チューリップ属の解説は、こちらをご覧下さい。 チューリップがトルコからヨーロッパに紹介されたのは16世紀、日本に初めて球根が輸入されたのは19世紀半ば、栽培が始まったのは日露戦争の頃だそうです。
チューリップ属は約55種(従来は、100〜150種。詳細は、チューリップ属の解説をご覧下さい)から成るそうですが、園芸品種化された種の学名は上記の通りです。ただし、これは、リンネが命名した当時に園芸品種化されていたものに対して付けられたものであり、自生種は存在せず、原産地や、どのような原種から園芸種が作られたのか、その経緯は明らかでないそうです。 園芸品種は、以下の表のように、開花期、花形、草姿などから、3グループ11系統に分類され、更に原種を加えて、4グループ15系統に分類されています。この分類は、オランダ王立球根生産者協会によるもので、1981年に発表されたそうです。
早生 (Early tulips) | | (1)一重早咲き(Single Early) | | (2)八重早咲き(Double Eary) |
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中生 (Mid-season) | |
晩生 (Late tulips) | | (5)一重晩咲き(Single Late) | | (6)ユリ咲き(Lily-flowered) | | (7)フリンジ咲き(Fringed) サムネイルは‘ファンシーフリル’ | | (8)ビリディフロラ(Viridiflora) | | (9)レンブラント(Rembrandt) | | (10)パーロット(Parrot) サムネイルは‘スノーパーロット’ | | (11)八重晩咲き(Double Late) サムネイルは‘ブルーダイアモンド’ |
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原種 (Species、‘Botanical tulips’) | このグループの最初の3つ(12〜14)は、その名の元になっている野生種から派生した群です。しかし、近年の交雑により、グループ化が無意味なものになっています。(英国では、)3〜4月に開花します。 (12)カウフマニアナ(Kaufmanniana) (13)フォステリアナ(Fosteriana) (14)グレイギー(Greigii) (15)その他の種(Other Species) |
開花の早晩について、上記はオランダの分類で、いつ頃咲くものが何に分類されるか具体的なことは分かりませんが、富山県の平年開花日を基準とした分類では、極早生が4月5日以前、早生が4月6日〜4月15日、中生が4月16日〜25日、晩生が4月26日〜5月5日、極晩生が5月6日以降とされているようです。なお、開花期の早晩による分類は、古くは、1601年のClusius(クルシウス)氏(オランダのライデン大学の植物学の教授。ヨーロッパにチューリップを広めたのは、この人だそうです)による分類まで遡ることが出来るそうです。
チューリップは、夏季の高温・乾燥と冬の低温という原産地の気候(ステップ気候)に適応しています。日本では、春(3〜5月頃)に花が咲き、その後、茎葉が枯れますが、球根では養分が蓄積されたり、葉や花芽が分化します。花芽分化の開始時期は、地域や品種によって異なるらしく、早くて6月下旬、遅いと8月下旬から始まるそうです。発根は、10月に始まるそうです。その後、冬の低温に遭遇してロゼット(文献によっては、休眠)が打破された後、春に気温が上がるのに伴ってノーズ(幼芽)が成長を開始し、開花します。営利栽培では、このような成長を人為的に調節する作型を組み合わせることで、ほぼ一年を通して出荷できるような体制が整えられています。
作型 | 球根の植え付け時期 | 開花時期 |
超促成栽培 | 10月中旬 | 11月下旬〜12月下旬 |
促成栽培 | 10月下旬〜1月上旬 | 1月〜2月 |
半促成栽培 | 10月下旬〜11月中旬 | 2月〜3月 |
普通栽培 | 10月中旬〜下旬 | 4月〜5月 |
抑制栽培(アイスチューリップ) | 11月下旬〜12月上旬 −2±1℃で貯蔵 | 6月以降 |
これらのうち、超促成、促成、半促成栽培では、花芽が分化して雌ずい形成期まで達した球根に低温処理(2℃、あるいは5℃で、6〜8週間)を行います(いきなりこの温度に置くのではなく、予冷が必要になります)。これは、チューリップがロゼット(or 休眠)を打破するために低温を要求する植物であって、低温に遭わせないまま生育適温に置くと、葉や花茎が十分に伸長しないためです。人為的に低温に遭わせる処理は、単に「低温処理」とか「冷蔵処理」とかと呼ばれています。 本によっては、「寒さにあわないと花芽分化しない」とか「春化処理が必要」とかと説明されていることがあります。しかし、「春化」とは、「一定期間の低温(一般に、5〜15℃)に遭遇し、その低温の後作用として花芽分化する現象、または、作用のこと」であって、「低温は、間接的に花芽分化に関わる」と言う特徴があります。したがって、開花後の夏に花芽分化し、花芽分化に低温が関わらないチューリップに、「春化」は当てはまりません。一般では、低温に当てれば何でも「春化処理」と言う誤解があるようですが、チューリップの低温処理は、強いて言うなら、「ロゼット打破処理」、あるいは、「休眠打破処理」であって、「春化処理」とは区別した方が良いと思います。 参考までに、チューリップの花芽分化の適温は17〜20℃だそうですが、花芽分化可能な温度の範囲は9〜28℃と広いそうです。しかし、高温多湿では、花芽が発育停止したり、花が奇形になったり、球根が腐敗してしまうそうです。また、花芽分化には球根の大きさが影響を及ぼし、球根が一定の大きさにならないと花芽が分化しないそうです。このため、タネから育てる場合は、開花までに5〜7年くらいかかるそうです。なお、花芽の発達の適温は20℃なので、低温に遭わせた後はこの温度に置くと良いようです。
一般的な栽培では、腐敗防止のために、地温が発根の適温である15℃以下になったときに球根を植えると良いそうです。私の経験では、球根を植えた年内に芽が土から出てくることがありましたが、これについては全く問題ありません。前述の通り、葉や茎の成長のために、十分な低温に遭わせます。花が終わった後は、花茎を残して花殻を摘み、葉が枯れるのを待ってから球根を掘り上げ、冷涼なところで乾燥貯蔵させます。しかし、球根は、毎年新しいものを買った方が良いそうです。
オランダでは、「チューリップ狂時代」と呼ばれる、球根が法外な高値で売られた時期(1633〜1637年)があったそうです。珍しい色合い・模様の花ほど高値で売れたそうですが、その花の模様は、ウイルスによるモザイク病が発症したもので、現在では処分の対象になります。そのため、今日のチューリップより、その時代のチューリップの方が美しかったと言われているようです。詳細は、「チューリップ・バブル」に書いてあります。
追記(2003.5.4.) 春化について加筆しました。
追記2(2004.5.9.) チューリップ属の解説を追加したのに伴い、内容の一部をそちらに移しました。また、内容の一部について加筆・修正しました。
追記3(2008.11.17.) 分類にサムネイルを追加しました。
本棚以外の参考文献
チューリップが好きになる本.北日本新聞社.1990年.
van Scheepen, J. Cultivar groups in the genus Tulipa L. (Liliaceae,). Acta Horticulturae 413: 137-143. 1995.
今西英雄.花卉の開花調節.農業および園芸.第60巻:75〜80ページ.1985年.
樋口春三編著.観賞園芸−花きの生産と利用−.全国農業改良普及協会.1999年.
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