6日目 ハートフィールド

 朝、11時にホテルを出ました。昨日行けなかった「プーの森」へ行くのです。本来であれば今日は家族で「カムデン・タウン」で買い物や散策の予定でしたが「プーの森」はやはりぜひ行きたかった場所です。結果、妻と娘はカムデンへ、自分一人がプーさんの森へ、ということになりました。ぜひ娘を連れて行きたかった所だけに残念でしたが、またいつか一緒に行こうという約束で納得しました。とはいえ、オヤジ一人でプーさんの森へ行くというのはちょっと変ですが(笑)。しかし、そこへ行く目的がもう一つあった訳で、ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズが亡くなった家もそこにあるのです。それにしても今一つ盛り上がらない気持ちをなんとか奮い立たせて出発です。
 BRで、昨日ヘイスティングスからロンドンへ戻ったルートを逆に行くことになります。チャリング・クロス駅について時刻表を見ると出発時間まで50分もあります。今日は日曜日で列車も少な目なのです。仕方がないので駅の構内にある「バーガーキング」でハンバーガーを食べることに(昨日ひどいめにあったバーガーキングは「ヴィクトリア駅」でした)。肉は大きく味は普通。
 ホームのベンチに座って待っていると列車が到着しました。かなりなおんぼろで、隣のベンチに座っていたおばさんが「Ah! ビューティフル・トレイン!」とイギリス人らしくツッこみます。目的地の「トンブリッジ・ウェルズ」までの50分あまり、汚れた窓から田園風景を眺めながら「世界の車窓から」という番組を思い出していました。
 「トンブリッジ・ウェルズ」へ到着。帰りの列車時刻を調べてから、まずはバス乗り場を探します。「291番」のバスに乗れば「ハートフィールド」へ行けるというのはあらかじめ調べてありました。いくつかある乗り場を回り「291番」を見つけました。が、ここで問題発生。なんと日曜日は迂回運転のため「ハートフィールド」へは行かないと書いてあります。では、ということでタクシーに変更。ちょっと料金が心配でしたが、ここまで来て引き返すわけには行きません。おじいさんの運転するタクシーに乗り込み、まずはハートフィールドまでの料金を聞くと「だいたい16から17ポンド」ということでした。さっそく向かってもらいます。道すがら、帰りの足も心配になり、ハートフィールドにタクシーはあるか聞くと、電話をくれれば自分が戻ってくるよ、ということで一安心。到着前に料金メーターは17ポンドに達しましたが、先に見積もってくれたこともあり、そこでメーターを止めてくれました。良心的です。そうでなければ18ポンド以上になっていたでしょう。15分ほど走り到着。運転手から「ここへ電話をしてもらえれば拾いにくるから」と名刺をもらい、タクシーを降ります。
 そこは国道沿いの小さな村で、目の前に「POOH CORNER」というおみやげ屋さんがあります。ここで周辺の地図がもらえるらしいので、まずは店にはいりました。中は予想通りで、ぬいぐるみ(ディズニーのもあり)や絵本などいろんなプーさんグッズがおいてあります。その中で、スケッチの複製がなかなか良かったのですが、値段が書いてなかったのでやめておき、絵ハガキを3枚買いました。地図ももらい、いざ出発です。
 店を出て右へ行くと、国道が2つに分かれて、その右側の道を行きます。国道沿いに5分ほど歩くと左に入る道があります。いよいよここからです。この先は個人所有の牧場の中を通り抜けていくことになります。牧場のゲートがあり、その横にそこを乗り越えるための簡単な木の踏み台がついています。いくつかそういうゲートを越えて行くと、急に視界が開けた場所に出ます。広大な草原で、その真ん中を一人歩きます。最高に爽やかで「Winnie The Pooh♪」と鼻歌なども出ます(笑)。草原を抜けると標識があり、森の中へ入る道になります。緑の木々の良い香りの中をしばらく歩き、とうとう目的地である「プーの棒投げ橋(Pooh Sticks Bridge)」に着きました。

