期的な効果を期待するには減感作療法(免疫療法)があり、重症の方や薬の副作用を減らす目的の方に勧められます。

4.5月にヒノキ花粉症がありそうだと言われましたが、これはスギ花粉症と別のものですか?

 ヒノキ花粉とスギ花粉は違うもので顕微鏡でも区別が付きます。ただし花粉の中のアレルギーを起こす成分に共通性があることから、両者の花粉で同じように症状を起こすことも少なくありません。実際にスギ花粉症患者さんの約7割がヒノキ花粉に対するIgE 抗体を持っているので、スギ・ヒノキ花粉症と言った方が適切かも知れません。逆にスギ花粉とヒノキ花粉でそれぞれに独自の成分がアレルギーを起こすことから、スギ花粉だけに症状を起こす患者さんも少なくありませんが、ヒノキ花粉だけに症状を起こす患者さんは非常に少ないようです。そこで病名の一本化は今後の研究にかかっていると思われます。 
 ヒノキ花粉はスギ花粉より遅れて飛び始め、飛散終了時期もスギ花粉の終了時期より遅れる場合が多く、ヒノキ花粉症を合併するとふつうの人より症状が長引きます。また西日本では飛散数がスギ花粉飛散数を越える場合もあり、地域により特に注意が必要です。ヒノキはスギより成熟が遅いのですが、将来的には成熟したヒノキが更に増加し、ヒノキ花粉の飛散割合が多くなるものと考えられています。スギ花粉飛散の少なくなる4月下旬頃に症状が悪化する場合はこのヒノキ花粉症を疑う必要があります。診断法には現在のところ注射や誘発用のエキス液は市販されていないので、血液検査で特異IgE抗体を測定します。くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみの症状から、原因がスギ花粉なのか、ヒノキ花粉なのか、それともほかのアレルゲンなのか区別は困難です。

5.スギやヒノキは日本特有のものですか?

 日本スギは日本特有ですが、台湾や中国にこれと似たスギがあり、日本スギと良く似た抗原性を持ち同じように花粉症を起こす可能性があります。スギ科は9種類に分類されほとんどが東アジアや北米といった北半球にありますが、唯一南半球ではタズマニアにスギ科の植物が見られます。
 ヒノキも日本特有ですが、世界にはヒノキ科の植物が多く、北半球にも南半球にも同じように分布し、7属に分類されています。これらの花粉に共通の抗原性(アレルギー反応を起こす力)があるかどうかは十分には解明されていません。ヒノキ属はヒノキ、サワラ、ローソンヒノキ、ヌマヒノキ、ベニヒなどに別れ、日本国内にあり、共通の抗原性を示す可能性があります。



B.花粉症の診断について

1.花粉症かどうかはっきり知るためには、どうしたら良いでしょうか?

 まず花粉症の症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ)が花粉の吸入に応じて起こることを確認することが必要です。その際に花粉飛散数の増減と症状の増減を比較することが役立ちます。ただし、花粉症の患者さんはスギ花粉以外の原因物質(アレルゲン)で症状が起こることは少なくないので、別の原因物質があるかどうか確認することは重要です。最終的な原因物質の確認にはアレルゲンの皮膚試験、アレルゲンの鼻粘膜誘発試験、血液検査でIgE 抗体を測定することなどが行われます。

2.花粉症を起こさないために、花粉を吸わない注意を払っているのですが、十分ではありません。どうしてでしょうか?

 花粉症は当然吸入する花粉が原因ですが、ほかの要素もかなり重要な場合があります。まず花粉以外のアレルゲン(原因物質)が関与が考えられます。スギ花粉以外に家のほこり、ダニ、ペットの毛などがアレルギーを起こしやすいと考えられます。花粉は屋外での注意、ほこり、ダニは室内での注意と、異なった対策が必要です。次に体調の悪化によっても症状を起こします。これには寝不足、ストレス、感冒、過度の飲酒などが含まれます。また点鼻薬の使いすぎにより、鼻づまりが取れなくなっていることも少なく有りません。
 結論として、花粉症の症状には吸入花粉以外の要素も多かれ少なかれあり、これらの要素を取り除くことも花粉症の時期の治療のために必要です。花粉以外の要素の有無については、花粉飛散開始前からの症状を把握する事や、花粉飛散終了後も残った症状を検討することが役立つと思います。このためにはアレルギー日記というものがあり、これを患者さんに毎日記載してもらい、診察の際に確認いたします。

3.花粉症だか風邪だかはっきりしません。どうやって区別したら良いのでしょうか?

