福永武彦研究『夢のように』(C)1998 Yuichi Toyokura


〜資料室〜

 私、池澤さんが福永武彦さんのご子息だってこと、このあいだ初めて知りましたよ。

池澤
 そう? 昔、吉行(淳之介)さんと石原慎太郎さんと僕と、あと何人かとメシを食ってるとき、吉行さんが石原さんに「君、知ってる? この人、福永さんの子供だよ」と言ったのね。石原さんは知らなかったわけ。彼は『草の花』(福永武彦)のファンなんですよ。「へえー」と驚いたら、吉行さん、うれしそうに「いやあ、言ってみるもんだねえ」って。(笑)

 男の作家って、姓をそのまま受け継ぐことが多いからわかりますけど、池澤さんの場合は……

池澤 両親が離婚して、僕は母についていったんで、姓が違うんですよ。吉行さんも言ってたけど、「息子が作家になる場合、親父のこと言わないよな」って。

 女の作家と対照的ですよね。

池澤 そう。女の人はまず父親のことを書いて出てくるでしょう。

 それがデビュー作になって。

池澤 男の場合は、北杜夫さんだって父親(斎藤茂吉)のことを書き始めたのはずいぶんあとになってから。吉行さんもそんなに書いてない。なんとなく親父というのは煙ったいんです。僕もべつに隠してるわけじゃないけど、父親のことはそんなに書いてないし。

 でも、お父さまがお書きになったものは、よく読まれました?

池澤 読みました。こんなもの書いてる親父だと、あとやりにくいなと思って(笑)。今になって思うと、けっこう負担でしたよね。下手なもの書けないというか。あまり半端な出方はしたくないし。

池澤夏樹、林 真理子 対談からの抜粋 (週刊朝日 H.12.8.11号)

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