写真上:「Pooh Corner」で買った絵はがき。原作の挿し絵はE. H. シェパードが描いています。
写真2番目:国道沿いの牧場への入り口。ここからスタート。
写真3番目:このステップを越えて広大な草原へ。羊もいました。
写真4番目:草原を抜けると森になります。ここをどんどん歩いていくと「プーの棒投げ橋」があります。


ウェールズへの旅(2)

ラグラン城とクリアウェル城

 カーディフからタクシーで北上。目的地は「OLD COURT HOTEL」といい、ウェールズとイングランドの境界あたりにあります(住所は、Symonds Yat West, Ross-on-Wye, Herefordshire)。途中、一度小さな雑貨屋で運転手が道を尋ね、無事到着。なんとも田舎です。ホテルと言っても、昔農家だったところを改造して作ったらしく、そういった雰囲気は満点です。ホテルの裏の庭には花がたくさん植えられており、その向こうには山沿いの牧場があり、羊が放牧されています。チェックインして部屋へ入ると、そこはまるで屋根裏部屋。天井は梁がむき出しでした。
 このホテルは料理が良く、2泊して食べた物は全ておいしかったです。馬小屋を改築したらしいレストランとバーがあり、夜は近所に住んでいるのであろうお客さんがたくさん来ていました。
 さて、とりあえず何もすることがないので、このホテルの周りを少し探索してみました。近くの林に入っていく道を発見し、どんどん進んで行くと教会がありました。墓地もあります。独特の雰囲気があり、ちょっと怖いです。その先にはきれいな小川があり、小川沿いに歩いていくとキャンプ場がありました。歩いて行けるところはそんなもので、あとは山と牧草地と道路とちょっとの民家です。
 このホテルを選んだのはもちろん良さそうなホテルだったということと、近くにラグラン城とクリアウェル城という、レッド・ツェッペリンのゆかりの地があるからです。という訳で、次の日さっそくタクシーで向かいました。まずはラグラン城。ここは昨日ホテルへ来る途中、タクシーの中からすでに発見していました。道路沿いにあり、標識も出ていてすぐにわかりました。ここは映画「The Song Remains The Same」で、R・プラントのイメージ映像が撮影されたお城です。タクシーには入り口で待っていてもらい、入場料を払いさっそく中へ。廃虚タイプですが外観はほとんど無事で、規模も大きく見応えがあります。当然、撮影された場所を探します。まずはR・プラントによって悪者が突き落とされた堀はすぐにわかりました。堀の水の中には不気味な植物がいっぱい茂っています。ここへは飛び込みたくないです。そして城の裏へ廻ると、シーンの最初にR・プラントが馬で乗りつけた場所がありました。しかしここは急な坂で、とても馬で登れたとは思えませんでしたが。次に塔の螺旋階段を登りました。その途中で下を見ると六角形に石が敷き詰められた、悪者と剣を交えた一画があります。塔を登り切ると屋上(?)に出ました。多分ここは見張り塔だったのでは、と思いますが。ここからは城のほぼ全景とその向こうに広がるウェールズの壮大な景色が望めました。写真を撮ると、それにタイミングを合わせたかのように、鳩が飛び立ちました。
 タクシーに戻り、次にクリアウェル城に向かってもらいます。山の中を走り、小さな村々を通り過ぎ、30分近くかかったでしょうか、到着しました。ここは78年にツェッペリンがリハーサルをしたお城です。ロバートが77年に息子を亡くし、落胆して田舎の家に引っ込んでいた頃、ボンゾが慰めに来て「クリアウェルで曲を作るぞ」と再び活動を始めるべく説得したそうです(最近のインタビュー記事より)。「抱きしめてくれたのはあいつだけだった」という、感動的なエピソードもあったようです。ここ、クリアウェル城でアルバム「In Through The Out Door」へ向けたリハーサルを始めたのです。今は結婚式専門のお城になっているようで、そういった予約がない人は立入禁止です。それでも城の正面まで入ってもらうと、運転手が「予約はしてあるのか?」と聞くので「いいや」と言うと、「それはいかんのよ」あわててUターンして出口へ向かいはじめました。写真を撮りたい、と言って途中で止めてもらい撮影したのがこの写真。
 城見物も終わり、近くにある「モンマス」という町まで行って降ろしてもらう。メインストリート沿いに店があるだけの、小さいけれどなかなか綺麗な町です。今日の予定はここまでなので、食事をしたりブラブラとウィンドウ・ショッピングをして夕方まで過ごしました。さて、帰ろうということでタクシーを探しますが、どこにもいない。店に入って店員に聞いてもわからない、と言う。そこで「シティ・センター」という所へ行き、そこでようやくタクシーを呼んでもらえました。やはりこういうところに流しのタクシーなんていないようです(次の日、ホテルから帰りのタクシーを呼んでもらうと、この時と同じ運転手がまた来ました。タクシーは1台しかないのか?)。
 ところで、ここモンマスでは85年にロバート・プラントが「Skinnydippers」名義でライブをやっていて、お得意のロックンロールのカバー曲をたくさん演っていたのを後で知りました(この時の地下映像も出回っていて、楽しめます)。
 ウェールズの滞在は短いものでしたが、澄んだ空気、濃い緑色の田園風景は忘れられません。ここへ来てみて、ツェッペリン「III」や「IV」はこの土地の空気が充満したアルバムだ、という印象を深めました。またいつか訪れたいものです。