 花粉症も風邪もくしゃみや鼻水、鼻づまりの症状がありますので区別が付かないこともあります。ただしお話を十分に聞いたり、鼻の中を観察することで診断はある程度可能です。この両者は別の病気で、花粉症はアレルギー反応が引き金となりますが、風邪はインフルエンザのことでしたらビールスが原因です。花粉症は発熱、のどの痛みや消化器症状などの全身症状が少なく、鼻症状と眼症状が主体で、症状の続く期間が長いのが特徴です。また花粉症は遺伝することが多く、家族にアルルギー疾患を持つものが多いことが診断に参考になります。従って鼻や目だけの症状が2週間以上続く場合は花粉症があることも疑うのが良いと思います。必ずしも家族にアレルギー疾患を持つものがいなくても、花粉症を発症することは少なくありません。また花粉症と風邪を合併すれば症状は重くなり、診断がやや難しくなり、また治療の効果が得にくくなります。


C.花粉症の治療方針について

1.他人と違った治療法で治したいのですが、どんなものでしょうか?

 民間療法を別としても、花粉症に対して多くの治療法があります。その中でまず最初に選ぶ治療法としては、多くの医師のコンセンサスを得られる標準的な治療法が良いと思います。日本アレルギー学会では、アレルギー性鼻炎(含花粉症)に治療ガイドラインを示しており、これは、「生活指導・患者教育」、「薬物療法」、「減感作療法」および「手術療法」の4種類に分けられます。「生活指導・患者教育」、「薬物療法」がほとんど全ての患者さんに勧められる治療ですが、「減感作療法」「手術療法」を加えることを勧める場合も少なくありません。また他にも特殊な治療法も多々ありますが、まず一般の患者さんが、最初に試みる治療法とはいえないと思います。
 花粉症に限らず様々な治療法には、健康保険の使えるものと、使えずに自費で支払うものがあります。健康保険が使えるものは、健康保険組合がその病気に対しその治療法を認めている場合ですが、使えないものは認めていません。健康保険組合の判断が全て正しいとは思われませんが、ほとんど全ての医療機関がこの判断に従って治療を行っているので、その判断の客観性は高いと思います。これに対し、保険の使えない治療法は限られた医療施設で行われていることが多いと思われます。

2.仕事が忙しいのです。あまり苦労をせずにすぐ治る良い薬はありませんか?

 安全でだれでも使え、すぐ治る薬はありません。特に、症状が強い人にすぐ治るよい薬は無いと考えた方がよいと思います。また仕事が忙しいこと自体が、花粉症の症状を強くしていることが多いようですので、日常生活を考え直すのも必要です。根本的には、薬だけで花粉症を治そうと考えるのは正しくなく、生活上の注意などの日常生活の節制が早期から必要と思います。症状を強く抑える薬は非常手段と考えた方が良く、副作用が起こりやすい為ごく短期間しか使えませんので、その期間を過ぎたら薬を中断する予定が必要です。今年苦労をした方は翌年以降に向けて、重症化を予防する治療を相談するのが良いと思います。

3.花粉症はどこの医療機関にかかったら良いでしょうか?

