福永武彦研究『夢のように』(C)1998 Yuichi Toyokura


〜資料室〜

福岡出身の作家たち

 福岡生まれの作家は数多いが、特に「戦後派」と呼ばれ、戦後の日本文学界をリードしてきた作家の中には福岡出身者が多く見られる。直木賞作家の梅崎春生、アヴァンギャルド芸術を提唱した評論家の花田清輝、そして『風土』『廃市』『忘却の河』などで死後も根強いファンを持つ福永武彦である。
 「私は福永武彦の少年時代の投稿を戦前の九州日報の紙上で偶然見つけ、驚いたことがあります。このときの選者が九州日報の記者だった、かの夢野久作。ふたりの大作家の間にあった不思議な縁のようなものを感じました」と深野(治)氏は言う。
 大正から昭和にかけて活躍した宇野浩二も福岡市生まれだ。大正8年に発表した『蔵の中』で新進作家として注目され、続いて『苦の世界』、『子を貸し屋』などで作家としての地位を確立。その独特の文体は饒舌体と呼ばれた。小説のためなら己も犠牲にしてかまわないという姿勢から、付いた称号が”文学の鬼”。福岡市総合図書館には、宇野浩二の写真約500点をはじめ言行や愛用の時計などが収蔵されている。
 現代に目を移すと、意外に知られていないがベストセラー作家の赤川次郎が福岡の出身だ。また、俳優の米倉斉加年は絵本作家としても独特の才能を発揮。昭和51年に『魔法おしえます』で第13回ボローニャ国際児童図書展子供の本のグラフィック大賞を受賞したほか、『多毛留』が第14回同賞青少年の本のグラフィック大賞に輝いている。完成までに20余年を費やしたという大作『神聖喜劇』で知られる大西巨人、また詩人の那珂太郎も福岡出身である。
 岡松和夫は昭和50年に『志賀島』で芥川賞を受賞した。博多で暮らす2人の少年を主人公に、戦争末期から終戦直後の時代を描いた作品である。物語のラスト、母の死や失明などさまざまな体験を経た2人が、少年時代に眺めた志賀島をふたたび見に行くシーンが感動的だ。

(季刊『わ』 H14.1 福岡文学の新しい地平)

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