写真上:「Old Court Hotel」の窓から田舎を望む。
写真中3点:ラグラン城。上:外観、中:塔に登る途中から見える中庭のような所(ロバートが悪者と剣を交えた場所。上に見えるのがお堀)、下:塔のてっぺんからの絶景。点々と見えるのが鳩。
写真下:クリアウェル城。ツェッペリンはどこら辺でリハーサルしたのでしょうか。


 この「プーの棒投げ橋」が「プーさんの森」のメインと言えるもので、つまり終点です。親子連れが何組かいて、皆棒投げをやっています。この棒投げというのは熊のプーさんを読んだり、映画(ディズニー版)を観た方ならおわかりと思いますが、簡単な遊びです。橋の上流側から「せーの」で木の枝を川に落とし、今度は下流側に移動して下を見ます。そして誰の木の枝が最初に流れてくるか、を競うというかわいい遊びです。これはプーさんの作者、AAミルンが息子のクリストファー・ミルンと一緒にやった遊びで、これを熊のプーさんの物語として書いたのです。親が子供と一緒にこれをやりたい気持ちは痛いほどよくわかります。子どものかけがいのない時期、プーさんと遊ぶことの出来る時期があり、その時期を子どもと一緒に遊び過ごすことは親にとってもかけがいのない時間なのです。
 さて、自分といえばただ見ているだけです。こんなオヤジが一人で来ているのも変ならば、ましてや一人で棒を投げるわけにもいきません。することもなく川面を見ると、木々の間から差す光が川に反射して幻想的な雰囲気をかもし出しています。川は流れが非常にゆっくりで、というかほとんど流れていないようにも見えます。棒が流れてくるまでどのくらいかかるんだろう、とか思いますが、イギリスへ来る前にたまたまテレビ(世界不思議発見)でこの場所が紹介されていました。それによれば、投げられた多くの木の枝が下流でひっかかり、ダムになって流れをせき止めているらしいのです。でもこのゆっくりさ加減もまたいいなと思いました。
 棒投げ橋を後に、さらに先へ進みます。ここへ来たもうひとつの目的、AAミルンの住んでいた家、その後ストーンズのブライアン・ジョーンズが買い取るもそのプールで亡くなったという家(コッチフォード・ファーム)を見たい、というものです。今は個人所有で見学などは出来ないということなのですが、ちょっと見るだけなら良いだろう、ということで。ただ、場所はおおよそしかわかりません。ちなみに、当時ミックとキースはこの家までブライアンを訪ねて来て、直にクビを言い渡したそうです。どちらがクビを言い渡すかを、2人が棒投げで決めたかどうかはわかりませんが。
 先ほど店でもらった地図を頼りに、ここをこう行けばいいんじゃないか、という適当なカンだけで行きます。プーの橋から先へどんどん進むと国道にぶつかり、そこからハートフィールドに戻る途中にそれはあるはず、という結論に一人で達しました。どんどん歩くと国道近くの駐車場へ着きました。車で来た人はここへ止めるようです。こちらからだと棒投げ橋まで乳母車も通れなくはない道です。
 国道に出て歩き始めましたが、これが危ない。歩道がないのです。いままで歩いてきた距離を考えると、かなりの間この危険な道を歩かなければなりません。もう戻る気もないので、車に気をつけながら道の端を行きます(「この国道は歩道が無く非常に危険なので、絶対に歩かないように」という注意書きがマップに書かれていたのを、後に発見。危なかった。)。