 花粉症の症状は鼻と目が主に起こります。またのどのかゆみ、顔面の皮膚のかゆみや皮膚炎、気管支喘息などが加わることもあります。したがって患者さんの症状の強い部位を実際に観察できる診療科が良いと思われます。実際、花粉症だと言ってくる患者さんが別のアレルギー性鼻炎だったり、別の病気(慢性副鼻腔炎、鼻中隔弯曲症、副鼻腔腫瘍など)であることが少なくありません。そのような場合は、普通の花粉症の治療で十分な効果が得られないこともあります。受診するのに個人開業医でも総合病院でも差し支えなく、治療に大きな差はないと思います。ただし治りが悪い場合はアレルギーを専門としているところで原因や治療方針のチェックを受けるのが良いと思われます。

4.注射で簡単に花粉症がすぐ治るというのを聞いたのですが、どんなもんでしょうか?

 花粉症に対する注射には4種類あり、それぞれ効果が有ることが報告されています。それらは減感作療法、免疫療法(皮内注射)、ヒスタミン添加免疫グロブリン(筋肉内注射)、星状神経節ブロック(首に麻酔薬を注射)、副腎皮質ホルモン(筋肉内注射)などが主なものです。すぐに治ると言われるのは、副腎皮質ホルモンの筋肉内注射の可能性が高いと思います。これを行うことで比較的高い治療効果が得られると思いますが、アレルギーの専門家が花粉症に対して行うことはまず無いと思います。その理由は副腎皮質ホルモンの副作用の問題と、他に地道で安全な治療法があるからです。注射後長期間(1ー4週)効果が持続するとのことですが、これは体内で薬が分解や排泄されにくいことによると考えられます。それでは副作用が出現した際にその原因薬剤を取り除くような対応は難しいと考えられます。特に糖尿病、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、結核、胃潰瘍、妊娠などが合併する場合はこれらの病気が悪化することや、副腎皮質ホルモンからの離脱が難しくなる場合もあり、いくら忙しく混雑している時期でも、使用するならば十分な医師と患者との相談が必要と思います。

5.アレルギーの専門医に診てもらいたいのですが、どのような先生がいるのでしょうか?

 アレルギーの専門医とは2種類あると考えられます。まず日本アレルギー学会では認定医、認定専門医、指導医の3種類の資格を認定しています。認定を受ける際に、筆記試験、臨床経験、学会活動などの成績が評価されます。またその資格を更新する際にも活動内容が審査されます。認定医は耳鼻科で120数名いますが、認定専門医は基の診療科での専門医の資格を合わせ持つことなどが必要で、耳鼻科では全国で50数名にとどまります。また指導医は学会認定の研修施設に勤務していることが条件となります。
 次に最近アレルギー科の標榜が可能となりました。これは単独で標榜することは少なく、「内科、アレルギー科」、「小児科、アレルギー科」などのように併記し、基本の専門領域を標榜してある場合がほとんどです。この「アレルギー科」の標榜は届出制であり、現在資格試験は特に行われていません。
 いずれも健康保険で治療を受ける際に、専門医の資格の有無は医療費に影響を与えません。むしろ専門医の治療の方が薬剤の使用量が少なくなる傾向があると思われます。


D.花粉症の薬について

1.花粉症に用いられている薬はどのようなものですか?

 鼻と目の症状がある際に用いられる内服薬としては抗アレルギー薬、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬、漢方薬などがあります。外用薬として点鼻薬と点眼薬があり、どちらも抗アレルギー薬、ステロイド薬、血管収縮剤、抗コリン剤などがあります。筋肉注射や神経ブロックで薬を用いる場合もありますが、あまり多くはありません。多く用いられているのは、内服薬で抗アレルギー薬と抗ヒスタミン薬、外用薬で抗アレルギー薬とステロイド薬と思われます。皮膚症状や喘息症状も同様に全身的な投与と局所的な投与がされると思います。

2.最近よく抗アレルギー薬を処方されるのですが、これはどういう薬ですか?

