ポートレートセミナー

13:はじめのモノクロ現像

登場人物

達夫・・・撮影歴10年以上のベテラン

(はじめ)・・撮影歴数カ月の初心者

達夫:今日は現像だね。

: 現像では何が必要なのなか?

達夫:そうだね。まずは用品からいこう。現像タンク、メスカップ、ダークバック、フィルムピッカー、撹拌棒、温度計、等かな。

薬品では現像液、停止液、定着液、他には水洗い促進液やドライウェルも有るといいね。細かい物では、まだ色々有るが。

: まず現像タンクなんだが、その名のごとく、この中にフィルムを入れ現像するのかな?

達夫:まず現像タンクなんだが、その名のごとく、この中にフィルムを入れ現像するのかな?

: 撹拌(カクハン)って何?

達夫:現像液をかき回す事だよ。フィルムの近くの現像液は、現像能力が落ちるから、現像液を動かす事で能力を回復させるんだ。

:あとタンクだけれど、どんな種類が有るのかな?

達夫:大きく分けると、樹脂製とステンレス製に分けられる。私が使っているのは、キングパターソン製のタンクだよ。これのいい所は、フィルムの装てんが楽な事かな。キング製よりも現像液が少なくて済むし。

: ステンレス製のいい所って何かな?

達夫:ステンレスだから、丈夫で長持ちする事かな。それと撹拌がタンクの上下をひっくり返す方法で、現像むらが出来にくい。でもフィルムの装てんには、ちょっと慣れが必要かな。装てんする為の器具も有るがね。

: どちらがいいのかな?

達夫:樹脂製の方が液温が変わりにくいので、個人的には好きなんだが。キングパターソン製なら、なんと言ってもフィルム装てんが楽なのがいいよ。初心者にもやりやすい。

: あと現像液は、何を選べばいいのかな?

達夫:これが一番問題なんだよね。基本は、フィルム指定のを使うのがいいね。特にT-MAXフィルムは、T-MAXデベロッパーを使うのがいい。

:フィルムと現像液には、相性が有るって事かな?

達夫:そうだよ。色々試すのもいいが、普通は指定のが一番無難だね。あと現像液には色々な種類が有るんだ。超微粒子現像液や微粒子現像液、また増感する為の増感現像液もある。フジでは、超微粒子が「ミクロファイン」、微粒子が「フジドール」、増感が「パンドール」になっている。目的に合わせて使い分けたいね。もちろんポートレートなら、超微粒子の「ミクロファイン」だね。

: 指定と言っても色々有るんだね。

達夫:ポートレートなら、特別な意図が無ければ、感度が100のを使うのがいい。粒子が細かくなるからね。「ミクロファイン」なら更に微粒子になる。

: それなら「ミクロファイン」だけでも良さそうな気もするが。

達夫:「ミクロファイン」は少し感度が落ちるんだよ。万能では無いんだ。

コダックの標準現像液が「D-76」だよ。「ディー・ナナロク」と呼ぶ。これはMQタイプと呼ばれる。増感にはあまり向かないんだが。他メーカーの標準の現像液も、使われている薬剤はそんなに変わらないんだがね。この現像液は、よく希訳現像される事が有るね。

:希訳って現像液を薄めるのかな?希訳するメリットって何なの?

達夫:希訳現像液は、一回づつ使い捨てなんで、常に新液を使うため、現像が安定しているんだ。それに希訳する液の温度を変える事で一定の温度にしやすいメリットも有る。それにハイライト部が濃くなりづらいし、適度なコントラストが得られるメリットもあるよ。

: そうなんだ。ちょっと分かりにくいけれど。

達夫:実際に試すのが一番いいね。それじゃ現像の準備をしようか。まずタンクとダークバック、はさみも用意する。フィルムピッカーでリーダー部を引き出す。キングパターソンの場合は、フィルムのリーダー部をまっすぐに切る。現像タンクのロールの先端にリーダー部を少し入れる。そうしたらタンクや、はさみをダークバックに入れる。ファスナーを閉めて手をダークバックに入れる。ロールを左右に動かすと、自然にフィルムが巻き取られる。動かなくなったら、フィルムをはさみで切って、タンクに入れ蓋をする。そうしたらタンクをバックから出していいよ。

: 聞いただけでは分かりにくいね。

達夫:これは要らないフィルムで、ダークバックを使わず明るい所で練習すればいいだろう。

次は現像だな。

: やっぱり現像が一番難しいんだろうね。

達夫:これも経験を積むのが一番だね。まず現像液、停止液、定着液を準備しよう。停止液は氷酢酸を水で薄めて作る。液の量は、タンクの容量分をメスカップに入れればいいね。定着液は2回分用意しよう。

:何で2回分なの?