 かなり歩き、小さな橋を渡り(棒投げ橋の上流に位置する橋)地図によればこの道の左にコッチフォード・ファームがあるはずです。が、いつまでたっても見えません。垣根や塀があるのです。看板も出ていません。途中、左に入るあやしい(?)道がありましたが通り過ぎてしまいました。そして、とうとう元の所、つまり「POOH CORNER」の店を出て最初にあった国道の分岐点に着いてしまいました。
 結局、見ることはできませんでした。後で冷静になって地図をみると、どうも自分のルートはコッチフォード・ファームの周りをぐるりと遠巻きにして歩いたようでした(で、どう行けば良かったのかもわかったのですが・・・)。まあ、しょうがない。この後ロンドンへ戻って家族と合流する時間も近づいています。もう一度戻る時間はありません。またいつか来る理由も出来たってもんです。しかし、プーの森だけでも十分来た甲斐がありました。それで満足です。
 さあ帰りのタクシーを呼ばなければなりません。さっきタクシーを降りる際にもらった名刺を出すと、運転所のおじいさんの名前は「BRIAN」でした(ホントです)。もうこれでOKとしよう(笑)。公衆電話からかけるとブライアンさんに直接つながりました。15分ほどしてタクシーが到着、「全部見られたか?」「だいたい」などと話し、電車の出発時間ぎりぎりに駅に到着しました。帰りも17ポンド。20ポンド渡してタクシーを降り駅へ入りました。
 5時前にロンドン到着。友人宅に電話し、カムデン・タウンへ向かう。友人には電話番のようなことをしてもらっていた(申し訳ない)。家族で友人に交互に電話して待ち合わせ場所を確認、おかげで駅前のパブで無事落ち合うことが出来た。パブでまたギネスを飲みながら今度は友人を待つことに。なかなか現れないのでついついビールも進む。
 友人が到着し、食事へ。その後、近くにある友人の会社の見学をさせてもらうことに。最初に書いたように友人は今「JIM HENSON」のスタジオでCGをやっている。受付でビジター・パスをもらい、中へ。いろいろ興味深いものがあり、中でも「ダーク・クリスタル」に使われた2匹のハゲタカ(コンドル?)の実物が無造作に置いてあり、さわれたのが個人的には嬉しかった。その他、次に公開される映画の着ぐるみがドーンと机の上に置いてあったりする。友人が作成中のCGなども見せてもらう。
 スタジオを出て、友人の家へ。家はなんとアビー・ロード沿いにあります(彼もまた、ビートルズ・ファンです)。家へ行く前に、当然お約束のアビー・ロードの横断歩道へ立ち寄る。夜のアビー・ロードは初めてなので嬉しいけど、やはりここは昼の光で見るのがよろしい。ところで、カムデン・タウンのパブでビールを飲み過ぎたようで、頭痛がして気分が悪くなる。これまでの疲れもあるのだろう。とにかく友人宅へ行くが体調は最悪に・・。ソファーでダウン、夜は更けていく。(明日へ続く)

写真上:「プーの棒投げ橋」。棒を投げるには、道すがら落ちている枯れ枝を拾っておくのがルールです。
写真2番目:絵はがき。上の写真の女の子と同じ恰好です。
写真3番目:歩くと危険な国道「B2026」。ちょうどこの左側がコッチフォード・ファームだったはず。
写真4番目:「JIM HENSON」カンパニーの受付近くにあるソファーでカーミットにからまれる。
写真5番目:ビジター・パス。帰る時には返すように、と書いてありました。


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