 抗アレルギー薬とは化学伝達物質遊離抑制薬とも呼ばれ、花粉症の発症の際に働く肥満細胞などからのヒスタミンなどの化学伝達物質の遊離を抑制します。そのために予防的な働きがあり、花粉症に対しては花粉飛散の初期から用いることで、重症化を防止する事が可能になります。現在この治療が標準的な治療法と考えられますが、アレルギー性鼻炎(花粉症)に用いることが健康保険で許可されているのは内服薬では12種類、点鼻薬で3種類あります。大きく分けて酸性と塩基性に分けられ、前者は眠気が起こらず即効性はありませんが、後者は眠気が起こり即効性が認められます(抗ヒスタミン効果がある)。一日の内服回数は1回、2回、または3回のものがありますが、即効性のあるタイプでは症状が出たときだけに頓服する場合もあります。現在のところこの薬は医師の処方の基に患者さんが手に入れることが出来ます。

3.抗アレルギー薬をいつからいつまで服用する必要がありますか?

 花粉症の重症度(症状の程度)によりますが、本格飛散が始まる2ー4週前に始めるのがよいと思います。本格飛散の定義は確立されてはいないのですが、臨床的にはほとんどの患者さんの症状が起こる時期である20個/cm2/ 日以上、飛散する時期と考えてよいと思われ、これは飛散開始日から10日-14日後に始まります。本格飛散は例年東京で2月下旬と予想されますので、東京では1月下旬から2月の上旬に内服を開始するのが適当と思われます。花粉の飛散は雨や雪などで減少する時期もありますが、抗アレルギー薬は予防効果を期待していますので、途中で中断せずに花粉飛散が少なくなる時期まで継続することが望ましいと考えられます。東京ではスギ花粉飛散終了日は4月の後半ですが、ヒノキ花粉症を合併する場合は5月中旬まで症状が続くこともありますので薬の使用も継続する場合もあります。

4.抗ヒスタミン薬も花粉症に使えるのでしょうか?

 抗ヒスタミン薬はヒスタミンという化学伝達物質が働き花粉症の症状が出るのを、拮抗的に阻害することで薬の効果が出ます。この薬は花粉症に対して即効性があり、症状を押さえる薬といえます。その症状を押さえる効果は、即効性のあるタイプの抗アレルギー薬より高い場合があります。ただし抗ヒスタミン薬は、眠気とのどの乾燥が起こりやすく、長期間継続的に内服する場合は抗アレルギー薬の方が使いやすいと思います。抗ヒスタミン薬は医師の処方で使われるだけでなく、ほとんどの市販薬に含まれています。

5.風邪薬でも花粉症に効くようですが、差し支えないでしょうか?

 市販の風邪薬の内服薬には抗ヒスタミン薬が含まれていることが多く、花粉症にも効果が有ると思います。ただしこの薬には、のどの痛みや、セキ、タンなどの症状を押さえる成分も含まれていることもあり、長期間使用するのはあまり適当ではないと思われます。また抗ヒスタミン薬の副作用として、眠気やのどの乾燥が強く出ることも少なくありません。風邪薬用の点鼻薬は血管収縮性のものであり、自己判断で使って良いのは数日間と思われます。

6.点鼻薬を薬局で買い、使い続けていますが鼻づまりが取れません。どうしたら良いでしょうか?

 点鼻薬には様々な種類のものがありますが、一般の薬局で売られているものは血管収縮性点鼻薬と呼ばれるものです。これは最初は鼻づまりが解消されるのですが、リバウンド現象として鼻づまりが前より悪化し、そのために点鼻薬の使用が長期間となりやすいという副作用があります。従って、花粉症に対し最初に用いるべきものとは思えませんし、もし使う際には非常用と考えたら良いと思います。使い続けて、鼻づまりをこじらせた患者さんの治療にはまずその点鼻薬の中止させるように説得しますが、そのためには多くの時間と根気が必要です。点鼻薬を中止出きても鼻づまりの続く患者さんには、手術を勧めなくては満足がいかない場合も少なくありません。その他の点鼻薬には、副腎皮質ホルモン剤(局所ステロイド剤)、抗アレルギー剤、抗コリン剤などがあり、これらは市販されておらず、医師の処方の基に使われます。

7.副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)も花粉症に使えますか?

