福永武彦研究『夢のように』(C)1998 Yuichi Toyokura


〜『廃市』をぱくる〜

 福永の小説がどのようなものかを考えるときに、真似て書いてみるのがいいだろうとずっと思っていた。今までそれをしなかったのは、自分が書こうとしていた小説に自信があったからであり、なおかつ福永の書いた小説にくらべると自信がなかったからだ。この溝を埋めようと思う。自分の好きな漫画家の絵をノートの隅に描き写すというようなことから始めようと思う。そういう、くだらないと言われるようなことから始めたい。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.17)

 それで、まず小説の題名なのだが、とりあえず『灰市』ということにしておこうと思う。実際にそういう題名にするわけではないが、そういう題名にして始めたいのだ。ではまったく発音だけのことなのかと言うと、そうではなくて、いくつか理由がある。これを読んでいる人で福永の新潮文庫の本を見たことがない者はいないと思うが、その背表紙が「灰」色だ。火事の話で始まることも「灰」を連想させるし、さらに言えば『廃市』の冒頭にある白秋の言葉が、さながら水に浮いた「灰」色の棺、なのだ。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.18)

 『廃市』の話の発端は「その町が火事になっ」たことだ。「その町」については、あとで考察することにして。火事によって「町並はあらかた焼けた」というのは衝撃的だ。それで「僕」は「古びた記憶を探」ることになったのだから。火事によって失われた町並。けれど僕は、そういう目に見えて失われるものではないものを書こうと思う。目には見えないけど、失われるものを書こうと思う。ただ始まりは「火事」のことにする。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.20)

 白秋の郷里である柳河に僕は何度も行ったことがあるので、『廃市』にあるような町は僕にとって「一度も行ったことのない町」なんかではない。僕の思うそういう町は、静かな山奥の、やはり「廃墟のような寂しさのある」田舎町だ。『廃市』の町には運河があるが、僕の町にはそういう目に見えるものは何もない。というか、普通はあるようなものさえ何かない、そういう町にする。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.21)

 『廃市』の「僕」が、その町に行くのは、「卒業論文」を書くためだ。これはそのままパクろうと思う。僕は卒業論文を書くためにそういうことをしたことはないが、すれば良かったと思う。『廃市』をぱくろうと思ったのは、そういうことをしてみたかったからかも知れない。だから僕が書くのは、そういう経験に基づくものでもなく、行ったことがあるような町を描くのでもなく、つまり全くの空想のようなものだ。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.22)

 『廃市』の「僕」は、「ぶらっと汽車に乗ってその町へ出掛け」て、そしてその町は「遠くに過ぎ去って」いく。その町で青春の一時期を過ごしたのであり、その場所もその時間もどこか一つところに存在している。そこに「僕」を置くことで物語は始まり、そこから「僕」を取り去ることで物語は終わる。そういう現象を福永は一つの小説に閉じこめたのであり、僕もそうしようと思う。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.23)

 ここまで小説についてのイメージが出来たなら、最初の一頁くらいは書けそうだ。『廃市』の最初の一頁は、町を訪れた「その最初の晩」のことを何かの予兆のように書いている。僕は、町を離れる最後の晩を一頁目にしようと思う。僕の町には『廃市』の運河のように時を運んでいるかのような景観はないので、その予兆は突然あらわれるのだ。こうやってパクっていくと、『廃市』と同じ頁数になってしまうような気がするが、しばらく続けようと思う。そのうち、どうしようもなくずれていくことになるだろうから。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.24)

 「それはもう十年の昔になる。」その時僕もちょうど大学生だった。『廃市』を福永が書いていたのは41歳のときだ。僕があと十年も経って、こういう回想、実際には二十年前のことを十年前だと言うような回想をできるかというと、どうか判らない。『廃市』の「僕」は、41歳の福永が十年前を振り返ったものかどうか。だとすれば、その十年前の福永が回想する更に十年前は、二十年前の福永といった場合とどう違うものなのか。ただ、僕は素直に、今から十年前のことを回想するようなつもりで書くことにする。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.25)

 二頁目を考えようとしたら、考えるよりも小説を書いた方が早そうだったので二頁目を書いてみた。あとは、しばらく書き続けてみようと思う。

by Yuichi Toyokura(H.11.10.27)

 町へ

by Yuichi Toyokura(H.11.11.04)

 記憶

by Yuichi Toyokura(H.11.11.05)

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