達夫:フィルムにとって定着もとても大切な過程なんだ。定着液の中に、ハイポと呼ばれる物が溶けるんだが、目では見えないからね。だから早めに新液を使わないといけないんだが、その判断は難しいからね。1回目の定着でほぼハイポを取り除き、2回目で完璧に取り除く。ある程度使ったら1回目の液を捨て、2回目の液を1回目に回す。2回目用に新液を使う。

: この方法だと、経済的に効率よく定着液を使えるんだね。

達夫:そうだね。それとフィルムによって定着時間が違うんだ。液が疲労すれば能力も変わるしね。簡単な判断の方法は、フィルムのリーダー部を定着液に半分入れる。透明になったら全部入れる。フィルム全部を入れてから、全体が同じ透明度になった時間が定着時間なんだ。この時間より少し長めにやればいいいね。時間が短いとハイポが残るし、長すぎると悪い影響を与えてしまう。短い時間で済ます為にも、新液を使った方がいい。だから2浴式が理想的なんだ。

: それじゃ現像や停止も2浴式にすればいいんじゃないの?

達夫:停止はアルカリ性を酸性にするのが目的で、使い捨てだからそんなに気にしなくていい。現像は2液にするメリットが無いから1液でいい。ただフィルムのリーダー部でテストするのは、意味が有るがね。

: どういう風に判断するのかな?

達夫:理論的には濃度2.0で透過率が1/100になる時間なんだが、実際はもう少し濃い方がいいね。テスト現像をする事で、大まかな液の疲労度が分かるから、試して損は無いね。

:この濃度は、どうやって確認すればいいのかな?

達夫:まずフィルムを透かしてみて、向こう側が見えなければ濃すぎる。明るい所がかろうじてみえれば、大体いいかな。正確に測るには、入射光露出計を使うのがいいが、無い場合はカメラの内蔵露出計を使えばいい。レンズの前を穴を開けた黒紙でおおい、フィルムで穴を覆った場合と覆わない場合で、シャッタースピードが100倍違うと濃度2.0と言う事になる。

: 少し濃い方がいいのはどうして?

達夫:あくまでも最大濃度が2.0だからね。実際は露出アンダーだったり、コントラストを高めにしたい時もあるんだ。少し濃い方が、今までの経験ではプリントしやすいんだ。だからと言って、濃すぎるのは駄目だ。粒子が粗くなるし、コントラストも高くなりすぎる。

: 過ぎたるは及ばざるがごとしだね。

達夫:それじゃ現像の作業に入ろう。まず液温を測り指定の液温になっているかを確認する。もし低い場合は温める。高い場合は現像時間を短くするか、氷を入れて液温を下げる。

それと時計を用意しよう。現像用の時計が有れば一番いいが、無ければ秒表示の有るタイマーを使ってもいい。ピピタイマーみたいに時間表示が減る方がいいね。現像時間をセットして現像液を入れたらタイマーをスタートする。撹拌は、タンクやフィルムや現像液によって違うが、目安は1分間で5秒撹拌する。
指定の時間になったら、現像液をタンクから出す。
その後停止液を入れる。30秒間撹拌する。
時間になったら停止液を出し、1次定着液を入れる。タイマーをスタートさせて指定の時間定着する。タイマーは加算式の方がいいね。
指定時間の半分になったら、2次定着液を入れる。この時フィルムの定着状態を見てもいいね。定着液を入れると明るい所に出しても大丈夫だから。

: 作業は案外簡単なんだね。

達夫:そうだね。定着が終わったら水洗いだ。この時に水洗い促進剤を使った方がいい。まず水洗いをして、その後促進剤の溶液に入れ、また水洗いする。

: 促進剤を使うメリットって何なの?

達夫:水洗いとは、フィルムの中に残っている定着液やハイポを除去するのが目的なんだ。これを効果的に除去するには促進剤を使った方がいい。水洗い時間も短くなるし、確実な水洗いが出来る。

: 水洗いが終わると、もう終わりかな。

達夫:後は乾燥させるだけだ。フィルムクリップを使って乾かす。この時にドライウェルを使ってもいい。

: それは何の為にやるの?

達夫:水滴の跡を残さない様にするんだ。ドライウェルを使うと、早く乾くしね。

:乾いたら終わりかな?

達夫:後はフィルムをカットして、フィルム用のアルバム等に整理してしまうといいね。

: 一通りやったんだが、ポイントって何かな?

達夫:やはりデータを取らないと駄目だね。現像時間や温度、その他の条件を控えておくといいね。理想的には、テスト現像をやった方がいいね。とにかく最初の内は、同じフィルム、同じ現像液の方が失敗が少ないだろうね。
とにかく経験を積むしかないんだ。経験を積む事で、安定した現像が出来る様になる。
それと自分がどんなプリントをしたいかも確立しないと。私はややコントラストが高いのが好みだから、現像は少し濃いめになる様にしているしね。

: とにかく経験なんだね。

達夫:そうだね。次回はプリントの話をしよう。


    


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