 花粉症に対して副腎皮質ホルモンを使うことは少なくありません。多くは点鼻薬として用いられます。この薬は気管支喘息に用いられるものと同様に局所ステロイド薬と呼ばれ、高い治療効果が認められます。これは局所的に働き、全身的な副作用が起こりにくいと言われています。ただしあまり長期にわたって使用すると鼻の乾燥感や違和感、さらに鼻出血が起こりやすいと言われ、むやみに連用するのは控えたら良いと思います。
 また全身的に内服(セレスタミンなど)や注射で副腎皮質ホルモンを使うことがありますが、長期間使用することは避けるべきものと考えられます。必要があって使用する際には効果が出ても、出なくても、中止する時期を使用開始時から決めることが必要でしょう。さもないと薬をやめられない薬物依存となり、副腎皮質ホルモンの副作用がより起こりやすくなると共に、それからの離脱には手間がかかります。このことは他のアレルギー疾患や全身的な疾患を持つ患者さんには特にあてはまることと思います。

8.他の点鼻薬も花粉症に用いることが出来ますか?

 抗アレルギー薬の点鼻薬は安全性が高く、使いやすいものと思います。点鼻薬でも内服薬と同様に、即効性があり眠気を起こしやすいものと、即効性がないが眠気を起こさないものの2種類があります。いずれも効果はあまり強くないので、症状の激しくない状態で使うのが良いと思われます。抗コリン薬の点鼻薬は特に鼻水の多い患者さんに有効です。


E.花粉症の予防について

1.花粉症の予防に自分でできることがありますか?

 花粉症の予防には医師の行うことと、患者さんが自分で行うことの両方があり、両方とも重要です。医師の関与する予防法には、抗アレルギー薬を花粉の本格飛散前に処方すること、減感作療法で体質改善を行うこと、手術療法で鼻づまりが起こりにくくすることなどが挙げられます。患者さんが自分でできることは、花粉飛散開始後には花粉を吸わない節制を行うこと、花粉飛散期前から飛散中にかけて、規則正しい生活をすること、風邪をひかないこと、鼻を乾燥させないことなど体調を崩さないようなの節制があります。花粉症の症状は強い場合が多いので、薬物療法など単独の治療だけでは十分な予防が難しく、いくつかの予防法を組み合わせて、初めて十分な効果があることを理解してください。

2.花粉飛散の情報はどこで得られますか?

 関東甲信越地方ではスギ花粉情報ネットワークを作り、各地の飛散花粉数の測定と花粉情報の提供をテレビ、ラジオ、新聞などを介し行っています。電話による情報は、東京都スギ花粉情報テレフォンサービス TEL: 03-5272-1187や、スギ花粉飛散予報テレフォンサービス TEL: 03-5352-9744 などがあります。インターネットのホームページが各地で開かれているので、これらはとても参考になると思います。また自分の地域に情報がなくても、花粉前線に乗って飛散数が上昇するので、西日本の地域の情報を役立てることができると思います。ほとんどの地域ではスギとヒノキの花粉飛散が終了すると、花粉情報が終了します。スギ花粉飛散が終了する頃からイネ科花粉症が全国的に始まりますが、それについての情報が提供される地域はごく限られています。

3.花粉飛散の情報はどのようにして出されるのですか?

 花粉情報の発信は日本各地にある花粉情報センターで、これは北海道と沖縄を除き各地域にあります。気象情報の提供に沿って日本国内を東北、関東甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州と分けると、関東甲信越、近畿、九州の地方で一つにまとまった花粉情報システムが構築されていて、それ以外の地方では、県レベルでの情報システムを持つ地域が多いと考えられます。情報のセンター機能は大学、病院、日本気象協会、などが持っており、医師会、保健所、林業関係者などの協力で情報を集め、解析したあとで、新聞、TV、ラジオなどのメディアや、医療機関に還元されています。
 実際に飛散した花粉数を測定している地域は多いのですが、いくつかの地域で情報がインターネットを通して手に入れることができます。これらの飛散情報はボランティアによるところが少なくないので、今後住民サービスのために行政の支援が必要と思われます。

4.妊娠中の治療で安全な方法があれば、行いたいのですが?

 20才代から30才代は花粉症が特に起こりやすい年代です。また妊娠中は内分泌の変動のために鼻の症状が悪化しやすい言われます。そこでまず最初には予防が必要と考えられます。花粉は室内にはほとんどないので(室外の約1/100)室内に留まり外出を避けることが有効です。またマスクやゴーグルは接触する花粉数が約1/10になり、これは薬の効果に匹敵すると思います。体調を崩さないような節制も必要です。
 妊娠中の薬物の使用は催奇形性(妊娠4週頃から15週頃まで)と胎児毒性(妊娠16週頃から分娩まで)という影響を考える必要があります。一般的には古くから使われている薬剤の方が経験的に長期使用され、安全性や危険性が判っています。そこで抗アレルギー薬よりも抗ヒスタミン薬の方が使いやすいと思われます。抗ヒスタミン薬の中ではクロルフェニラミン(ポララミンなど)、とクレマスチン(タベジールなど)が安全性が高いといわれています。また内服薬よりも点鼻薬などの外用薬の方が妊婦の血中に入る薬剤の量が少なく、安全性が高いと考えられます。妊娠する可能性のある方は、最終月経の開始日から4週間を過ぎて次の月経が遅れているときには、薬剤の使用は控えるのが良いと思います。
 妊婦に薬は使いにくいので、私たちは温熱エアロゾル療法を好んで使います。これは水道水を42度位に暖めた蒸気を吸うという治療法で、安全性は極めて高いと考えられます。この治療は医療施設で行うよりは薬局や電気店で購入し、自宅で行っていただきます。その他には予め減感作療法を受けて、症状を軽くする方法が予防法としてあり、薬の使用を減らすことが出来ます。予防を十分に行うためには適切な診断が必要と思われ、あらかじめ正確な治療方針の決定が望まれます。


F.そのほかの治療について

1.減感作療法とはどんな治療法ですか?

 減感作療法とは感作された(過敏になった)体質を減らす治療法で、長期的な治療効果が期待できると考えられています。一般的には花粉などの原因物質を週に1ー2回皮内注射を行いますが、注射量は少ない量から徐々に増加させ、ある程度の量になったら維持量として継続します。少なくとも2年間は続けることが必要で、スギ花粉症の有効率は約60-70%と言われています。治療効果の判定には前年度の同じ時期に比較して症状が軽くなったか、また薬の使用量が減ったかなどを比較します。大学病院では行っていることが多いと思いますが、一般の医療施設ではあまり普及された治療法では無いといえます。ただし、治療薬剤の改良などが進めば通院の必要回数が激減し、治療効果が向上し、将来さらに有力な治療法になると考えられます。

2.花粉症に対する手術はどんな場合に受けたら良いでしょうか?

 手術療法は保存的治療(生活指導、薬物療法、減感作療法など)で十分な効果が得られないときに考慮し、特に鼻づまりの強い場合に行われることが多いと思われます。鼻づまりの原因の一つとして鼻中隔弯曲症の合併があり、これを矯正するためには入院が必要です。これに対し下鼻甲介の粘膜が厚くなった肥厚性鼻炎となった場合には様々な手術があり外来通院でできるものもあります。これには粘膜切除術、レーザー照射、高周波電気凝固術、化学薬剤手術などがあります。設備の問題などにより行われている術式が施設により異なりますので、それぞれの医療機関で相談するのが良いでしょう。手術を花粉飛散期の症状のひどい時に行うかどうかは、はっきりとした見解は得られていませんが、私たちは手術を含め必要な対策は花粉飛散前に済ましておくようにしています。また手術で花粉症が完治すると思うのは間違いと思います。花粉症の患者さんは遺伝的に生まれながら花粉に対する抗体タンパクを作りやすい体質を持っています。この体質は手術で治すことは出来ず、そこで手術はあくまで症状を押さえる対症療法の一つとして考えたら良いと思います。

トップページに戻る